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第四幕:怪物の膂力(りょりょく)
「美波を返しなさい」
エレーナの細い指先が、ドレスの裏から引き拔いた小型拳銃の引き金を絞ろうとした、まさにその刹那だった。
――ドンッ、と空氣が爆ぜるような衝擊。
新ボスは動いたことすら分からぬほどの速度で閒合いを詰めていた。男の分厚い手の平が、エレーナの構えた銃の銃身を、橫から容赦なく叩きつける。
金屬の軋む嫌な音とともに、拳銃はエレーナの握力を完全に無視して、大理石の床へと虛しく彈き飛ばされた。
「ぐっ……!?」
衝擊でエレーナの華奢な手首が異常な方向に折れ曲がり、銳い激痛が走る。
ランウェイで世界を魅了したトップモデルのプロポーションも、新ボスにとっては「ただの脆い肉の塊」に過ぎなかった。男は痛みに顏を歪めるエレーナの長い髮を掴み、そのまま壁へと强引に叩きつけた。
「モデル風情が、銃の扱いも知らずにこの私に牙を向くか。前ボスの女といい、お前たち表の人閒は、自分の價値を勘違いしすぎている」
新ボスの冷徹な聲が、至近距離でエレーナの鼓膜を震わせる。彼の首筋に殘るケロイド――美波が命がけで刻んだ傷跡が、不氣味に波打っていた。男の體躯から放たれるのは、日本の極道組織を力でねじ伏せ、南アフリカの荒くれ者どもを金と恐怖で從えてきた、本物の怪物の威壓感だった。




