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オリバーの受難

 「クソッ……クソッ!」

オリバーは廊下を歩きながら、壁を蹴りつけた。


上着をバサっと脱ぎ捨てる。

金銀のスパンコールやビーズが縫い付けられた派手で重い上着は、羽毛布団に少し沈んだ。


「何だ、今日は!何もかもが上手くいかない!何なんだ!」


いつもなら、商談は笑顔と笑いで声で終わる。

アリシアが要点を話し、オリバーはそれを復唱し許可するだけ。

商人たちは満足し、契約は成立する。


簡単なことだった。


 なのに、今日は……。

「オリバー様」

振り返ると、父の側近が立っていた。

「公爵様がお呼びです」

「……今、行く」

嫌な予感しかしない。


◇◇◇

 執務室のドアを開けると、ブラウン公爵が執務机に両肘を付き、手を組み合わせて、頭はガックリと項垂れていた。


「……父上、参りました」


「オリバー……」

公爵が振り返る。その表情は、怒りとも失望ともつかない、作りかけの面のようなものだった。


オリバーは先程、隣国の貴族に同じ顔をされたことを思い出し、怒りと羞恥で頭が沸騰した。


 「隣国の商人から、書状が届いた」

公爵が淡々とした口調で机の上の手紙を指差す。


「『次期公爵は商談の内容を全く理解しておらず、このような状態では取引できない。グレイ嬢の同席なしでの商談は、今後お断りする』……とのことだ」


オリバーの顔から血の気が引いた。

「そ、そんな……!」

「何か言い訳はあるか?」


「アリシアが来なかったんです!!断りもなく来ないなんて!これはグレイ家に賠償請求すべき問題で……」


「たわけ!」

公爵の目が、鋭くなる。


 「馬鹿なお前のために賢いグレイ嬢に助けてもらっていたんだろうが!それなのにお前はあの子を『勝手に商談に付いてくる』などと高慢甚だしい紹介をして……それでもあの子はお前や我が家の面子のために粛々と働いてくれていただろう!私が知らないとでも思ったか!!」


「いや、だって、俺が一人で出来るって言っても勝手に付いてくるのは本当で……」


「一人で出来ないではないか!何だこの有様は!!一人で出来るだ、勝手についてくるだのと宣って、お前の希望通りグレイ嬢が来ず、お前一人で失敗すれば家を巻き込んだ賠償請求だと!?恥を知れ!」


オリバーは唯一の取り柄の顔を盛大に歪ませた。


 「オリバー……」

公爵が、ゆっくりと近づいてくる。

「お前は、本当に何も分かっていないのだな」


「え?」


「グレイ嬢がいなければ、お前は何もできない。それが今日、証明された」


「そんなことは……!」


「いいか、オリバー」

公爵が、冷たく言い放つ。

「我が家は、お前のような無能でも公爵家を継げるよう、グレイ嬢を婚約者にした」


「……」


「もしグレイ嬢に婚約を破棄されたら、お前は次期公爵の座を失うことになる。それだけは忘れるな」


「……そんな!?だって我が家の男子は……」


「話は以上だ。出て行け」


オリバーは、逃げるように執務室を出た。

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