二人で仲良く復讐しましょう
「……アリシア様はこんなにお優しいのに、どうしてあんなのとご結婚なさるのですか、私は悔しいです」
ミアはアリシアのために涙まで浮かべていた。
その時アリシアは愕然とした。あんな男に一生を縛られる自分は憐れに見えるのだと初めて気がついた。
「有難う、ミア。……そうね、気が付かなかったわ。これしか道がないと思っていたの。親が言った相手と結婚して支えないといけないって、洗脳みたいね」
「アリシア様、私、もう一度死んだものと思って、アイツの悪行をどこかで晒してやろうと思うんです。そうしたら、少しはお灸になりますかね……?」
ミアは眉を下げたまま笑った。
ミアのように愛らしい少女が家のために貴族の男に弄ばれた、という話を暴露するなど、常に退屈している貴族たちはすぐに食いついて広めるだろう。
だがきっと婚約者のいる男に擦り寄ったミアが悪いという話になるのだ。
何故か夜遊びをする男はそれをモテていると勘違いする男たちから誉められることさえある。
きっとミアの決死の暴露は、ミアや実家の評判を下げてしまう。
アリシアはミアに、言葉を選びながらもその通りに伝えた。
「だから、気持ちは嬉しいけれど、きっとミアのためにはならないと思うの」
「そんなことないです、私のためになりますよ。もしこれで勘当されたら、娘を売るような親と堂々と縁が切れますし、少しでもアイツに仕返しできたらそれで良いんです。女遊びが過ぎると面倒になるぞって思わせるだけでも」
ミアの言葉を聞いて、アリシアも覚悟が決まった。
「勘当されたら、一緒にパン屋をしてくれる?」
「何故アリシア様が勘当に?」
「私がその復讐、もっと面白くしてあげるからよ」
◇◇◇
アリシアの両親はアリシアに関心がない。
兄や弟にも関心がない。両親は貴族の義務として子供を作っただけだ。
アリシアが艶やかな白金の髪や陶器のように白く滑らかな肌、宝石も恥じらうほど美しい青い瞳を持っていて、誰もが可愛いと誉めそやす少女であっても、なんとも思わなかった。
両親も両親で貴族らしく見た目は良い方で、誉められ慣れていた。それが当然だったのだ。
両親の無関心を良いことに、アリシアは図書室の本を読み漁り、兄弟が勉強している時には勝手に同席して、二人がサボっている間にどんどん知識を吸収した。
ただ退屈だったのだ。
言い訳の仕方も覚えた。
「良い家に嫁ぐために、伴侶となる男性の高度な会話が理解できるようにした方が良いと思って。もし教養がないからとお断りされたら我が家の恥ですもの」
我が家の恥、良い家との縁談、簡単な両親は自分たちの利益だけを考えて了承した。
やがて家庭教師から連絡が行った名門校からスカウトが来て、そこも首席で卒業したが、
アリシアに待っていたのは奴との嘆かわしい婚約だった。
公爵家と縁ができて両親は嬉しそうだった。ちょこちょこ遊んでいる内に金庫の金が何故か少なくなり、二人とも首を傾げていたので、豊かな公爵家から支援が得られることを期待したのだ。
決してアリシアの将来を思ってのことではなかった。
アリシアは、もう勘当されても構わないという気持ちだった。
「それでは、早速作戦会議といたしましょう!」
「ええぜひ!」
アリシアもミアも久しぶりに、心が躍るような気持ちだった。