放浪の王
人手不足はどうしようもなく、さすがの私もゲソっ。ゲソゲソしていると、ぱぁーん!と目の前が急に明るくなった。
「この国の女王よ! サワムラ女王! 難民たちを助けてくれたまえ!」
そう叫び、地面に転がっている私をその男は抱き上げた。たくましい腕、分厚い胸筋、腰は細いが筋肉のしっかりついた足。
そして、とてつもなく顔がよい。
アーモンド形の目に凛々しい眉、高い鼻に形のよい唇。
そして私より肩が広いわ、きゃっ。
「はぁい、助けて欲しいこととは?」
私は可憐に答える。
「戦争難民が傷ついているんだ。治療して欲しい」
悲しそうに男は言う。
「大丈夫ですわよ! ヒーラーグループ!
戦争難民たちを助けてあげて!」
私が呼びかけると、ヒーラーたちが集まった。
怯えた様子で集まっている難民たちは、みんな悲壮な表情だ。衣服は汚れてぼろぼろ、包帯を体に巻いている人や松葉杖をついている人たち。ヒーラーたちはけが人に手を貸しながら、診療所に連れて行く。
戦争によって傷ついた人たちに、ヒーラーは慈愛の表情を見せて安心させた。
私はもじもじしながら、降ろしてくださいと男に言って、お姫様だっこからの悲しい別れをする。
こんな私をお姫様だっこしてくれる、なんて素敵なオ・ト・コ
え、いや
「葉っぱだけ!!!!」
男は股間に大きな葉っぱしかつけていない。
「顔が良くても葉っぱ一枚は変態なんだよ!」
「おっとこれは。見苦しくてすまない!
難民たちに服を与えたら身につけているものがなくなってしまったのだ。そして名乗るのが遅れて失礼、俺はさすらいの王、オーだ。オー」
「ヤダ! 葉っぱ一枚の男にお姫様だっこされたなんて!」
私は顔をおおって、わっと泣く。
「裸でお外に出たらダメですよ。とりあえずこれを体に巻いてください」
タロウちゃんがタッタと走ってきてオーに布を巻いた。
「おっとこれは、ご親切にありがとう。なんとも肌触りのよい布だ。感謝する。ミシンはあるかね? 貸していただきたいのだが。私はこのように体が大きいので、自分の服は自分で作っているのだ」
「ミシン、ありますよ。サワムラ女王、貸してあげたらどうですか? 僕は難民さんたちの手当をしないと」
タロウちゃんが言う。
半裸のオーをほっておく訳にもいかないので、私は裁縫工場にオーを連れていった。
ミシンを動かしていた工場で働く女たちは、オーを見てみんな動きを止めた。
立派な男の姿にみんなが見入る。
腰に布巻いてるだけなのに、素晴らしい筋肉があるので、悔しいが様になるのだ。
「どうも、こんな姿で失礼、さらに仕事の邪魔しても申し訳ない。ミシンをかしていいただきたい。そして余った布を買わせていただく」
オーが言うと、みんながミシンから離れた。オーは一番端のミシンに座る。あらゆる布がオーの前に積まれる。
「うむ、ありがとう」
オーはわずか十五分ほどでカットソーとズボンを作って身につけた。さらに余った布を上手く縫い合わせて多くの服を作った。
「ありがとう。この恩は忘れない。よしよし、これで難民たちの服もできたぞ」
はーっははは、と笑ってオーは工場から出ていった。
私はオーを追う。
「あなた、何者なんですか。さすらいの王とは?」
私が尋ねると、オーはうーむ、と首を傾げた。
「私はこのように変わり者で、ひとつの場所にじっとしていられないのだ。俺は王の愛人の末子でな、まあいてもいなくても良い王族のため、ほったらかしで育った。なので好き勝手放浪して生きているのだ。放浪の王のオー、それが俺さ、はっはっは」
「サワムラ女王、あなたの噂を聞いて戦争難民たちを連れてきたのだ。あなたのようにたくましく広い心を持った方なら、難民たちを受け入れてくれるだろと」
オー王子にほめられて、私は胸を張る。
うむ、さすがだ。たくましい肉体を持つもの同士、分かり合うことがあるものだ。
「この国はアホな王のせいで国民が減った。労働者不足がしんどかった。難民たちが心身を癒して働いてくれるなら、助かる。もちろん、働けない間も助ける」
私はオーとガッチリと握手した。
「待ってください、サワムラ女王!
