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友情

 アリシアの頭の中では激しい怒りや後悔、行き場所のない思いが渦巻いていた。


「あのクズ男め!どこまで女を馬鹿にした振る舞いが出来るのよ!何で親公認で監視の道具が引っ付いてるのに、原因になった浮気をこんなに継続できるの!?

しかも娼館でまで出禁レベルの振る舞いって、何をしたらそうなるのよ!綺麗なお姉さんとそういうことが出来るお店で、そういうこと以上って何を求めてるの!?

普通から逸脱しないと死ぬ病にでも罹ってんの!?

女給さんを騙して海上で裸にして監禁!?馬鹿じゃないの!本当に馬鹿じゃないの!?俺たちも脱いでたから無礼講?礼は必要だろうが!お前に必要なくても女給さんには必要なんだよ!お前のピチピチモモヒキでも大して目立たんような貧相なものでもこっちは見たくないんだよ!クソが!!」


 何度も何度も頭の中に同じ考えが反芻する。尾を噛んだ蛇のように不吉な影を帯びたまま、途切れることがない。


 奴のおかげで溶けるように眠る日が多かったせいで、ベッドに飛び込めば、無意識に衣服が脱げるようになった。


 シュミーズで丸まっていると、ふとあの日のミアを思い出す。

奴のせいでマイルドな表現でも酷い暴言を浴びせられ、それ以上に身体的な被害を受けたと言外に伝えたミア。


 それでもアリシアの状況を慮って涙してくれた、初めての友人だった。


 ずっと兄弟からは女のくせにしゃしゃり出ていると疎まれていた。貴族の割には大きなトラブルにはなっていないが、それでも平和だったわけではなく、少女の心が痛まなかったわけではない。


 学校もほとんどが男性だったし、いずれ嫁ぐ際の役に立てばという心持ちで通っている少数の女生徒と比べて、首席を取ってしまうアリシアの姿勢は異質だった。


 侯爵令嬢という身分から、虐められるということはない。

成果を誉めてくれる人もいたが、その背景を理解してくれる人はいなかった。


 むしろ女生徒たちから、アリシアがそのように男性を押し除けてまで積極的に学ぼうというように見えるのははしたないとか、自分たちもそのようにしろと思われそうで迷惑だと言われたこともある。


 男子生徒からは男性のプライドに配慮しないのは女性として良くないとか、学力をアピールしたところで嫁に来てくれという家はないとか、ズレた視点から指摘された。


 アリシアはただ学力以外に認められる手段がなかっただけだった。

家庭教師だけがアリシアの学力だけを評価してくれた。

 両親も兄弟も何も認めてくれなかった。


 アリシアはずっと孤独だった。


 頑張っても頑張っても逆に苦言を呈されて、それでもきっと誰かが見てくれるはずだと、学ぶことは悪いことではないはずだと信じて、孤独な闇の中で頑張った。


 結果は馬鹿な息子を補うのに丁度良いとブラウン家から縁談が来て、死ぬほど仕事を押し付けられた。


 婚約の段階から既に女性問題を両手の数以上起こして、その全ての尻拭いをさせられてきた。


 遊び呆けて人に迷惑を掛けた張本人は公爵家に生まれた男という性別の人間であるだけで、何もしなかった。


 努力に努力を重ね、知識を詰め込んだアリシアの頭は、そんな男のために床に擦り付けられ、水を浴びせられた。


 辛い毎日だった。とても辛かった。


 そんなアリシアのために、ミアは自分が世間に訴えることで、少しは役に立つだろうかと、自分を犠牲にする提案までしてくれた。


 アリシアの人生は間違いなくミアのおかげで救われた。


 「私はミアのために何も出来てない……」


 ミアが新聞に面白おかしく書きたてられたのはアリシアの家のせいだ。


 ミアがそもそもオリバーに手を付けられたのはアリシアがキツく婚約者を管理できるほどの度量や器用さがなかったからだ


 ミアがあの日からあちこち移動して落ち着かない日々を送るはめになったのは、アリシアがその場その場で良さそうな案に乗るという、勢いだけで流れに身を任せた行き当たりばったりの提案をしたからだ。


 「何が面白くしてあげるよ……、勢いだけで出てきて、ミアに迷惑を掛けてばかりで……」


 アリシアがボロボロと止まらない涙を枕に吸わせ、泣き疲れて眠った向かいで、ゆっくりと掛け布団が持ち上がった。


 「よっし、よく寝たあ!」

ミアはベッドを下りると、あの日アリシアに借りた服に身を包んだ。


「さて、事前に魔法薬飲んでなかったら本当に身が危なかったくらいの行為をクソ男に喰らわされるわ、しかもそれが自分の父親が商売のために売ったからなんて、陳腐な小説みたいになっちゃって、死にたいくらいだった私を助けてくれた、優しいアリシア様を泣かせているすっとこどっこいを叩き潰さないといけないわね!忙しくなるわ」


両手で腰をパンパンと叩き、気合いを入れるように一度大きく息を吐くと、ミアは元気良くキッチンがある一階へ下りていった。

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