天使
「お母さん、今日ね、私、天使を見たの」
娘からの言葉は、最近良く聞くニュースを思い出させた。
天使が視える人が増えているという話だ。
「へぇ、どんな方だった?」
「えっとね、ブロンドで、羽根がはえていて、美人な女の人だった」
「すごいわねぇ」
ニュースと同じだ。
西暦3001年、人類は宇宙へ行けず、相変わらず地球という狭い閉鎖空間で、地道に生き延びていた。
科学技術がいかに発展しようと、特に何も変わらずに、人類はここ1000年を過ごしていた。
だから、この第3ミレニアムと呼ばれる3000年台は、何かを変えようという話になるのは、ある意味当たり前かもしれない。
その一環で、天使という話が出てきたのだろう。
「なにか、天使さんは話していた?」
「なんかね、本を探してほしいって」
「本?」
何の本かを聞いてみる。
「“神の真意”だって」
「神の真意……たしか、書庫にあったわね」
私が思い出すと、書庫を見に行く。
後ろから娘もついてきた。
「えっと、神の真意……ああ、これね」
確かに、その本はあった。
数年前、古本屋で買った初版本だ。
だれも買ってくれる人がいなかったらしく、長い間おかれていたらしい。
私は、その表紙の豪華さに惹かれて買ったのだが、ずいぶんと忘れていた。
娘が生まれるより、何年も前の話だ。
「特に何かあるってわけじゃないわよね……」
一通り読んでみたものの、なにもおかしい点はない。
「なんだろうね」
娘に顔を合わせると、娘はいなかった。
代わりに、台所で物音がした。
私は本を本棚に戻すと、台所へと向かった。