滅んでしまえこんな家
「どういうことだこれはぁ!!」
アリシアの実家ではグレイ侯爵の怒鳴り声が尖塔の先から地下室まで響き渡っていた。
グレイ侯爵はアリシアの虚偽記事が載った新聞を丸めて魔法使いにぶん投げた。
「私が金を払ってお嬢様の居場所を聞いたように、ブラウン家もお嬢様を探されていたのではないでしょうか。
あちらは今、お嬢様の助けを失い、方々で仕事にも付き合いにも支障が出ているようですから、口止めを忘れたのではないかと」
自分が証拠写真と共にアリシアとミアのネタをゴシップ新聞に売り込んでおきながら、魔法使いがしれっとブラウン家に罪をなすりつける発言をした。
「くそっ!公爵家だからと縁を結んだが、完全にババを引いた……。こうなったらさっさとシルバーの医院からアリシアを連れ戻すぞ。
おい執事、両親の許可なく侯爵令嬢を自分の管理施設に泊まらせているんだから、シルバー家に抗議しろ!症状やら対応やらをうちのかかりつけ医に引き継がせて、我が家でアリシアを看るぞ!
ただし孕んでいれば向こうで堕させろ。万が一があれば向こうのせいにして訴えて金を取ってくれる」
執事は静かに礼をして、心の中はどうであれ仕事に忠実に、主人の命令に従って行動しに行った。
「あ、あなた……、旦那様、アリシアが孕んでいたらなんて、まさか娼館で……?相手は、相手はどうしたら、何人に金を渡して魔法契約で黙らせれば……。いえそれより特定できるのかしら……、ああもし先にまた新聞社に売られでもしたら……」
侯爵夫人は我が身可愛さにオロオロと慌てていた。
取引先などからの問い合わせ対応等、イライラした長男が、目の下にクマ、眉間に深い皺を刻み、親を煽る。
「令嬢が娼館で誰とも分からぬ男の子を身籠り、口止めに必死な侯爵家なんて、社交界で楽しい話題になるだろうねえ」
「いやいやいや!最近お茶会でもパーティーでもブラウン家の出来損ないのことと、その婚約者のアリシアはどうしているかってそればかり聞かれて、誰も私のことなんて興味ないんだもの!」
もうすぐで四十路の夫人は十代の少女のように肩を上げて、手首を傾げ、頬を膨らませてプン!と横を向いた。
「どうせ流してしまえば妊娠の事実なんて無かったことにできる!シルバーの奴なら患者のことは話さない。それよりお前もアリシアを連れ帰る手伝いとこの噂をどうにかする案を出せ!」
「うーん、アリシアは頑固だし知恵が回るからなあ……。ミナ?ミーナ?スミスとかっていう成り上がりと一緒にいるんでしょう?」
父親に新たな仕事を言いつけられて、自分のやらねばならないことが増えそうになり、急に長男の頭がフルで回転した。
「スミス商会も娘を探しているでしょうし、そこの娘と一緒にアリシアも連れてくるよう金を積みましょう!何かあっても全部成金のせいにできますし、その時間でこちらは信用回復のための社交が出来ます」
名案だとばかりに三人は喜んでいたが、控えていた使用人は思った。
どうせ社交とは名ばかりで、この三人に家を守るような立ち居振る舞いは出来ない。ただいつもの仲間と楽しく飲んで遊ぶだけだ。
どうかアリシア様がこんな家に連れ戻されませんように。
十代の若い女の子に全て押し付けて、その身を案じることもなく、最低な提案ばかり続ける家族しかいない。
「滅んでしまえ、こんな家」
もしこの家の使用人が全員同じ神に祈っているなら、かなりの力になりそうな願いが、複数の使用人から念じられた。




