まだまだ続く、オリバーくんのしっぱい
オリバーは父親に怒られて部屋に戻った。
その行動は気の強い五歳の子供のようだが、五歳ならまだ可愛いけれど、二十歳を超えた身長180cmの男が「パパに怒られた」と逃げ帰るのは気持ち悪いの一言に尽きる。
そうメイドの女性は同僚に語った。相手のメイドも全肯定した。
「何か理由があるなら良いわよ、ええとグレイ様が貸してくださった……」
「グレイ様って本当に気が利いて……、わざわざ私たちにまで流行りの小説を……、ああそうそう、あの恋愛小説ね、そうね、あの男主人公並みに努力が報われなければ成人でも泣いて良いと思うけど……」
「オリバー様が努力したところって見たことないわね」
◇◇◇
オリバーの部屋の中は荒れていた。オリバーがやましいことを隠すために、「俺の部屋には誰も入るな」と言ったためだった。
それでも今まではアリシア自身が整えたり、手が回らないときはオリバーがいない隙にメイドを呼んで掃除したりしていたが、今日は昨夜から変わらない様子の部屋が無機質にオリバーを出迎えていた。
仕立て屋が流行だという、砕いた宝石を散りばめた青いジャケット、夜でも月の光を反射して女性に居場所を知らせられる銀色のシルクのフリルシャツ、遊び心のあるピンクの靴下に、最近話題らしいレイナルドなんとかというデザイナーだか洋服屋だかのスレンダーなブラックパンツ……他にも女性にモテる、流行りに聡い貴族男子の嗜みとしての衣服や小物類が、パーティーに行く前に散乱させたままになっている。
「アリシアめ、掃除もまともにしないで……!資料を届けに来たならササっと掃除くらい出来ないでどうする……!気の回らない女だ!!やはりグレイ家には苦情を入れてくれる!」
そうして憂さを晴らすために友人の家へ行くことにした。彼なら市井のちょっとした店で飲んだり、パーティーをしている貴族の家へ行ったりするのに付き合ってくれるだろう。
招待状はないが、国で五家しかない公爵家の跡取りを拒む家などそうそうない。
あとはどこの家でパーティーをやっているか知るだけだ。そのためには顔の広い友人の協力が必要だった。
「良いパーティーがなかったら、娼館でも行くか。遣り手婆が五月蝿いあそこは、丁度良い、俺が次期公爵だということを分からせてやる。従業員も教育が行き届いていないから、貴族に対する扱いを学ばせないとな」
もし潜り込めそうなパーティーがなければ、娼館でゴネてストレスを発散しようという迷惑千万な計画まで立てて、また趣味の悪い服と流行だからと価値も分からず買った服を散らかし、頓珍漢なコーディネートで家を出た。
金色の鳥が背中に羽ばたくケバケバしいジャケットには、自動追尾で隠し魔記録が貼り付く。
◇◇◇
「何でだよ!?」
オリバーが素っ頓狂な声をあげたのは、顔の広い友人の侯爵次男の家の前だった。
彼は親友だというのにオリバーに顔すら見せずに、今日は都合が悪いから会えないと、執事ですらない従業員伝手に伝えてきたのだ。
「俺はブラウン家の跡取りだぞ!そんな態度で良いと……」
「ブラウン様のお陰で、国内のリント社支社との取引に支障が生じているため、お忙しいのではないですか?」
「なっ、な、ぶ無礼な!」
ただの黒服の男は一時間近くごねられて、やっと分かりやすく教えてあげた。次期公爵というなら、むしろ詫びに来るべきところを、これから遊びに行きたいから招待されていないパーティーに潜り込ませろとは、呆れを通り越して憐憫の情すら湧いてくる。
「ブラウン様には、教えてくださる方がおられないのですね……」
従業員の見るからに哀れみの目を見て、懲りもせずオリバーは激怒した。
ただ平民の従業員に無礼な態度を取られたからではなかった。
普段ならアリシアが教えてくれていたからだった。
アリシアの溜息を吐きながら、幼子に言い聞かせるような声や、保護者のように頭を下げる様子を思い出し、オリバーは更に羞恥と怒りを煮詰めた。
「くそ!全部アリシアが悪いんだ!俺に教えないから!」
そう叫んだ先には、さっきの従業員の姿もなく、オリバーは見送りもなしに侯爵邸を跡にすることになった。




