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告白できるまで家に帰れません  作者: 嵯峨野広秋


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理解不能

 あきらかに暑いからじゃない汗が出た。

 ひたいからツーッと鼻筋をとおって口まできたやつを制服のソデでぬぐう。


 制服。


 半袖だ。さっきまでブアツい生地の冬服だったのに。


 いや、やばいだろこれ。まじな話。


(二年前……ってことは高一か)


 入学祝いのスマホもピカピカで、ロック画面はデフォルト表示。

 そして気持ち、体がちっちゃくなった感覚がある。

 ここから高三までに、五センチぐらいのびたからな。


(どーする!?)


 って、やることは一つか。



「おはよー! トモちゃん!」



 幼なじみが正門のワキに立つおれを見て、シャッと片手をあげた。

 思わずガードがゆるんだあいつのワキに目がいったが、そんな場合じゃなく。


「ちょっとシー。だれぇ?」

「私の幼なじみ」

「あー。あの子なんだ」

「意外とあどけなくない?」

「ちょっ! アンタそれふつうに失礼だから!」


 どっ、と詩愛(しあ)がいっしょに歩いていた女子の集団が笑った。

 あいつだけが、笑ってない。

 タタッとこっちにくる。


「……ごめんね。きこえた?」

「まる聞こえ」

「あはは……だよね」

「でもわるい気しない」

「そう?」

「おれ……たしかにガキっぽいもんな。おまえとちがって」

「トモちゃん」


 出会って早々、雰囲気がよくない。

 とてもじゃないが告白なんかできない。

 とりあえず、放課後に約束するか。


「シア。あの……なんていうか……大事な話がある」


 二回、目をパチパチっとした。

 さすがにおどろいてるようだ。


「え、えー、な……なんだろ……」

「二人だけになりたいんだ。場所はラインする」


 わかった、と言って詩愛は友だちのところへもどった。

 なんか冷やかすようなことを言われてるみたいだが、おれの耳には入らない。

 すでに頭がいっぱいだった。



「よーハクちん。どした、朝から『考える人』みたいなポーズして」 



 一年のときの友だち、神田。

 ボサッとした髪にひょろ長い体。

 中一から彼女がずっと切れてない、まじもんのリア充。


「カン。おれに告白の仕方をおしえてくれ」

「告白? すんの? だれに?」

「幼なじみ」

「勝ち目は?」


 おれは目で返事した。

 神田は首をふった。


「なーハクちん。今日び、告白は確認作業よ。イチかバチかはおれらの親の世代がやったやつさ」

「……でもするんだよ、おれは」


 そんなおれたちの会話をきいて、

 となりで机につっぷして寝てた(朝礼前なのに)女子がひょこっと顔をあげた。



「面白そう」

 


 その声は寝起きみたいで、わずかにかすれていた。

 長い髪が不規則に顔にたれかかっていて、ゆっくりした指のうごきでそれを直す。


「おまえ、セックスしたあとじゃねーんだから」

「うるさい」


 ばっ、と右手でこっちに何かを投げつける動作。

 神田は、なにも投げられてないのにかわず動作。


 思い出してきた。おれの一年生を。


 おれと友だちの神田と、席替えしてもずっとおれのとなりだった女子。


 ―――葉月(はづき)さんだ。


「キミもジロジロみない。女の子にきらわれるよ?」

「あ? ああ……いや、そういう意味で見てたんじゃなくて」


 不思議な思いだった。

 もう会えないはずの人間が、ここにいる。


 彼女はこのあと二学期から休みがちになって、退学したんだ。


「なあ葉月さん」

「どうした少年」ああ。そういや、こんなふうにおれを呼んでたなー。「私で告白の練習ってか?」

「女子の友だちつくろーぜ」

「は? どういう意味?」

「そのほうが学校たのしくなると思うから」

「よけーなお世話だよ」

「そうだけどさ」


 葉月さんはまた机につっぷした。

 おれは知ってる。

 二学期の席替えで席がとおくなると、おれたちと彼女はほとんど話さなくなって、まるで()に学校きてるみたいになるんだ。

 もっと話しかけてればとは思うけど、まさか学校をやめるなんて。

 もしかしたら、親しい友だちができたらなんとかなるか?


(人のこと気にしてる場合じゃねーけど)


