古すぎる考えに背中を撃たれる
翌朝、アリシアとミアは決意して、駒鳥屋を訪れた。
結果としてアリシアとミアにとってはやり過ぎた形にはなったが、オリバーをとっちめてくれた恩人であり、そしてアリシアの商談ボイコットにより迷惑を掛けた相手でもある。
アリシアとミアがお詫びとお礼を伝えると、エドワードは、取引の損失については全く気にしなくて良いと温かく二人を迎えた。
「あのポンコツ具合ではいずれこんなことは起きていたよ、気にしなくて良い。私はむしろああやって面と向かって言えてスッキリしたよ。
ビジネスの場ではなかなか難しいからね。普段ならグレイ嬢か親父の方が付いてフォローしていただろうし」
「エドワード様」
アリシアは深く頭を下げた。
「寛大なお心に感謝いたします」
「いやいや……。だがね、まああの夜の一件で、君たちもスッキリしたんじゃないかい?」
エドワードは色が変わる最新のカップで紅茶を一口飲んだ。
それはアリシアのコーヒーハウスでも活躍している物で、駒鳥屋を介して購入している物だった。
「ま、奴も懲りただろうし、そろそろ許してやって、グレイ嬢はブラウン家に戻ってやると良い。今ならあの若造に首輪を付けてやりやすいだろう?」
驚きのあまり言葉に詰まっているアリシアを尻目にエドワードはミアに向き直って続けた。
「スミス嬢はその、まあ恐らくあの阿呆にちょっかいを掛けられて迷惑を被ったのだろう。アリシア嬢の家出に付き合っているようだが、今まで交友関係はないようだし、オリバーへの怒りで仲良くしているといったところかな」
「どうやってお調べに……」
「私は商人だよ?君の家とも勿論付き合いがあるし、情報網には自信がある」
能面のように表情の抜け落ちたミアとアリシアに、知恵を授ける老人といった雰囲気でエドワードはまだ続ける。
「もう、十分ではないかな?あの若造は、王都中の笑い者になった。『モモヒキ公爵』と呼ばれ、下に見ていた庶民の一商人に娼館から追い出された」
「これ以上追い詰めても、誰も幸せにならない。それとも君たちはブラウン領自体の商売を滞らせたり、ブラウン家自体を潰したいのかい?」
「いえ、そんなことは……」
「そうだろう、君たちは賢いからね。怒りと若さに任せて突っ走ることもいい思い出になるがね、時に我慢も必要だ。
グレイ嬢、浮気なんて、男にはよくあることだ。いずれアイツはまた別の娼館に行ったり、ミア嬢のような女人を連れ込むかもしれないが、ブラウン家の女主人ならそれを容認して手の平で転がす器を見せねばな」
その言葉に、二人の肩はピクリと反応した。
「私もな、若い頃は遊んだものだ」
エドワードは懐かしそうに笑った。
「商売で成功して、金もできて、浮かれてあちこちで良い思いをした。妻を泣かせたこともある」
「……」
「でも、妻は賢かった」
エドワードは目を細めた。
「怒りもしたが、私を責め続けることはしなかった。上手く私を手のひらで転がして、おかげで今では尻に敷かれているよ」
エドワードはガッハッハと笑いながら二人を見た。
二人が笑わないところを見て、やや気分を害したような苦い表情をした後、冗談が分からない奴だというように肩をすくめた。
「浮気は、正直に言えば、男の甲斐性でもある」
ミアの拳が、膝の上で握りしめられた。
「もちろん、良いことではない」
エドワードは慌てて付け加えた。エドワードがどこまで知っているか分からないが、ミアの親が自分の商売のために差し出したという概要くらいは知っていそうだ。
「でもな、昔から男とはそういうものだ。金があれば遊びたくなる。若ければ羽目を外したくなる。阿呆な生き物なのだよ」
「……エドワード様」
アリシアが震える声で言ったが、エドワードはそれを片手を前に出して遮って話した。
「大事なのは、賢い女性が、そういう男を上手く転がすことだ。怒るだけでは何も解決しない。賢く、優雅に、男を手のひらで転がしてこそ、女の価値が上がるというものさ。
いずれ分かるよ、正しいことだけでは世の中渡っていけない、或る程度妥協しなければいけないってことに。君たちもオリバーも転んで気がつくだろう」
「……」
アリシアはミアを見やった。エドワードの台詞はアリシアも侮辱しているものだが、ミアのことは主軸に置かれてすらいない。目の前にいるのに遊びで使われる女その一だった。
「君たちは若いから、分からないかもしれないが」
エドワードは諭すように言った。
「結婚とはそういうものだ。男の浮気に目くじらを立てていては、身が持たない」
これはその通りですね、タメになります!という台詞を待っているのだろうと思われた。
ただアリシアはミアが横にいる状況でその嘘がつけなかった。
ミアが立ち上がった。




