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駆け巡る噂

 朝日が王都を照らす頃、昨夜の出来事は既に身分を問わず街中に広まっていた。


「皆さんお聞きになった?ブラウン家の次期公爵様、娼館で追い出されたんですって」

「駒鳥屋の大旦那に、公衆の前でお説教されたらしいわね」

「しかもひどい格好で。ギラギラの上着にピッタピタのズボン……」

「あの方のセンスは前からどうかと思っていましたけど、貴族の恥ですわ」


 貴族の午前のお茶会は勿論、市民たちの井戸端会議は大いに盛り上がっていた。


「ピッタピタのズボン?だって男だろう?脚の間が……」

「そうそう!じいちゃんが履いてるモモヒキみたいなズボンで堂々と立ってて、もう恥ずかしいったら!」

「ええ……、うちの旦那がそんなの履いて外出したら、箒で叩き出すわよ!」


 その時、ずっと下を向いていた奥様がボソッと言った。

「でも……、あまり目立ってなかったみたいですよ、小さくて……」

一拍置いて笑い声が市場に響き渡った。


「あ、あの、お声とかは大きかったらしいです。次期公爵様だし、でも脚の間はあまり目立ってなくて、でも逆に良かったんじゃないかなって。その方が品位が保たれると言うか……」

少しおっとりした女性のフォローにならないフォローで、他の奥様達は胃がよじれたかのように腹を抱えて笑っていた。


 「大声で威張ってるくせに……!ヒイ、ダメダメ面白くって……!」


 男性達はコーヒーハウスで話していた。

「隣国との大事な商談も、ピチピチ次期公爵様が台無しにしたんだろう?」


「えぇ!?じゃあ鉱山でダメになった働き口はどうするんだ?まさか職なしの連中が隣の領とか首都に流れて来ないだろうな……犯罪が起きたり……」


「おまけに隣国の人達はブラウン家ともう取引しないって言っていたとか……」

「はぁ!?じゃあ商流はどうなるんだよ!」


「もうブラウン家は切るしかないだろう。公爵家って言っても、主産業の鉱山はない、職なしが溢れてるし、次産業の隣国との商取引も厳しくなった。そもそも商流に流す予定の商品は隣国の職人にOEMで作ってもらえなきゃ出せなくなるだろう」


「嘘だろう、今まで公爵だからって色々融通きいてやってたのに……」


「仕方ないさ。息子があの馬鹿じゃいずれこうなってたよ。資料も読まず何の商談か理解しないまま、駒鳥屋の大旦那とも縁の深い、相手の商人様たちを『平民風情』って侮辱したって」


「わざとやったんじゃないのか?そんな馬鹿なことするか普通……」

「普通じゃないんだろう」


 恐らくブラウン家に今まで貢ぎ物や、安値で請け負う代わりに大口で注文を受けるなど、それなりに頼ってきたのだろう男は項垂れた。


 「新しい商流を探さないと……、でも大元がブラウン家だったから、真っさらから探すのか……」


 「あー……グレイ嬢がいらっしゃれば、商談は復活するかもしれないって話だぞ!」

「ああ、アリシア様!頼みに行こうかな!」


しかし希望を持った男に、別の男が冷や水を浴びせた。

「あの方は本当に優秀だって聞くが、どうも行方不明らしいぞ。あのモモヒキ公爵様の尻拭いをずっとしてきて我慢の限界らしい」


 別の同席者達はブラウン家とは無関係のようで、口々に言った。

「頭が良いのに可哀想に……あんな男の婚約者じゃあなあ」

「今頃婚約破棄されたんじゃないか」

「モモヒキ公爵夫人なんて恥ずかしいもんな」


「くっそー!モモヒキ公爵め!」


◇◇◇


 一方、その頃。


ブラウン公爵邸では—公爵の怒号が、屋敷中に響き渡っていた。

「オリバアアアアアア!!!」


 取引の停止や撤回に、クレームや問い合わせの対応、貴族同士の付き合いにも支障が出ている。


 駒鳥屋を激怒させた青年の家と付き合っていると自身の家にまで影響が出そうだと判断されてしまったのだ。


ブラウン家が招待されていたパーティーは何故か中止された。


 「俺は悪くない……!俺は悪くない……!」

行く場所も頼れる人もなく、オリバーは布団に立て篭っていた。


ゆったりとしたパジャマのズボンで。

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