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仕事したくなーい!


「お兄ちゃん、起きて」


という声が聞こえて、パチッと目を開けた、昔から寝起きは良いほうだった。

仁志は起き上がって目の前の少女を見た。

一瞬誰だかわからなかったが、すぐに思い出した。


「元気になった?」


「うん、本当にありがとう……」


そう言って深々と頭を下げてくる少女の頭をポンッと叩いて、俺も立ち上がった。


「飯、つくろうか」


そう言って鍋を見る、昨夜の料理は平らげたので、空っぽだ。

しかし汚れている、このまま作っても、味が移ってしまうだろう。


「近くに川、ある?」


慣れてきたとは言いつつも、仁志の言葉づかいはまだたどたどしかった。

それを気にせずに少女は笑みを浮かべた。


「少し先にあるよ!さっき周りみてた!」


そう言って外へと指を向ける、あちらの方向にあるということだろう、そう考えて頷いて、外に出ると、後ろから少女もついてきた、振り向いて視線を向けると、ニコッと明るい笑顔を浮かべた。

昨日とは打って変わった明るさを見て、本当に良くなったのだと嬉しく思いつつも、戸惑った。


「ついてくる?」


「うん!」


その声に頷いて、川へと向かった。コートを着せて、寒い外へと向かった。

けもの道を歩き続けると、小さな谷がある、下に小さな川が会った。

枯れ葉に覆われた坂を下り、到着すると、川に鍋を付けて擦り洗っていった。

川の水が冷たく、手がすぐに真っ赤になった。


「お兄ちゃんの名前って何なの?」


「仁志、そういえば君の名前は?」


「リーシャだよ、ヒトシお兄ちゃん」


美少女からのお兄ちゃんというものは、舞いあがるものがある。

少し顔を緩ませながら仁志はせっせと洗っていき、ぬめりが取れたあたりでやめた。

鍋を持ち上げて反対にして、溜まった水を川へと流して、坂を登っていく、少し息を荒くしながら到着すると、木々が生い茂る先に、奇妙な生物を発見した。

茶色の半透明な生物、うねうねと自在に動いていた。


「スライム?」


ゲームでみたことがある姿に、思わず口ずさんだ。


「うん、たぶんそうだと思う」


リーシャが背後から仁志へと言った。

振り向くと、さらにリーリャは言葉をつづけた。


「どこにでもいるよね」


さも、知っているのが当然と言わんばかりの口調だった。

見たことねぇ!と混乱するのは仁志だけで、リーシャは厳しい目つきでスライムを睨んでいた。


「何もないし、見つからないようにいかなきゃ」


口ぶりから、危険な生物であることはわかった。

頷いて、歩き始めた瞬間に、足元でパキッという音が響いた。

はじかれるように下を見ると、大きな木の枝が、仁志の足に踏まれていた。

バッと素早くスライムがいた方向を見ると、目はないが、視線がこちらを向けられていることに気がついた。


「早く!」


リーシャの言葉に、反射的に地面を蹴って走り出した、すると後ろで、何かが焼けるような音がした、振り向くと、先ほどまでいた場所が、何かに濡れて、煙を放っていた。

スライムがやったのか!?と驚きながらも必死に足を動かしていった。

そのまま走り続けて、小屋へと到着すると、力が抜けて床に腰を下ろした。

そして気になって、リーシャへと問いかけた。


「……スライムって、どこにでもいるのか?」


「……?うん、下水とかにも生息しているって」


酸みたいなものを吐く生物が、どこにでもいるだって?なんだここは!?

意味不明な異常事態に、仁志は頭を抱えて、うんうんと唸った。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


顔を上げると、心配そうなリーシャがいた。

――とりあえず、小さな女の子の前では普通にふるまわなければ。

まだ余裕のあった仁志は、笑顔を向けて、


「ごはん、作るか」


と言って、立ち上がり、材料をあさった。

米を炊きたいところだが、蓋がなくても大丈夫かわからないので、今回は断念することにした。

その代わり、昨日の残りのうどんがある、味噌もあるし、味噌煮込みうどんかな、と考えて、消えかけていた炎へと、プリントを燃やし、薪を追加して炎を強めると、水を張った鍋を置いて、料理をしていった。

鶏肉を使いたいところだが無い、豚こまを代用することにして、味噌を溶き、みりんはないので砂糖のみでいいかと、砂糖を溶かし、白菜などを引きちぎって放り込み、ごぼごぼと沸騰したところにうどんを入れた。


