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入り込んだ虫

 「……あんたボケっとして見えて凄いこと考えてたのね……」

「そう?」


「もしかしてもう患者さんに声掛けたりしてるの?あの、なんていうかその……声かけがこう……」

恰幅の良い女性が控えめに訊ねると、クッキーの女性はフルフルと顔を左右に振った。


「掛けてないわ。リリーが気にしている通り、彼女たちに負荷をかけちゃいけないもの。それに私じゃアイツらに復讐するツテが足りなかったから。

もしアイツらより偉い人に訴えるような機会があればそれを彼女たちのメリットとして訊けたかもしれないけど。

今は証言してくれそうな人をリストアップしたり、アイツらについて細々と調べたりくらいね」


 そしてぐるっと180度振り返った。アリシアはその真っ直ぐな射抜くような瞳に、思わずビクッと跳ねた。


「ぜひ、あなたの復讐に参加させてください」

「は、はい……」

「願ったり叶ったりです!」

彼女の意思の強さに押され気味のアリシアに代わり、ミアがハキハキと声をあげた。


「有難うございます、私はフレイア・ハーパーと申します」

クッキーの女性もといフレイアはスッと立ち上がった。


「では、私の部屋で作戦会議をいたしましょう。すぐに!」

そうして二人の手首をがっしり掴むと、加速魔法でも掛かっているのかと思うほどの速さで部屋に駆け出した。


◇◇◇

 「あの、ここの女性の方々ってリリーさんは元男爵夫人ですし、フレイアさんは元王城秘書ですし、凄いですよね」

ミアが無邪気に質問をするとフレイアは部屋の本棚からドサドサとノートを取り出しながら答えた。


「仕事上、文字が読めないといけないですし、院長が求める仕事への誇りや、そのための正しい理解をするための予備知識や、フラットな思考を求めると、一定のバックグラウンドが必要になるということかと思います。

もっとも院長が面接をして採用されていて、身分で採用する方ではないので、平民出身の方もおられますよ」


 フレイアの部屋は二階で、広さは二人の部屋とほぼ同じだったが、壁にぐるりと本棚があった。雑多な本の中に魔法ノートがあり、背表紙を持ち主が撫でると秘匿された情報が読めるようになっていた。


 あまりの移動の速さに、アリシアは少し酔った様子で、床に伏していた。


 「これが証言してくれそうな方々のリストです。そしてこちらがオリバー・ブラウンを含む素行の悪い貴族たちのリストとその行いです」


フレイアは小さな丸テーブルに書類を広げたが、バサバサっと乱雑な置き方をしたために数枚落ちてしまった。


「あらあら……」

拾い上げようとして屈むと、少し転んで膝で床にドンと衝突した。

「あいたたた……」


 先程のやりとりから、きっと猫目の女性ならこんな時に、ボーッとしてると言うのだろうとミアは思ったが、アリシアは違った。


 床に伏していたアリシアは、ドンという音以外に、パリンという小さな破裂音も聞いた。


「……」

ゆっくり身を起こすと、フレイアのそばに寄る。

フレイアは膝を払って無表情のまま立ち上がった。


ミアはなんだか異様な雰囲気に困惑して黙っている。


 「ああ、これはウチね……」

「グレイ家でしたか、優秀な術師がおられるようですね」

アリシアは床に残った黒い蟻に似た魔術具の残骸を取り上げる。

「盗聴のみで軽量化を重視したのね、どこから入ったのかしら、どこまで聞かれて……」


「え!?私たちの居場所がバレたってことですか!?」

ミアが慌てるが、アリシアは蟻もどきを手で転がし詳しく調べてホッと笑った。


「大丈夫よ、これは回収が必要なタイプだわ」

「リアルタイムで術者に送信はできないということですね。この蟻が術者の元に帰らないと聞くことは出来ない……」

「そう。おそらく、あちこちに撒いているのね」

「こここ、コーヒーハウスはどうですか!?あそこでの会話が聞かれていたら……」


「あそこは大丈夫よミア。あそこは客層が貴族ばかりで聞かれたくない話もあるから、こういった魔術具がは入れないように妨害魔法が掛けてあるの」


「そうでしたか!良かったです!フレイアさんよく気づきましたね」

「……こういう、今までになかったことをするのは、嫌がる人もいますから、普段から気をつけてはいるのです」

フレイアは淡々と話したが、少しだけ誇らしげにも見えた。

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