外国の者を受け入れたら混乱がおきるのでは!?」
「外人に国が乗っ取られるかもしれない」
「よく分からない国の人たち、なんだか怖い」
国民が集まってきて、口々に反対した。
「お願いです、私の話を聞いてください!」
少女の声がした。顔の半分にひどい火傷のアザがあり、片足に包帯を巻いて汚れたワンピースを着た十歳のぐらいの少女だ。
「お願いします、働きます、この国にいさせてください。私たちはもう行くところがありません」
少女が泣きだす。
「どうか私からもお願いします、この国にいさせてください」
「お願いします」
次々に難民があつまってきた。
ヒーラーのギューが悲しそうな顔で、松葉杖をついている人を支える。
「この人たちは悪い人じゃない。みんなとても傷ついているよ。いま、スーとジョーが酷い怪我をしている人の手術をしてる。どんな民族でも関係ない、同じ人間じゃないか」
私はギューの言葉に頷いた。
「そうです。同じ人間、助け合おう!
この国は人が少ない、難民を仲間にしよう! どんなに違う民族でも、同じ人間だ。私は難民を受け入れる!」
私は宣言した。
「そうか、まぁそうだけど」
「サワムラ女王が責任を持つなら」
国民が口々に言う。
それから二週間、心身ともに回復した難民はサワムラ王国にはなかったヤギや牛の飼い方や、トウモロコシの育て方を教えてくれた。そうして自然と肌と目の色が違う人々は国に馴染んで行った。
国民、という言葉を私は広い意味で使う。この土地で産まれた者でなくても、この国で生きたいと思ってくれた人が、みんな大切な国民だ。
「そういえば、オーは!?」
オーは気がついた頃にはいなかった。
また、放浪の旅に出たのだろう。
※
さすがに休むぜ
国づくりが一段落したので、私は休むことにした。私特性の巨大ベッドに寝っ転がる。
YouTubeのショート動画を永延と見てぇなぁ~~~
スマホ作れない?
さすがに無理っすよね。
「女王様、おやつを持ってきましたよ!
僕が作りました」
ぽやぽや可愛いタロウちゃんがチョコケーキを持ってきてくれた。おお、私の天使。私はチョコケーキを手で持ち、パクッと食べる。
しょっ
しょっぺぇ~~!
「どうですか? おいしいですか?」
タロウちゃんがキラキラした目で問いかけてくる。
「おっいしい、よぉ~~~」
私はこれはしょっぱい新しい料理だと思ってごっくんと飲み込む。
「よかった! サワムラ女王が建国してくれて、たくさんの人が助けられました。サワムラ女王がいなかったら、みんなバラバラになって、大変なことになっていたでしょう」
タロウちゃんの言葉に私はうるっとする。
「いいや、お礼を言うのは私のほうだよ。私、自分にこんな力があるなんて思いもしなかった。やればできるものだな」
しみじみと言って、私はふと前世を思い出す。
ごっつい女王に転生する前の私、よく「ぶつかりおじさん」や「痴漢」や「変質者」に遭遇してたな。
いかにも気の弱そうな見た目で、いっつも人の顔色うかがって空気読んでたっけ。
ああ、そうだ、転生前の私は今の私と真逆だった。モラハラ気質の言いなりで、浮気もおまえが素っ気ないからだとか言われたっけ。
「ああ、この体で前世に戻ったとしたら、どういう人生になるんだろう」
私は呟く。
「サワムラ女王、ゆっくり休んでくださいね。何かあれば僕を呼んでください」
タロウちゃんがぺこっとして部屋を出ていく。
そうだな、久しぶりに昼寝しよう。