 放課後になった。

 席をたつ前に、おれはとなりで寝てる女子に声をかける。


「なあ葉月さん」

「…………あーねむ。だるー。ガッコつまんな」机の上で組んだ両手にアゴをのせていう。

「あのさ、いろいろしんどいことはあるけど、やめずにがんばってみようぜ」

「なんの話? こっち寝ボケてんのに。説教?」

「少なくともおれは、三年間がんばってよかったと思ってる。ときどき、サボりたいときもあったけど」

「……」ぐりん、と首の運動だけでこっちに向いた。「キミいいやつだな。少年。でも『三年』てなにさ。中学のこと?」

「高校。バリバリ高校。おれタイムリープして未来からもどってきたんだ」


 スッ、と葉月さんは立ち上がった。

 つられておれも立った。


「面白い。このうえなく面白いよ。神田のエロガキにはもったいないね」

「いやカンはいいやつだよ」

「いいやつねぇ……あいつ、そのうち絶対オンナでいたい目みるよ」


 ご明察。

 やばい先輩の女と遊んで文字どおり〈いたい〉ことになった神田。

 あの青タンにはビビったな。しばらくしたら回復してたけど。


「デバイスみして」

「え?」

「タイムリープしてんなら、なんか道具つかってんでしょ? クルミとか」


 あ。

 これはいかん。めっちゃ詰めてくるタイプの人だ。

 おれだってわからないことが多いのに、かりにぜんぶ説明したところでムダな努力だよな。


「ごめんウソ。ナシナシ。そんなワケないし」

「白旗あげやがった」にっ、とくちびるを斜めにあげる。長い前髪が目をかくすように垂れ下がっている。

「じゃあおれ行くから。また明日な。学校には来いよ?」

「いくな少年。もっとおしゃべりしよーぜ。ここにいろ」

「いや……まじな話」

「告白中止。私じゃダメか?」


 チャイムが鳴った。


 数秒、おれたちは見つめ合った。


 向こうは前髪ごしの目。


 えっと――葉月ってこんなだったっけ?

 こんな、カルいというか……遊び感覚で男子とどうこうなんてしないと思ってたが。


「……」

「じょーだんだよ。少年」


 ダルそうにターンして、手首の骨が折れたみたいなブラブラのバイバイ。


 おれは彼女を追いかけて廊下に出た。


「まじで。学校をやめるっていうのだけ、よく考えてっつーか、おれ、おまえには退学してほしくなかったんだ」

「過去形アンド『おまえ』呼び」


 ずずい、っと葉月さんは猫背でおれに接近する。


「フシギだね。やっぱり未来からきた気がする。で、きっと未来じゃ、ガッコをやめた私がよくないことになってんだろーね」


 おれはだまった。

 そのとおり、風のウワサでよくないことを耳にしたが、とてもここでは言えない内容。


「おおかたウリとかクスリとか、だいたい想像はつくよ」

「ノーコメントで」

「よし! わかった! 少年。やめないでおく。けど責任はとれよ?」


 ああ、と返事。

 そりゃおれだって、それなりに責任感はあるさ。


(やば! 遅刻だ)


 幼なじみを呼び出したのは食堂前のテラス。

「まだなの?」のラインがきた。 

 おれは急いだ。



「トモちゃん」



 片手をあげる。

 近くには二人、男子がいた。あいつと同じクラスか同じ部活の男子だろう。


「もー! あっちが先約なの!」


 引きとめようとする彼らに詩愛(しあ)が言う。


「場所かえよ。大事な話……なんだよね?」


 と、おれの前を歩く。

 ファサッ、ファサッ、とショートの黒髪が天使の輪をつくりながらゆれる、


「このへんでいいよ」


 うしろからおれが声をかけると、立ち止まった。

 体育館につづく廊下。

 ちょうど今は、生徒が途切れててだれもいない。


「シア。おれ」

「あー! ちょっ! ちょっとまって。心の準備。三秒」


 いち、にい、さん、と小さい声でつぶやく。

 こういうとこは、かわいい。

 おれはこいつの好きなとこが、いくらでもある。


 なんだっておれは……さっさと想いを伝えなかったんだ?


「シア。おれと、こんなおれでよかったら、つきあってくれ」


 答えははやかった。

 はやすぎて、おれの頭ん中で逆にスローモーションになった。

 0.3倍速。声が、こいつの頭を下げる動作とともに。



「ごめんなさい」 



 ちょっと記憶がとんだ。

 まじな話。

 気づいたら電車の中だ。


(あれ……これってなんかそういう、成功のフラグがたってるやつじゃねーの?)


 勝手な思いこみか。

 や、そもそもおれには、幼なじみに告白してもうまくいく自信なんかなかったけど。


(どうなってる? たしか『告白できるまで家に帰れない』みたいな話だったよな?)


 家、あるぜあそこに。

 もう帰りたい。へとへとだ。


 ため息をついて目をつむった瞬間、



(学校――――!!!??)



 まただ。またこの現象。

 スマホをみた。

 四月? 二年の?


 おれは頭をおさえた。

 クラっとめまいでも起こしそうだ。


 いやいや。おれちゃんと告白したんだけど。



知己(ともき)ーっ!」



 名前が呼ばれた。

 ふりかえった。

 そこにいたのは美人。きれい系な女子。

 でもどっかで……


「いこ」


 当たり前のようにおれと腕をくんだ。

 至近距離でみる顔。

 目の前にスダレのように垂れていた髪が、フラッシュバック。

 あの髪を今してるみたいに編みこんでサイドに流せば、おそらくうりふたつ。

 ってことは、


「葉月……さん!?」

「なーに名字呼びとか。ネミって呼んでよ」


 なんで?

 おれたち、つきあってもいないのに。


 こんな距離感。バグってない?


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