ブタ箱のオリバーくん
「俺は何も知らないんだよ!ろくに話も聞かずに、こんな犯罪者みたいな石床に座らせるなんて……、ブラウン公爵が知ったらお前らなど……死罪だ!貴族に対する監禁罪は重いぞ!」
オリバーは一般の罪人と同じく牢屋にぶち込まれていた。
共に捕まったウッド男爵らと口裏を合わせられないよう独房ではあるものの、貴族が通常入れられるような個室という趣は全くない。
それはアリシアが知らせた近隣領の貴族たちが、怒り狂って通報しており、高位貴族のオリバーに配慮するよりも、位はさておき数の多い近隣領の貴族たちに配慮した方が良いと判断されたためだった。
オリバーの房の前で番をしている老人は慣れているのか、椅子に座って欠伸をしていた。
オリバーと同じように他の房からも無実を訴えたり怒りをぶつける声がしている。
それぞれの房には互いの音も景色も分からないよう、強力な魔法が掛けられているため、番人たちは一人分の対応で良かったのではあるが、オリバーの止まることのない怒声は壊れた蓄音機のようで、老人が煩わしいという表情をかけらも見せないのはなかなか凄いことだった。
「ブラウン様、お静かにしてください。」
眉間を揉みながら現れたのは、ブラウン家の弁護士だった。
「おお!お前は……!」
散々世話になっておきながら、庶民だというだけで弁護士の名前を覚えていないオリバーは、失礼な間に気づくことなく、助かったという笑顔を浮かべた。
「カイル・ウィリアムです。オリバー・ブラウン様」
カイルが真顔で答えるが、視線に含まれた憐れみを消すことは出来なかった。
「現在、複数の貴族の方々から正式な告発状が届いております。
それにブラウン様がおられた店には……かなり興味深い記録がございましてね」
オリバーは小首を傾げていた。
カイル弁護士は眉間を強く揉みながら、分かりやすく答えた。
「ウッド男爵がオリバー様に紹介したあの店は、娼館が属するようないわゆる……大人向けである店の届けが出ていませんでした。」
「そんなの俺が知るわけ……!」
「最後までお聞きください……。オリバー様が仰る通り、何も知らない客が多く、大半が聴取の後に解放される筈です。知らなかったとはいえ、違法な店に出入りした訳ですから、今後は十分注意するようにと叱られるでしょうが」
「ふん、たかが公僕のくせに!次期公爵たる俺に注意だと?」
次期公爵というより身包み剥がされている途中のような出立ちだと思ったが、カイル弁護士は強靭な精神力で口元の筋肉を抑え込んだ。
「更には、そういう店での雇用が禁じられている未成年女性を雇用していた記録、賄賂の授受の記録なども。
そして、賄賂を渡した側つまり客側は、会員制であることをいいことに、まあ様々な悪事をあの店で行っていたようで。
店側が脅すつもりだったのか情報屋に売っていたのか、はたまた保険のためか、客側の会話記録が魔道具で残っているようです。
ウッド男爵とオリバー様たちの会話も、魔法記録として保存されていたようですね」
「そ、それは……!」
オリバーの顔が真っ青になる。
「特に、スミス男爵の娘ミア嬢に関する取引の詳細が克明に記されておりました。父親から買い取った形になっていますが、本人の同意がない以上、これは立派な人身売買です」
「あるに決まってる!自分から部屋に来たんだぞ!?ブラウン家の評判が多少悪くなったからと後出しで『本当は嫌だった』なんて嘘が通用するか!だったら来なければ良いだけではないか!手も足も縛ってないんだぞ!」
「オリバー様……何度も私はあなたの女性問題で申し上げておりますが」
ガッシャアアアアアン!!!
柵を掴んで喚いていたオリバーが、敵に見つかった小鼠のようにビクッと跳ねた。
番をしていた老人が、魔法の杖を向けている。その先端からはまだパチパチと電撃の残滓が出ていた。
「おう坊ちゃん、弁護士先生の言うことはちゃんと聞いとけ。このあと坊ちゃんが連れて行かれるのは裁判所になるんだからよ、再雇用の爺さんからの親身なアドバイスだ」
そう言って老人はまた寝始めた。
◇◇◇
一方、ブラウン公爵邸では大混乱が起きていた。
「オリバーが逮捕だと!?馬鹿な!」
公爵は執務室で怒鳴り散らしていた。しかし、その手は微かに震え、顔を覆って絶望していた。
「はい……それも、複数の貴族からの告発と、動かぬ証拠があるとのことで……」
執事が恐る恐る報告する。
「近隣領の方々が特に激怒されているようです。『ブラウン家の失態で我々が損害を被っているのに、当の本人は違法な店で豪遊していた』と……」
「くっ……!」
公爵は拳で机を叩いた。普段は息子の不祥事を金と権力で揉み消してきたが、今回ばかりは相手が悪すぎた。
アリシアが担当していたブラウン家の事業は、隣国との大きな商談の破談を筆頭に、書類上は責任者のオリバーは頭が足らず、代わりに対応出来る人手も足りなかった。
隣国との取引停止は多くの貴族が損害を被っていた。その怒りが今、一気に噴出したのだ。
「家格はともかく、数が多い……。くそ、商売という意味ではうちより上手くやっているせいで、影響力がある家も……。オリバーめ、謹慎している筈だっただろう!」
「それが、反省のために教会に行くと仰ったので……」
執事がそう言うと公爵は机を凹む勢いで叩いた。
「あの馬鹿が教会に行く訳ないだろう!」




