アリシアさん家の残念な事情
「アリシアはまだ見つからないのか!?」
グレイ侯爵は立派な執務机を拳で叩いた。普段ほとんど使われていない机は非常に綺麗だった。
「せっかく公爵家との太い繋がりが出来る筈だったのに、その公爵家が笑い者になったんじゃ意味ないのよ!さっさと連れ戻してブラウン様にお詫びをさせないと!」
グレイ侯爵夫人はイライラした気持ちを爆発させ、花柄の可愛らしい扇を叩き折った。
「……申し訳ありません」
領地管理などの実務代行者、夫人に代わって家を仕切る執事、メイド長は揃って頭を下げた。
「うぉい、魔法使い!高い給金払ってるんだ!さっさと見つけんか!」
黒いローブを身につけた魔法使いも頭を下げる。
「……申し訳ありません」
「アイツ勉強とブラウン家の仕事ばっかりだったろう?女のくせにそんな出しゃばったことばかりしているから、友人なんていないじゃないか。
どうせブラウン家の取引先にでも匿われているんじゃないか?
行くところは限られているんだからさっさと連れ戻してくれよ、僕の仕事も手伝ってほしいしさ」
アリシアの兄はそう言いながら、父が全く手を付けない書類を睨んで頭を抱えていた。
彼は平均的な能力にも関わらず、両親譲りで努力が嫌いで、優秀な妹と比較されて更に拗らせてしまい、本来の侯爵が放棄した仕事にひいひい言っていた。
弟は全寮制の学校のため屋敷にはいない。
頭を下げながら使用人たちは思っていた。
アリシアが見つかりませんように……!こんな奴らに使い潰されては可哀想だ、と。
ただ臨時雇用の魔法使いは違った。今回の仕事を成功させなければ次の仕事はもらえない。
だからアリシアの両親や兄にアリシアについて質問するが、彼らは尊大な態度の割にアリシアについて全然知らなかった。
貴族にはよくあることなので、使用人にも聞いてみるが、皆答えてくれない。
臨時雇用者を警戒するのもよくあることなので、魔法使いは数打ち作戦に出た。
アリシアの部屋に残る髪、血縁者の血で、違法な魔術を使う。
「これくらい皆んなやっていること」
見つかりにくい軽犯罪とされていることから、この魔術を使う非正規の魔法使いは多く、そうした人間に多く関わってきた魔法使いの感覚は完全に鈍っていた。
アリシアが出入りした痕跡のある場所に蟻や蜘蛛の形で盗聴器が大量に放たれた。
全てリアルタイムで聞いていては分析も何もないので、それらが帰還してから分析器によって文字起こしを行い、必要なものだけ絞り込む。
「……娼館?」
魔法使いは呟き、ニヤッと裂けたように笑った。
「雑誌に売り込んだら臨時収入になるかな、侯爵令嬢が高級娼館に出入り……」




