調子に乗っちゃうオリバーくん
オリバーはこの日、非常にオシャレな空間にいた。
少なくとも彼の美的感覚の中ではそうだった。
ギラギラと発光する、自然界ではあり得ない照明の細い光、それに比べて店内全体は薄暗く、近くの席の客の顔もよく見えない。
それが貴族であるオリバーには都合が良かった。
最近は心無い人々のせいで、繊細な心が傷ついていたからだ。
実際に繊細かは置いておくとして、オリバー自身は繊細と自覚している心を癒すため、紳士の社交場に来ていた。
ブラウン家の事業の中では小さいが、コーヒーハウスを経営している時に知り合った、ウッド男爵に誘われて。
ウッド男爵は交友関係が広く、オリバーに多くの新しい知識や人脈、機会を与えてくれた。
この会員制のクラブは、ウッド男爵のように、これからの時代、事業にも精力的に取り組みこれからの国を豊かにしようというパワフルな男性が、他の客に聞かれないように深い話をする場所だった。
オリバーの中ではそういう認識だった。ウッド男爵と店の建前としてもそうではあった。
娼館とは異なり、女性とはあまり触れ合えないが、新しい奔放な価値観の女性たちが刺激的な衣服で働いており、明日からの活力を得られる。
「男として生まれたからには、その力を活かさなければ。男が弱い女性と子供を守り、その背中を見て育った男子がまた国を強くする。男は背負うものがとても多い!しかし男が国を支えているのです!だから男は老け込んだり女々しくなってはいけない、常にパワフルでいなければ!ねえブラウン様」
「ええ全くです!」
余裕のあるウインクをする男爵は、暗い店内で浮かび上がるほど白い歯を輝かせていた。
今や国から支給される金だけで生きていける貴族などいない。領地経営だってただ見守っていれば良いわけではない。
魔法の発達によって、隣接する地域だけでの交流は終わった。
貴族と言えど積極的に事業に参加していかねば、安価な魔法製品を販売する駒鳥屋のような一商人に富が流れてしまう。
ウッド男爵はこのような時代の変化の中でも、ビジネスに人脈のための遊びに精力的に動いて、身分によらない地位を得ていた。
父親の化石のような考えに反発していたオリバーは、その余裕がありながらもギラギラと輝いて、今までのクラシカルな優雅さとは違う貴族像に、男性としての憧れを抱いていた。
爵位は異なるが、オリバーはむしろ、低い爵位のウッド男爵が幅を利かせていればいるほど、自分にもそうした可能性を感じて、行動を真似をしたくなったのだった。
ウッド男爵は、空瓶を下げに来た、本来のメイドではあり得ない短いスカートのメイド服を纏った女性従業員の太ももを、サラッと撫でた。
女性従業員がウッド男爵を見る。
「魅力的ってことだよ」
そう言ってウッド男爵は女性従業員の頭をポンポンと撫で、チップを渡した。
それだけでもオリバーは良いなと思った。彼の頭では言語化出来ていなかったが、女性を金で屈服させる様が支配欲を刺激していた。
その刺激にすっかり酔いしれて、裏で女性従業員たちがどう言っているかなど微塵も考えてはいなかった。
◇◇◇
「ねえまた若づくりしたジジイが太ももおさわりしてきたんだけど」
「本当に気持ち悪いよね、うち娼館じゃないし、お触り禁止だって何回言ったら覚えるの?」
「あのサル頭、今日子猿連れてんじゃん」
「モモヒキ公爵でしょ?あれだけ言われてもあの服のセンス直らないの病気?」
「スケスケヒラヒラのシャツ勘弁してほしいわ、席に近づく度に笑い堪えるの必死だもん」




