吐き気がするオリバーファッション
ウッド男爵は最近のオリバーの災難を労ってくれた。
特に一商人である駒鳥屋が、オリバーを高級娼館前で嘲笑い、出禁を申し出た上、金の亡者のマダム・ロザリンドがそれを承諾した件は全く嘆かわしいと寄り添ってくれ、オリバーは涙が出るところだった。
「本人たちには言えませんが、女性はやはり経営には向いていませんね。目先の金だけを見て、その後の利益や大事な人の縁というものを全く分かっていない。オリバー様が公爵となられれば、どれだけあの娼館を贔屓にし、他の客を呼んでくれるか想像出来ないのです。
駒鳥屋など、どうせもうジジイですからすぐくたばるでしょう。どう言い繕っても所詮は一市民、爵位ある国に貢献できるような人材など、ジジイの後継では呼べないでしょうな」
「父に抗議はしたのですが、父は世間の目ばかり気にしていて……。公爵家が娼館などという商売をしている女と一商人に馬鹿にされたというのに、放置するなんて本当に目が曇っていますよ!
このままでは益々国を支えている貴族への尊敬が減るばかりです!」
オリバーはもっともらしいことを言いながら、前回ピチピチモモヒキズボンを勧めた服屋が、
「あれは婚約者であるアリシア様に斬新なプレゼントをしたいと言われたので、アリシア様用にとプレゼントの包みとリボンをしていたはずです」と説明したことに腹を立ててクビにし、次にやってきた服屋から買ったシャツのフリルをいじった。
次にやってきた服屋が、帰ってこないアリシアにプレゼントするならこれが良いのではと見繕った、「重ね着を前提とした女性用のシアーシャツ」のフリルを満足げにいじった。
ウッド男爵がさすがに視線を逸らして、一度咳払いをした。
「ンごっほん、えー……失礼しました。ああ、ご友人が来ましたね」
学校でも同級生だった、伯爵令息たちだった。
以前は或る侯爵令息も遊んでやっていたのだが、顔が広いということにあぐらをかいて、次期公爵であるオリバーを顔も見せずに追い返すという無礼を働いたので、もうこちらから誘ってやらないことにした。
これから大人の男の楽しみは、この状況でもオリバーの横にいてくれる友とだけ一緒に過ごすことに決めた。
「ウッド様!お誘い有難うございます!」
「ウッド男爵様、それで……次はどのような娘を……」
「まあまあ、焦らないでください。」
貴族のくせに女に飢えているような、前のめりな友人たちを見て、やや辟易したオリバーだが、気を取り直した。
ウッド男爵が紹介する女性は娼館の女性とは訳が違う。普通はそのような男女の楽しみが出来ない相手なのだ。
「そういえばスミス嬢はいかがでしたか?」
「ああ、たしかに顔は可愛かったが……」
そこでオリバーはふと気がついた。あまりにトラブルが多く忘れていたが、あの失敗した商談や、娼館前での出来事がある前夜、ミア・スミスという一代限りの成り上がり男爵の娘を、ウッドの紹介で部屋に呼んだ。
親に取引を持ちかけたらあっさり部屋に呼べるようになったとのことだった。
オリバーは次期公爵だ。金はいくらでも湧いてくるし、取引額を少し増やすくらい、アリシアに任せればどうにかなる。
アリシアは婚約者のくせに将来の夫を立てることなく、そういうことは断固として拒否する古い考えに囚われていて、アリシアが世話をしないせいなのに、オリバーが女性と関係を持つと、ガラスを引っ掻いたようにキーキー言って煩わしかった。
しかし仕事だけは出しゃばりな性質が転じて上手いため、瑣末な業務でも大袈裟に大変だと言うのは面倒だが、任せてやっていた。
女でも公爵家の仕事をさせてもらえるなど珍しいのだから、本来なら文句など言わず泣いて喜ぶべきところなのに。
許してやっている自分はなんて寛大なのだろうとオリバーは一人、自分の世界に浸っていた。
そうして思考を脱線させて、ミアがあの後どうしているかなど全く考えていなかった。
◇◇◇
「オロロロロ……うえぇええええ!!!」
「ミア様、しっかり……」
蟻型の盗聴器がアリシアの家からのものか念のために確認すべく、オリバーの上着の隠し魔記録を覗いたら、とんでもないものが映っていて、ミアは堪えきれずに胃の中のものを洗面器に吐き出すハメになった。
「ミア……、あなたがあの下半身クズに売られたのはこの若づくりジジイのせいだったのね……!許せないわ、私の大事な友人に……!」
アリシアは怒りを激らせ、ギリギリと爪が食い込むほど拳を握りしめた。
「スケスケヒラヒラフリルシャツ……、しかも下に何も着ないで……、気持ち悪い……」
「ミア様、完全同意ですが、そっちじゃないですよね」
フレイアが洗面器を差し出して、ミアの髪が汚れないよう纏めて後ろで支えながら言った。
「そうですね……、あの肩で人を刺し殺せそうな肩パッドも酷いです……」
吐きながらもミアはまだジョークを言える余裕はあるようだった。
あるいは、アリシアとフレイアに気を遣わせないように強がっているようにも見えた。
「……んもう、クロワッサン四つも食べるから」
ミアがもし、同情ではなく軽く流してほしいなら、そう言った方がいいかもしれないと考えて、ミアの背中をさすりながらアリシアが言った。
「アリシア様のクロワッサンが美味しすぎるのがいけないんですよ〜」
ミアは涙を流しながら笑った。
アリシアは隠し魔記録の映像を網膜から脳の細胞の隅々にまで焼き付けた。
絶対許さない。




