浮気男ぶっ潰し隊
その時、店の奥から上品な男性が現れた。
「あの、何ありましたか?」
「エドガー様!」
店員が安堵の表情を浮かべた。
エドガー・シルバー子爵。子爵家の次男で医者として自立していたが、長男の死に伴って爵位を継いだことで、子爵で医者という珍しい人物だった。
彼は前店長時代の貴族同士の面倒ごとの仲裁にも関わってくれていた。
そのエピソードは知らないだろうが、エドガーは雑誌などに頻繁に登場する有名人で、慈善事業に熱心な医者として非常に評判の良い人物だ。
店員の目には救世主に見えたことだろう。
◇◇◇
個室がノックされ、女子たちの華やかな笑い声が一時的に止んだ。
「恐れ入ります、グレイ嬢。エドガー・シルバーです。お邪魔しても良いでしょうか?」
「まあ子爵様」
「え、子爵様!?」
アリシアがドアを開けると、エドガー様が優雅にお辞儀をした。
「お久しぶりです」
「シルバー様、お久しぶりです。」
アリシアも丁寧にお辞儀を返した。ミアも頑張っていることが分かる真摯なお辞儀をする。
レイナルドは服に合わせてか男性式の礼をした。
エドガーはにこやかに笑った。
「ああ良かったです。今回は特にトラブルということではないのですね」
「前回はご迷惑をお掛けしました。助かりました」
「いえいえ、それでは僕はこれで」
状況を確認し、挨拶も済んだエドガーが立ち去ろうとすると、レイナルドが腕を掴んで止めた。
「ねえエドガー、面白い話があるの」
「レイナルド、僕は貴重な休みなんだ」
「柊男子中高等学校で!六年間、朝から晩まで寮も一緒だった仲じゃないの!」
「感謝してる!色々助かったこともある!それはそれ!これはこれ!レイナルドがそういう顔をしている時は話に乗らない方が良いって経験則がそう言ってる!」
「まああ!シルバー魔法クリニックの!院長の!エドガー様が!女性の頼みを断ろうって……むぐぐ!」
「聞くから静かにしてくれ!今広告に力入れてるんだよ!」
「あのド紫の広告、そんなにお金が掛かってるんですね……」
「ド紫……?」
ミアが思わず呟いた言葉にエドガーは少々傷ついたような顔をした。
◇◇◇
「なるほど。それは……怒りを禁じ得ませんね」
エドガーの前でミアは涙を流していた。
女子会では既に心を開いたレイナルドに打ち明けており、レイナルドもミアの横でハンカチを濡らしている。
「最低な男よ!踏ん付けてやりたいわ!」
「私のクリニックに、アリシア様がお連れになった方々が多いとは思っていましたが……。ご婚約者様がそのような……」
「お恥ずかしい限りです」
「ぶっ潰してやりましょう!」
エドガーが拳を握って非常に良い笑みを浮かべた。