第四章:クロエの生活 第一節:總大理石のショーケース
東京・灣岸エリアの夜空を貫く超高層タワーマンションの最上階。下界の喧騷から完全に遮斷されたその部屋の最深部に、世界的なスーパーモデルであったクロエの「新しい生活」のすべてがあった。
床も壁も、冷徹なまでに白く磨き上げられた總大理石造りの監禁室。
新ボスから三千萬ドルという天文學的な金額でクロエを買い取った新たなオーナー・黑崎は、ビジネスマンとしての新ボスとは異なり、異常なまでの「完全無缺への蒐集癖」を持つ男だった。
「素晴らしい。今夜も君は、世界で最も美しい私の資產だ」
夜、黑崎が重厚な電子ロックを解除して部屋に入ってくる。
そこに立つクロエは、南アフリカから連行された時と變わらぬ、傷ひとつない「綺麗なままの姿」を維持させられていた。新ボスの施した徹底的な商品管理により、彼女の絹のような肌も、完璧な骨格も、ランウェイを魅了した美貌もそのままだった。
しかし、その首には、黑崎の組織が開發した鈍い銀色に光る「電子の首輪」が常に嵌められている。
「さあ、今夜のポーズだ。パリの春のコレクション、あのラストシーンの立ち姿を見せてくれ」
黑崎の命令に、クロエは感情を完璧に殺した顏で、ゆっくりと兩手を腰に當て、視線を一點に固定する。
暴力は振るわれない。傷はつけられない。しかし、その「綺麗なままの生活」の實態は、肉體の破壞よりも凄慘な、精神の完全な去勢だった。




