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近衛騎士と妹  作者: まる
第二章

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14/18

距離は近くに


私とフィルの婚約は魔王が討伐されたという知らせと共に発表された。お祝いの言葉をいろんな方に述べていただいて、嬉しかった。


あの日、お姉さまが婚約を悩んでいる私の部屋にきて語ってくれたのはフィルがどれだけ私との婚約のために頑張ったのかという話しだった。


才能もあると思うわ、でもそれだけじゃ歴代最年少で決闘大会の優勝はできない。どれほどの研鑽を重ねたのかしら。全部あなたのためよ、と微笑むお姉様に、私は心を決めた。


婚約を発表したからと言って何かが大きく変わったわけではない、と思っていたけれど大きく変わった。


「フィル、近いね」

「そうですか?」


隣に座っているフィルに居心地が悪くなる。フィルは私への距離感が明らかに変わった。以前よりずっと近い。


フィルは今日非番だ。私との婚約が発表されると同時に、フィルはお姉様の近衛から外れた。次期騎士団の団長になるためでもあるし、私と婚約しているのに、お姉様の近衛だと動きずらいというのがあるらしい。


聞いた時はお姉様の近衛から外れたのは残念だな、という気持ちだったけど、近衛から外れたフィルには非番というものができた。前もあったけど、前よりずっと多い。その非番をフィルは私と一緒に過ごそうとしてくれている。

ありがたいけれど、ずっと近くで刺繍しているのを見られたりするのは緊張するし、そんなことをしていてフィルは楽しいのかと疑問に思ってしまう。


「…フィル、お茶にしようか」

「はい」


フィルの視線から逃れたくてそう提案するとフィルは素直に頷いてくれる。レオンとレーナはフィルが部屋に訪ねてくるようになってから席を外してくれるようになった。

二人の目がないこともフィルの距離が近い原因かもしれない。椅子から立ち上がって鈴を鳴らすと、レーナが静かに入ってきてくれた。外で待機していてくれているのだ。


「レーナ、お茶を。良ければ一緒に飲もう」

「かしこまりました」


レーナが一礼して出ていくのを見送ると、またフィルと二人きりになってしまう。椅子に座るの嫌だなあと思いながら振り返ると、フィルが私の顔を見て首を傾げて微笑む。

その微笑み方が優しくて、私は自分の胸がちょっと痛んだ。フィルの隣を嫌がるなんて間違っている。


フィルの隣にちょっと間を空けて座る。刺繍を片付けるために手に取ってレーナが用意してくれた木箱に入れた。


「その刺繍はどうするんですか」

「フィルにあげる。いらなかったら」

「いります」


その食い気味な返事に笑うとフィルが憮然とした顔になった。


「これから私が作るものは基本的にフィルにだよ。もう婚約もしたから」


私の将来が決まってしまったから私はこれからフィル


そうですか


ちょっと嬉しそうなフィルに安心する。以外の男性に手作りのものを渡すことはないだろう。そう思うと不思議な感じがした。恋というものをしてみたいと思っていたわけではないけれど、こんなに早く将来が決まってしまうとは思っていなかった。


「そうですね」


フィルの声が優しく部屋の中に響いて、その響きに顔をあげる。フィルが微笑んでいて、まあフィルが嬉しいなら私も嬉しいし、いっか、という気持ちになった。早くに将来が決まってしまうことはいいことかもしれない。そう思っていると、レーナが扉を開けて入ってきた。


「ジョゼ様、シュレル・レルリウス様からお茶会のお誘いが届いております」

「シュレル様から?」


シュレル様は公爵令嬢だ。あまり公の場は得意ではないらしくこないだの魔王討伐の祝賀会にも参加されていなかった。珍しい、と思いながら手紙を受け取ると明後日の日付が書かれてある。


「明後日だ」

「私も行きます」


隣からすぐにそう言ってくるフィルに笑ってしまう。フィルはそんなにふらふらしていていい人間ではない。


「ダメだよ。フィルは仕事でしょ」

「非番を取ります」

「レオンがいるから大丈夫。レーナ、参加しますと返事をしておいて」

「わかりました」


不満げな雰囲気のフィルを無視してそういうと、レーナがすぐに動いてくれる。また二人きりになってしまった。フィルの方を向いて、その手をとる。


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」

「…気をつけてください」

「わかった」


フィルに頷いて見せると、フィルも頷いてくれた。そのまま引き寄せられて抱きしめられる。フィルって意外と体温が低いな、と思った。


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