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そして最終回

 国は富み栄え、私は歳をとった。

 タロウちゃんは大きくなって大統領になった。ごめん、それならもっとかっこいい名前にすればよかったね。ケンドリック・ラマーとかさ。


 我ながら良い国をつくった。

 サワムラ帝国は一貫して、国民主権、人権の尊重、平和を、何よりも大切にした。


 戦争の火種があれば外交で解決し、国民優先で人権の侵害を罪とした。国民に選挙で選ばれた者が議員となって政治を行い、大統領選挙まで到達できた。


 やれば、できるんだ。

 転生前の現実世界では「選挙行っても変わらない」と投票をサボっていた自分を恥じる。

 政治に疎い私が、なんとか頭から書き起こした民主社会主義の理想図は、叶えられた。


 魔王トガリは建設会社を設立した。職員の安全第一の超ホワイトで、トガリは会社を成長させ、自らの大工仕事の腕も磨いた。

 トガリは頑丈かつ外観の美しい家を私に建ててくれた。


 シーナは厚生省大臣として、バリバリ活躍している。

 イチコは「一円単位で税金のムダ遣いしません!」と宣言して財務省大臣になった。サワムラ帝国の税金はムダな箱物なんて作ったことがない。その概念がない。

 ニチコ、サチコも国会議員として活躍している。


「お迎えに来ましたよ、サワムラ女王」


 すっかり立派になった、口ひげを生やしたタロウちゃんが車で私を迎えに来てくれた。


「ありがとよ。最近はひざが痛くってねぇ」


 えっこらしょ、と私は立ち上がる。


 五月一日、今日はメーデーフェスだ。

 車の窓から外を見ると、歩道には風船を持った子供たちが歩いている。

 マーチングバンドのパレードでは、作業着や白衣、コックやお店の制服など、あらゆる労働者が行進する。


 広場では、春のお祭りも行われていた。

 花冠を被った少女たちが広場の舞台で踊っている。

 市民たちはそれを見ながら、ビールや春野菜のパスタなど美味しい料理を楽しんでいた。


「みなさん、こんにちー! 僕たち三人は労働組合のアイドル! ヒーラーズです。僕はスーです!」

「ギューです!」

「ジョーです!」


 舞台に真っ白なタキシードのヒーラーズが登場した。

 医療制度が完全に整って暇になったヒーラーたちは、アイドルになった。マジカルパワーで出逢ったころのイケメンのままだ。


 メーデーフェスのメイン会場には、若い女の子のファンたちが集まっている。私は車を降りて椅子に座らせてもらい、ヒーラーズの舞台を見る。ババアになってもでかい私は、一番後ろで座って見ているぐらいがちょうどいい。


「ヒーラーズ、尊い…………」


 ファンの女の子が呟く。ふっ、尊い。その概念をこの世界に持ち込んだのは私だ。この国では私が言い出したんだからな。


「それでは僕たちの曲『絶対に7時間労働』を聴いてください」


 きゃー、と歓声が沸き起こる。


『いつだって そうさ

 僕たちは七時間、働いて

 ちゃんと家に帰って休むのさ 残業なんて、ダメダメ、ダメ


 僕たちはパンのみで生きてない

 心の休養大事なのさ

 自由な時間で増えたら

 もっと君の笑顔見れるから

 だから僕たちは主張していくよ

 労働時間の短縮を


 メーデー 生きる喜びは

 メーデー 働くことだけじゃない

 メーデー 生きてるって実感の時間のため

 メーデー、メーデー


 君を悪い労働環境から

 守りたい、のさ!』


 ヒーラーズの圧倒的な歌唱力と、フォーメーションが鮮やかなダンスに私は泣かされる。


 ああ、ブラック企業大国の日本育ち、労働激務育ちだから私はサワムラ帝国を作れた。日本のアイドルがメーデーフェスでこんな歌を歌わない。歌えない。


 基本的人権を大事にしてきた。人権教育を徹底してきたからこそ労働環境は純白だ。

 サワムラ帝国にサワムラ女王、一片の悔いなし。


「お久しぶりです。サワムラ女王。難民の時はお世話になりました、オーです」


 半分召されかけそうになった時、大男のハンサムに声をかけられた。ああ、あの時の。ちゃんと白シャツと黒のジャケットとパンツのセットアップだ。よかった、服着てるな。っていうかこいつ、まったく変わってない。


「ここで宣伝です」


 オーが両手を広げて言った。


「はい?」


「俺が登場している大河級長編ファンタジー『革命の双龍、3つの原則を守らなきゃ月に変わっておしおきよ』

 …………いや、違うな。三つの原則を変えたら追放されてスライムになった…………いや、違う。なんだったかな。あ、そうだ。

『3つの原則変えたらアカン、そこに愛はあるんか!?』 ちゃうな。

 とにかく『革命の双龍、3つのなんちゃら』という小説で、俺は革命に参加しています。主に美青年の相棒の匂いを嗅いで生きています。それでは」


 オーはぺこりと頭を下げた。


「いや、待て待て。何も宣伝になってないぞ。せめてタイトルだけはちゃんと言おう!」


「いや、しかし。忘れてしまったので。俺としたことが、はっははは」


 オーが豪快に笑う。


「まぁ、とにかく長い話で俺は変人枠で、でしゃばっています」


「それ、自分で言うんだ。あと美青年の匂い嗅いで生きてるっておまえそれ変態だぞ」


「そうですね、俺は変態です。芋虫が蝶になるように変わっていく俺という変態男は革命の物語に不可欠です」


「あ、そうなんだよねぇ。変態ってスケベな意味じゃなくて生物学的な意味なんだよねぇ。っておい、うまいこと話をすり替えるな」


「美青年の名前はライモで、白くて瞳は水色で髪の毛は黒で、つむじが綿菓子の匂いがします。俺の相棒で、唯一この俺を導いてくれる特殊な血の濃い人で…………おっとこれ以上は秘密のあきらくんです。では」


 オーが「祭りはいいなぁ!」と大声で言って去っていく。


「待て待て待て、ツッコミ所だけ言って行くな! それを言うなら秘密のあっこちゃんだよってこのネタ令和の子に通じるのか。ん、最終回じゃん」


「なんだよ、これ! すんばらしい国を築きあげた私の素敵なエンディングではないのかよ。まぁ、いっか。これ以上ないぐらいのハッピー国だしなぁ。さぁて、春野菜パスタ食いに行くかぁ」


 人々が幸せで笑えるお祭り、メーデーがずっと続きますように。


 終


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