「これ、なに?」


うどんの加減のを探っていると、味噌を指差してリーシャが問いかけてきた。


「味噌」


「ミソ?」


「大豆調味料、少し……手につけて口に入れて見れば?」


そう仁志が言うと、こくんと頷いて、リーシャは手の平に少し付けて、口の中へと放り込んだ。


「しょっぱい!……でも、おいしいね!」


「そうか」


うどんがもうじきといったところで卵を投入する、それがうっすらと固まったところで火から上げて、用意してあったお椀へとうどんを入れて行った。

温かい湯気を放つお椀を手渡し、手のひらを合わせてから食べ始めると、リーシャはそれをみて、真似するように手と手を合わせて、食べ始めた。


「おいしい!」


「そうか」


半熟卵を割ると、とろりとした黄身がうどんと絡まり、啜っていくと、味噌のすっきりとした味が、黄身によりコクのある味へと変わり、口の中いっぱいに広がった

リーシャを見ると、かきこむように食べていた。


「おかわりは?」


「いいの?」


昨日あれだけ食べておいて何を、と思いつつ頷くと、リーシャはパァッと顔を輝かせて、お皿を差し出してくる、それを受け取り、盛り付けて手渡しすると、再度かきこんでいく、朝なのに良く食べるやつだ。


「一つ聞きたい」


仁志がそう言うと、リーシャは食べるのを止めて、お皿を床へと置いて、お箸をお皿へと載せた。


「うん」


「ここはどこだ?」


「国は、アラネットだよ」


しょっぱなから知らない名前で、頭が痛くなったが、頷いてさらに問う。


「街へは、どういったら?」


すると、とたんにリーシャの顔色が悪くなった。


「……行くの……そう、だよね」


「とりあえず知りたいことがあるし……リーシャちゃんはその……家族は?」


「捨てられた」


サラッとドギツイことを言い放たれた。

リーシャは真顔で、すでにそのことを思い出すのは慣れているようだった。


「……そうか、それじゃあどうしたい?」


仁志がそう言うと、リーシャはパッと顔をあげて、仁志をまっすぐと見た。


「お兄ちゃんと、いっしょにいても……」


「俺もよくわからない状況だからね、どうなるかわからないから……警察とか……孤児院とかあれば、そっちのほうが安定してるけど……」


「……嫌、ですか?」


「いや、ただ単に俺がどうなるかわからないというだけで、安定できればいいんだけど……」


そもそも、高校で養子はできないだろうと、仁志が考えていた。


「安定したら、一緒にいてもいいの?」


ぐいぐいと来るリーシャに、押されていく仁志だった。

そして遂に、


「まぁ、いられるなら、いくらでも」


「やったぁ!」


押され切って頷いてしまった。

リーシャの輝くような笑顔を見て、訂正するのも憚られた。


「とりあえず街にいこう、どっちかわかるかな?」


「たぶん、川の先に……」


リーシャの言葉に、そういえばと思い出した。川を下って行けば街があると言う話を聞いたことがあった。


「じゃあ、いこうか」


そう言って周囲の荷物をまとめ上げ、自転車に乗せて川へと向かう、周囲を警戒するが、スライムは見えず、川の見える範囲内で、下り始めた。

ここは、山のようだ。

思い自転車はかなりの足かせではあったが、自然を抜けて下りきると、野原が広がっていた、乗って走れそうだ。

周囲を見回す、昨日見た山が続き、野原はどこまでも続いていた。


「後ろに乗って」


「うん」


リーシャへと声をかけると、素直に頷いて、後ろへとよじ登り、自転車の後部についた席へと座った。

ぐっと足に力を入れて、地面をこいでいった。

舗装されていない道はガタガタと振動した。


「あの、お兄ちゃん、抱きついてもいい?」


「え? あ、あぁ」


リーシャの言葉に頷くと、腰回りに力が加わった。

しかし、この女の子は俺に何故こんなにも懐いているのだろうか、自分で言いたくはないが、俺の顔は化け物だ、水木茂の描いた妖怪を思わせるほどに、不気味で、殴られたようにパンパンに腫れているのだ、小さな女の子なんて、見ればすぐに泣いてしまうだろう、助けたということからだろうか。

しかし、それを問いかけるのは嫌だった。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「ありがとう」


「あぁ」


そっけない態度で返す、しかし、仁志は笑みを浮かべていた。

そして強くペダルを踏みつけ、ぐるぐると回す、そうすればそれと比例して、自転車の速度はぐんぐんと上がった。

――まぁいいか。

そう割り切って、仁志は空を見上げた、雲ひとつない空では、まばゆい光を放つ太陽がてっぺんにあった。


街へは、次の次です。


美醜逆転はギャクの色合いが強いけど、ほのぼのとできたらいいなぁ


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