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近衛騎士と妹  作者: まる
第一章

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12/18

求めるものは


お姉様とフィルが魔王討伐に出かけて一ヶ月が経った。その間に緊急の知らせは届いていない。緊急の知らせが届いていないと言うことは二人はまだ無事に生きていると言うことだ。


「ジョゼ様、そんなに毎日祈りを捧げていると風邪を引きます」

「ありがとうレーナ。でもそれくらいしかできないから」


お姉様と毎日来ていた教会で祈りを捧げることを続けている。逆を言うとそれしかできていない。毎日体を清めて祈りを捧げる。私が遠くの地からできることはそれくらいだ。二人が無事に監視塔のある屋敷にたどり着いたという報告はお父様と一緒に受けた。


それから二人が魔王城に向かったという報告は私には知らされていない。お父様とかレドルの配慮なんだろうと思う。私が動揺しないようにだろう。


「お二人は無事に帰ってこられますよ」

「私もそう思うんだけど、なんとなく落ち着かなくて」


本当に私もそう思っている。レーナから飲み物を受け取って両手を温める。二人はきっと無事に帰ってくるだろう。でも何もしないのも落ち着かない。教会から自分の部屋に帰ってくると、毎日レーナは温かい飲み物を用意して待っていてくれている。レオンと一緒にその飲み物を飲むのが習慣になった。


「レオンも毎日ありがとう」

「お礼を言われることではありません」

「お姉様とフィル、何してるんだろう」


窓から見える空は青く澄み渡っている。二人のことを考えない日はない。その時、扉がコンコンとノックされた。レオンが飲み物を置いて扉に近づいて外を窺う。外にいた人物がレオンに話しかけているのがわかった。何かの伝言だろう。


「ジョゼ様、ジョルナ様がお戻りになる日が決まったようです」

「本当?嬉しい!いつ?」

「今です」


そう言ってレオンがイタズラっぽく笑う。私がその言葉を聞いて急いで部屋から飛び出すと、そこにはお姉様とフィルが立っていた。二人とも出発した時と同じ服装で、怪我をしているようには見えない。


何も言えずにお姉様に抱きつくと、お姉様の体が揺れる。それでも倒れ込みはせずに体を支えてくれた。


「無事でよかった」


口から出た言葉にお姉様が笑った気配がした。本当に心の底から喜びが湧き上がってくるようで、いても立ってもいられなくて私はその場でお姉様から離れて飛び上がった。


「なんで!みんなは知ってたの?」

「私がジョゼには秘密にしてって言ったの」

「なんで!」

「喜ぶ顔が見たいからよ」


お姉様がそう言って笑う。その言葉にもう一度お姉様に抱きつくと、お姉さまは優しく背中を撫でてくれた。一旦離れてフィルを見ると、フィルも傷ひとつおってなさそうに見えた。魔王だからそれなりに強いと思うのに、フィルとお姉さまはすごい。


「フィル、怪我は?」

「怪我はないです」

「よかった」


もうお父様やレドルは二人の帰還を知っているのだろうか。


「レオン、お父様やレドルは」

「これから王陛下に謁見です」


レオンじゃなくてフィルが答えてくれた。謁見の予定が決まっているのならお父様とレドルはもう知っていたのだろう。驚かそうと思っていたにしても徹底している。


「ジョゼ様、ジョゼ様も王陛下にお呼びになられています。お着替えを」


レーナの言葉に驚いてしまう。お父様が私を呼んでいるなんて知らなかった。今日は知らないことだらけだ。


「それじゃあ、あとでね」


お姉様がそう言って私の部屋の扉がレーナによって閉められた。隙間から見えたフィルが私のことを見ていたから目を合わせて笑っておく。フィルはにこりともしてくれなかった。





「今、なんと」

「ジョゼ、聞き間違いではない。フィルは褒賞におまえを望んでいる。どうする」


一段高い場所、玉座に座っているお父様の言葉が信じられなくて不敬だとわかっているのに聞き直してしまった。お姉様とフィルの謁見が済んだあと、私はお父様に呼び出された。


二人が無事に帰ってきてくれてよかったと言う私にお父様は渋い顔をしていた。どうしてそんな顔を、と思っていると告げられたのはフィルが私のことを褒賞として望んでいると言うことだった。


魔王討伐は偉業だ。讃えられて銅像が作られる。お姉様とフィルの銅像も作られるだろう。魔王討伐の褒賞も破格のものだ。本人が望むものが与えられる。それでも信じられなくて、お父様のことを見つめた。


「フィルが」

「そうだ」


ぎゅっとドレスの裾を握る。フィルが私のことを褒賞に、と言うことは妻に望んでいると言うことだ。妻、いつか自分にも誰かの妻になる日が来るだろうと思っていたけれど、予想よりもずっと早い。


「妻に」


壊れたように繰り返す私をお父様は気の毒そうに見つめた。


「嫌ならば断ってやることもできる。フィルも無理矢理にとは望まないだろう」


お父様の言うとおりフィルは私に無理にとは言わないだろう。フィルの顔を思い返しながらそう思った。褒賞に私をと望んだのももしかしたら私のためかもしれない。どこにも嫁にと望まれなかったら可哀想だとかそういうやつ。


「少し、考えさせてください」

「ああ。そうだろうな。しかしいつまでもは待てん。明日までだ」

「わかりました」


フィルの妻になると言うことはフィルの妻になると言うことだ。ぼんやりとフィルの隣に立っている自分を想像してみるけど想像がつかない。フィルと私の子どもを想像しようとして、できなくてやめた。


玉座の間から外に出ると、廊下でレオンが待っていてくれていた。その表情が気遣わしげなものに見えて、私は自分の表情が硬いことに気づく。両手で頬を挟んでムニムニと動かしてみる。そうしていると、廊下の向こうからフィルとお姉様が歩いてくるのが見えた。


フィルは私の方を見ない。その態度に、本当に私を望んだのか疑問が湧いてしまう。お父様とレドルが私たち二人をくっつけようと、というか何もできない私をフィルに押し付けようとしているのではないか。


「レオン、行こう」


そう声をかけてお姉様がきている方向とは逆の方向に歩き出す。答えを出すまではフィルと話すと動揺するような気がした。




「どうしよう」


部屋の中でぐるぐると歩き回りながら考えても答えは出ない。レーナにもレオンにも外に出てもらっている。大事な決断は一人でした方がいい。そのほうが誰にも責任を負わせないで済む。


恋愛結婚ができると思っていたわけではない。私も王族の端くれだから、国にとって利益になる結婚をすると思っていた。でも、結婚のことで悩むのはもっと先だと思っていた。


フィルとの結婚は国のためになるんだろうか。ていうか結婚早すぎるでしょ。フィルは私のことどう思っているんだろう。そんなことが頭の中をぐるぐるしている。うーん、と頭を抱えているとコンコン、と扉がノックされた。


「はい」


返事をすると扉が開かれる。そこにいたのはお姉様だった。


「お姉様」

「ちょっといい?」


お姉様は私に微笑みかけてくれた。

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