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女子会再び

 コーヒーハウスにいつになく甘い香りが漂った。


厨房では、一般的な捏ねて丸める丸パンの他にタルトやクロワッサン、煮詰めたり叩いたり潰して伸ばす回数が多い菓子やパンが量産されていた。


 「男共なんて皆んなクソッタレ!なんなのあのジジイ!奥さん泣かせて浮気したのを美談のように!不潔よ汚いのよ!」


「善人なのは分かるわよ、悪気はないんでしょう?でも悪気がなかったら許されるんなら警察も法律もいらないってのよ。……一本、二本、あらやだ。つい気合が入って切りすぎたわ」

「アリシア様、練習しすぎです、奴のはそんな立派じゃありませんから」


うふふと花が咲くように笑い合うミアとアリシアの恐ろしい会話に、こっそり覗き見ていた従業員の男性陣は脚の間を押さえてキューッと縮こまった。


◇◇◇


 「っはー!やってらんないわ、何このゴシップ誌の記事」

アリシアが個室で酒のようにコーヒーを飲みながら、ペシペシと三文ゴシップ誌で机をペシペシと叩いた。


「どうせブラウン家が金で書かせたんでしょうね、あの小さい奴を守るために」

ミアはクロワッサンを千切ることなく、齧り付きながら言った。


 ここで会う可能性があるレイナルドとエドガーを除いて、もし二人を探している者たちが来てもいないと言うように店には予め伝えてあるが、乗り込まれる可能性もある。


 例えにしては彼女に悪いが、レイナルドが店員の制止を振り切って入店したようにだ。


 緊急結界や姿を消すといった魔法は、防衛省やそういった研究機関にいる人々しか知らない。


 相当秘匿されているもので、OBOGや関係者、そういった分野についてオタクの枠を超えるほど個人で研究している人なら知っているかもしれないが、アリシアのようにいくら優秀でも一般的な教養の範囲では生活に便利な魔法しか使えない。


 これは二人にとってかなりの冒険だった。

変装と護身用の魔具しかない。

それで逃げ切れるかもしれないが、乗り込まれているという場面なら可能性は低いだろう。


 それでも二人はパン作りをしなければならなかった。

きっとここで作らなかったら後悔すると強く思った。


 娼館に閉じこもっていたって見つからない保証はないし、公爵や侯爵の権力を使って捕まって軟禁でもされてしまったら、もう二人で作ることは出来ないかもしれないのだから。


 二人は見つからないことに賭けた。見つかってもきっと先があると信じて賭けた。


 パンが作れる施設で二人が借りられるのはここしかなかった。


 「へえ、あの顔に全栄養を取られた頭で、今まで領内の孤児院の修繕や従業員の労働環境の整備や、里親事業を積極的に?……絶対アリシア様のご活躍じゃないですか」

「ぜーんぶ判子を押しただけの下半身に脳みそ野郎の手柄って書かれてるわね。今に見てなさいよ、いつかこんな出鱈目書いた会社訴えてやる!」


 刹那的だが、二人にとって重要な時間に違いなかった。

 アリシアもミアも心から笑い、悪口を言い、冗談を言って、思いきり食べて飲んだ。


◇◇◇


 「いやー、レイナルド様のお洋服最高ですね。ゴムに見えないのにゴム製で。コルセットなんて付けてたらこんなに食べられないです。食べないとやってられないのに」


 「あらレディたち、嬉しいわ」

「レイナルド様!」


レイナルドは優雅に壁に凭れてウインクをした。

「ノックはしたんだけどね、鈴が転がるようなお声で聞こえなかったみたいなの。お邪魔しちゃったらごめんなさいね」


「いいえ全く!レイナルド様、ぜひパンの試食をお願いします!アリシア様のパン美味しいんですよ!」

ミアが無邪気に誘う横でアリシアはレイナルドに謝罪の深い礼をとった。


「この度はせっかく私たちのために……!」

「ノンノン!駄目よグレイ嬢!あなたはちっとも悪くないんだから、頭を上げて背筋を伸ばしなさい。すぐに頭を下げているとお詫びの気持ちに価値がなくなるわよ?」


レイナルドはソファに座ると給仕の男性を呼んでブレンドを注文した。

男性が去ってから、ミアに自身のブランドの服を着ていることを嬉しいと言った。


 「私もうレイナルド様の服しか着られないです!」

「有難う、ミア。あなたのそういう気の遣い方嬉しいわ」

「いえいえ滅相もない!本当に思ってるんです。今までお腹いっぱい食べられることなんてなかったですもん」


「ミアが毎日着てくれるって言うのだから、もっと知名度を上げなきゃね。あの小僧のおかげで目立てたんだから、上手いこと利用させてもらうわ」

「さすがレイナルド様……!」


「その内、ショーのお知らせをするから待っててね。私はこの程度じゃあびくともしないわ。良いものはちゃんと分かる人に届くもの。ミアやグレイ嬢のようにね、やだぁ、このパン美味しい〜!」


 アリシアは涙を堪えながら、深く頭を下げた。

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