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修羅場

 「えぇええ!全部良い物なのにあんなに無駄にできるコーディネート初めて見ました!」

隠し魔記録の映像を見て、ミアはあんぐりと口を開ける。


 「……あの、どうやって洗濯するか分からんジャケット……、あれ本当に高いのかい?高いってことは良いってこととは違うのかい?」

「石を貼り付けたみてーな重そうな上着、あれ座ったら椅子の背もたれ削れねーか?」

「ピンク……、あの目がチカチカする青い上着に赤ちゃんみたいなピンク……」

「ピッタピタの黒いズボン……、あれモモヒキじゃないのか?あれで男が外に出て良いのか?その、脚の間が……」


一緒に見ていた女性陣も最早馬鹿にするのを通り越して、宇宙人でも見ているかのような不思議な顔をしている。


 「顔だけ見れば女泣かせだって言われても分かったけど、あの中身で惚れる女はいねえわ」

「中身五歳のガキかい?ありゃあ……。ご迷惑をかけたお家にひでえ態度でまあ……」


 そして皆がふと気付いた。

「アイツここに来る気じゃないか?!」


 「ヤダヤダヤダ!もっこりピタピタパンツにオイラ頭下げて笑える気がしねえよ」

「あたしゃ吹き出さない自信がないわ」


「アイツ、アイツの分際で私たちに学ばせてやるとか言ってなかったか?」


 そして再び意見が合致する。

「全力で追い返そう!!!」

◇◇◇


 従業員たちはあちこちに俊敏に飛んでいった。駆けて行ったというよりも飛んでいったというのがピッタリな速度だった。


 「まだお客に付いてない遊女に伝えてきたわ!」

「駒鳥屋の大旦那が来るんだって!あそこってマゴットが言うとった隣国に瓶を作ってもらっとる所やろう?今夜の取り引きにゃあ怒っとるんやないか?」

「エカテリーナが大旦那に、心配だって早手紙を出してくれるってよ!」


 「録画を見せたらマダムが出禁にして良いって!」

「よっしゃああ!警備に伝えるわ!」


◇◇◇


 娼館街に明かりが灯り、各店の窓から遊女が手を振る。客引きが道ゆく男たちに声を掛ける。


 その中でもマダム・ロザリンドの高級娼館は別格だった。

 女たちは窓から道行く男たちを眺め、微笑むだけ。門前の男に声を掛けてくる世間知らずな男たちに提示されるのは、庶民には手が出せぬ金額。

男たちは回れ右して帰っていく。


 やがて大きく丈夫な馬車が何台も止まる。

余裕ある紳士たちが顔を見せるだけで、店の者たちは誰なのかを理解し頭を下げる。


 その様を模倣するように、ギラギラしたジャケットにピタピタのズボン、女性陣にこき下ろされたコーディネートを自信満々に着ている阿呆もといオリバーが現れた。


 お遊戯会のような格好に、一瞬皆が顔を歪める。追い返すべき、正しいものが買えない庶民なのか、頭の悪い貴族なのか判断に迷うのだ。


 そして悠然と顔パスで入ろうとして、ガッシャンと門が閉じた。

「失礼ですが、本日これよりオリバー・ブラウン様はこの店をご利用いただけません」


用心棒を兼ねた大男がスーツでにっこり笑う。


「何だとおおお!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがってええ!責任者を出せ!俺はブラウン家の跡取りだぞ!」

オリバーは頼んでもいないのに自己紹介しながらギャンギャンと騒いだ。


それは花街を行き交う様々な人々に奇異の視線で見られているが、本人がそれに気がつく様子はない。


 「ア、アリシア様、あの阿呆『何だとおお』ですって。あはははは!」

「理由しかないわよねえ、あんなことしておいて。あー恥ずかしい!」

アリシアとミアは三階の窓からオリバーが地団駄踏む様子を眺めて笑いが止まらなかった。


 「ほお、君がブラウン次期公爵か」

「あ?」

老紳士のゆったりした言い方にオリバーは苛立った面持ちのまま振り返ったが、すぐにその顔を青褪めさせた。


「駒鳥屋の……」

「その顔をするということは、少しは自分が過ちを犯したと理解しているのかな」


「あああああ!修羅場あああああ!」

「ちょっと皆んな外ばっか見ないでよ!」

女たちは皆窓を突き破らんばかりに張り付いて、その行方をワクワクと見守った。

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