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 「アリシア様って!本当にお強いですね!」

キッチンからはドスン!バン!というパン生地パイ生地を叩き付ける音が響いていた。

 

 「私は!夜の内に!気持ちをある程度、整理出来ましたから!!ふんぬっ!」

棒で潰すのがスタンダードな生地をあえて叩いて薄くしているアリシアが、手の甲で汗を拭い手巾でそれも拭った後、今度はウインナーを親の仇のように刻んだ。


「ああ、ウインナーにパイ生地を巻き付けて焼くんですか。美味しそうですね」

「そうでしょう、火の通りも早くて、作るのも食べるのも凄く好きなんですこれ」

「作る過程も好きそうですね」

「勿論!」


 エリスは院長室でエドガーと話をしている。エリスがどういう内容になってもアリシアたちに協力はすると言っていたこと。

アリシアとフレイアから、協力のために側にいてほしいと伝えたことから、失職して着の身着のまま寮を追い出されるということはないと思われた。


 「……ミアも好きだと言っていたの」

「持って行ってあげましょう、きっと元気が出てきますよ」


 ミアはベッドから起き上がれないでいた。

さすがに昨夜のオリバーによる仲間内への寝室の話があった直後に、世間に向けて自身のそのような捏造記事が発表されるのは、十八歳の少女には堪えすぎた。


 「でもミア様も強いですよ、ここで仕事をしていて、何度も自死まで考えるほど追い詰められる方を見てきました。ミア様は記事を見た時こそ取り乱していましたが、ちゃんと寝て回復しようとしています。凄く強い方です」


「……私も、そう思うわ。ミアのために、私も出来る限りのことをしないとね!」


そう言ってパンをオーブンに入れた後、今後に向けて考えようとペンを片手に腕まくりをするアリシアの袖を、恰幅の良い女性がそっと元に戻した。

「?あの、何か……」


 「アリシア様、ミア様と同じようにあなた様も傷ついているのですよ」

そう言って、ペンとノートを持たせるとアリシアの背を押して、あっという間に部屋まで押し込んでしまった。


「いえ!きっとあのオバカー・クソブラウンの家が何かしてくるに決まってます!嫡男があんな恥ずかしい罪状で捕まちゃんですから、私がこのような弱みを見せたら絶対利用しようとするに決まってます!」


「居場所も限定されていますし、……このままでは皆様にご迷惑を掛けてしまいます!」


アリシアが切羽詰まった声をあげた。産婦人科に入院しているとだけ書かれていたが、それでもアリシアやオリバーの家、娼館街を線で結べば大体の範囲は絞られる。

ましてアリシアのように訳ありの女性を匿ってくれるような、情に厚い医者がいて、他の患者から隔離して泊まれるスペースもある所。

アリシアは特にそう気にしたわけではないが、貴族がかかれるような衛星水準であること。

そう考えれば一定の人間には分かるはずだ。


 「こんな小さな子がね、自分がいることで迷惑をかけるなんて言って、自分の健康を蔑ろにしている方が私たちはよっぽど辛いのよ」


「でも」

「……私たちは、看護師なの。この国ではまだ制度が追いついていないけど、私はね色々あったけどこの仕事に就けたことを誇りに思っているの」

フレイアがアリシアの手を握った。

「医者ではないけれど、医者よりも患者と密に接する機会が多いから、あなたがどうしたらより良い生き方が出来るか考えて、フォローすることが出来る仕事なのよ」

「私たちに仕事をさせてもらえない?」


 「でも……、私、きっとすぐに貴族でもなくなりますし、今だって実家に頼ることは出来ないくらい力がないんです……。実家はむしろ私にあんな魔法使いを使うくらいで……、もしかしたら魔法使いの独断ではなく、実家が指示したのかもしれません。

私が貴族であるせいで却ってこういう方向にだけ影響力があって、せっかく、せっかく皆さんが頑張って築き上げて来られたのに!私が、私のせいで……!」


「大丈ー夫」

フレイアと暫定師長はアリシアを抱き締めた。


「あなたはね、頑張りすぎ」

「昨日なんて現実にあるのってくらいの速さで違法なお店を捕まえちゃったでしょう?その次の日くらい休んで良いのよ」

「あなたは傷つけられた。不安な要素もいっぱいある、婚約者が捕まって、実家は魔法使いを使ってあなたを探している、休まないと無理よ。休んで、お願い」


 二人は母のようにアリシアを抱きしめて、眦を下げて笑い皺を作り、にっこりと笑った。

その笑みが、貴族女性として教育されたものとは全然違う笑みが、アリシアにはどう例えたら良いのか分からない温かな何かが胸に流れ込ませた。


今まで感じたことのない母の愛のようで、アリシアは言葉にならないお礼を言って涙を流した。

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