表の戦略と裏の工作
「ぶっ潰してやりましょう!」
エドガーの宣言は、明らかに個室の士気に影響した。
「シルバー様、お力添えいただけるのですか!?」
アリシアが身を乗り出して尋ねると、エドガーは頷いた。
強力な援軍の登場だ。
オリバーのような卑劣漢を叩くには、オリバーよりも力のある男性側の協力が不可欠だ。
そしてこのような話題について、力のある貴族は大抵腰が重い。
アリシアたち女性だけでは突破が難しかった課題が打ち砕かれようとしていた。
「ええ。医者として、これまで多くの女性患者を診てきました。その中には言葉にできないほど辛い経験をされた方々も」
エドガーは一度言葉を切り、拳を握った。
「女性に生まれただけで何も悪くないのに、権力を持つ男性に遊びで傷つけられる。
そんな理不尽を、僕は見過ごせません。
そのために貧しい方向けの無償診療もしているし、クリニックにかかることはライトなことだと分かってもらえるように広告も……ド紫は今度変更しようと思いますが……。
ですので、この復讐は僕にとってもとても意義のあることです」
「エドガー、格好良いじゃない」
レイナルドが感心したように言う。
ミアもアリシアもこくこくと頷く。
エドガーは頬をかきながら照れたように笑って言った。
「それに、前回のコーヒーハウスの件でグレイ嬢には恩がありますしね。
あの時に得られた人脈のおかげで、先程言った無償診療など大分取り組みやすくなったのです。
あの時の人脈はまだ生きていますよ」
アリシアの目が輝いた。
「本当ですか!? それは良かったです。
あの時は本当に助かりました。まさかあそこまで繋がるとは思っていませんでしたが」
「どういうことですか?」
ミアが興味津々で尋ねた。
◇◇◇
アリシアは当時を思い出しながら語り始めた。
「あれは三年ほど前です。私があの女の敵の婚約者になってすぐですね。このコーヒーハウスが上級貴族たちに私物化されて、困っていたんです」
「私物化ですか」
「ええ。数人の常連の上級貴族が、まるで自分の店のようにルールを作り出して、他のお客様にもそのルールを強いたり、許可なくアルコールを持ち込んで酔って大声を出したりして……」
「それは他のお客様が入りづらいですね」
「しかも派閥が出来てしまって、ニグループでどちらが権力があって好きに出来るか競うようにやらかすものだから……」
「それは酷いわね」
レイナルドが頷いた。
「その通りです。オリバーでは手に負えなくて……、それどころか権力者に良くない遊びに連れて行かれてその流れにすっかり呑まれてしまって……」
あー……と皆、宙を仰いだ。
「そしてブラウン公爵が、店のトラブルで息子が被害を被らないように私にオーナーを変え、取り仕切るように命じたんです」
「ん?えっとアリシア様その時まだ十五歳ではないですか?」
「やだ!親子揃って最低ね!そんな小さな子に責任を押し付けるなんて!」
「分かっていただけて嬉しいです。突然のことで、親も兄弟も頼れず、もう本当に当時はどうしようかと思いました。」
「それで、アリシア様はどうしたんですか?」
ミアが身を乗り出して聞く。
「私は二つのアプローチを取ったの。一つは表向きの戦略、もう一つは裏からの工作」
アリシアの口元に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。