私、権力があります
「どうせ勘当されるなら、派手にやりましょう」
「ええ、新聞の紙面に載るくらいに」
二人は見つめあって笑った。少しの悲壮感と、それでも前に進むことを決めた笑みだった。
「それなら、まず最初にすべきは情報収集ね」
アリシアの目に野心的な光が宿った。
「まず、情報を集める場所を確保しましょう。ここは一応他人の部屋だし、王都で一番情報が集まるのはどこだと思う?」
「コーヒーハウスでしょうか?」
ミアの目もイタズラ猫のように輝いた。
「ええ、私もそう思うわ。商人や学者、政治家、あらゆる人が話をしたくて集まっているから、会話を聞くだけでも大きな収穫になるし、上手くいけば男性社会に良い噂を撒けるわ」
「でもアリシア様、コーヒーハウスは男性しか入れませんよね」
ミアが眉をしょんぼりろいう見本のように下げて聞く。
「そうね、でも私、もうやりたいことを我慢せずにやることにしました。
私、こう見えて権力があります。
侯爵令嬢で、次期公爵夫人という立場を、これまで一度も自分のために使ったことがなかったけれど、最後に思う存分使おうと思います」
堂々と言い切るアリシアをまん丸な瞳で見つめた後、ミアはひいひいと息切れするほど笑った。
「格好良すぎます、アリシア様!そんなはっきりと『権力があります』って言い切る方、少なくともご令嬢では初めて見ました」
◇◇◇
「お客様、誠に恐れ入りますが、こちらは男性のお客様のみの寛ぎの場となっておりまして……」
髪を撫でつけた男性店員は貼り付けたような笑みでそう言ってアリシアとミアの前に立った。
ドアを開けた直後だった。恐らく馬車から降りるのを見ていたのだろう。
ミアはビクッとしていたが、アリシアは堂々としていた。
アリシアも貼り付けたような笑みで返す。
「ではオーナーに確認してもらえませんか?アリシア・グレイという名の女性の筈なの。こんな顔の」
「……え、この店はブラウン公爵の……」
「登記を確認なさいます?」
すると店長が飛んできた。
「グレイ様!!一体どうされましたか!?」
やや青褪めた表情の彼は、前店長時代のことを知っている。
ブラウン公爵が息子のために始めたコーヒーハウスだったが、オリバーはコーヒーハウス一軒すらまともに面倒が見られず、常連の上級貴族客同士のトラブルが悪化し経営が傾いた。
その際に、もはや何かあった時の責任追及先を息子にしないために、公爵は名実共にアリシアに店を渡したのだ。
「一番信頼出来る場所で、ちょっと会議をしたいの」
「ですが、ここはコーヒーハウ……」
眉根を寄せた店員の頭を鷲掴みにして下げさせながら、店長は「個室を用意いたしますね!」と爽やかな笑みで言った。