最新の恥晒し
「では、君は?」
「そ、それは……」
オリバーはようやく自分が言ってはならない言葉を発したことに気が付いたようだった。駒鳥屋の主人に向かって一商人などと、王でも言わないことだ。
そんな相手に数々の無礼を働いたオリバーが次期当主であるブラウン公爵家と取引をしたい店があるだろうか。
「答えろ」
エドワードの目が氷のように冷たくなった。
「君は先程、隣国の商人たちがブラウン公爵家に相応しくないと言ったな?では君は何だ。君の何がブラウン家に相応しいのか、この一商人に教えてくれ」
場がシーンと静まり返った。
老人の大声でもない言葉が、叫び続けていたオリバーと違って、その場を支配していた。
「い、いや……エドワード様は別格で……」
「別格?」
エドワードは嘲笑った。
「どこが違う?私も商人だ。爵位はない。君の言う『平民』だ」
「だ、だが……」
「だが、何だ?金があるから敬うのか?力があるから頭を下げるのか?」
エドワードは声を張り上げた。多くの平民で構成される観衆の前で。
「ならば君は、人を肩書きでしか見ていないということだな。本質を判断できないのは上に立つ人間として地名的だ」
オリバーは言葉を失った。
「君は知らぬのか」
エドワードは周囲を見回しながら言った。憐れみの視線が多くオリバーに向けられている。
「隣国の商人たちがどれほど優秀か。彼らは魔道具の高度な技術者であり、貿易の専門家であり、外交の架け橋だ。その彼らを『商人風情』と侮辱した」
エドワードは人差し指でオリバーの胸を突いた。
「君は今日、少なくとも数年のブラウン領の未来を潰したのだ」
「な、何を……」
「何をだと?」
エドワードは容赦なく続けた。
「関税の調整が頓挫すれば、ブラウン領の輸出入は滞る。せっかく魔物被害で失った鉱山の補填ができるチャンスだったのに。魔洞窟の採掘権が得られなければ、鉱山の閉鎖で仕事を失った人々の雇用はどうなる。OEMの契約が結べなければ、先方との関係は一方的だ。台風復興支援には、隣国の高技術を一時的に安価で受けられるメリットがあった。この機を逃せば次はない」
エドワードは一つ一つ指を折って数えた。
「君は一度の商談で、これだけの損害を出したのだ」
「ぐ……何でそんな情報を、ブラウン家の者、いやアリシアが情報を漏らしたのか……!なんて女だ!」
まだ世迷言を言っているオリバーに、エドワードは優しいことに説明してあげた。アリシアの名誉のために、と前置きをした上だった。
「ここにいる多くの商人だって分かることだよ。競合、市場の調査を疎かにする商人はいない。ブラウン家と隣国の商談と言われれば、誰にアジェンダを教えてもらわずとも、おおよその検討はつく。そして極めつけは……」
エドワードは声を一層大きくした。周囲の人々も、娼館の窓から見ている女たちも、固唾を飲んで聞いている。
「隣国の商人たちは、もうブラウン家とは取引しないと言っている。全ての取引でだ」
エドワードは冷たく微笑んだ。
「グレイ嬢からなら連絡を受けるそうだ。君が邪険にしている女性だけが唯一の希望だ」
周囲がどよめいた。
期待値を上回る醜態に、無関係な人々の好奇心は大いに刺激され、商流に関わるものは急いでビジネスの計算をしていた。
「つまり君は、隣国の商人たちから完全に信用を失ったということだ。次期公爵として、商人たちに認められなかったということだ。よく反省し……」
「ち、違う!俺は」
エドワードがまだ話しているにも関わらず、オリバーは否定の言葉を叫ぶ。まるで失敗を隠す子供のようだ。興奮すると後先考えずに言葉が出てくる。
「君は何だ?」
エドワードは嘲笑うように言った。
「次期公爵だから偉いのか?ならば答えてみろ。君は今日の商談で、自分の領地のために何をした?」
オリバーは答えられない。
「何もしていない」
エドワードはバッサリと切り捨てた。
「グレイ嬢が君の代わりに用意した完璧な資料も読まず、相手も侮辱し、商談を破綻させただけだ」
「く……」
「そして今」
エドワードはオリバーの格好を上から下まで、わざとらしくゆっくりと眺めた。
「その、ギラギラと光る石を貼り付けたジャケットと、モモヒキのような下品なズボンに……、まるでお遊戯会のような格好で娼館に来ている」
「ぶはっ」
「くくく……あははは!」
娼館の窓から、そして周囲の野次馬たちから、堪えきれない笑い声が漏れ始めた。
「な、何だと!これは最新の……」
「最新の恥晒しだな」
エドワードはバッサリと切り捨てた。




