国交復活
私のごつい体は低燃費だ。少しの水と食料で三日歩き、隣国へやってきた。
なんとまぁ栄えた国だろう。
夢の国に来たのかと思った。
白亜の城に、にぎわう城下町、煉瓦と瓦屋根の美しい町並み。
「通行札をお見せ下さい」
関所で私は門番に止められた。
「年パス·····じゃなかった、通行札はありません。私は隣の国のオー王女です。今はサワムラ女王です」
私が言うと、門番は不思議そう顔をした。
「失礼ながらあなたが王女?」
「はい、ごついですけど」
ちょっとどうするよ、と門番はもう一人の門番に話しかけた。二人でごにょごにょ相談している。
「しばしお待ちを」
門番の一人がそう行って、走っていった。戦争中の敵国なのにずいぶんと丁寧だ。
「オー王女、あなたが一人でこられたのですか!?」
赤いドレスの、二十歳ぐらいの若い女性が走ってきて、私の手を握った。
「ご無事だったのですね! お父上が亡くなって民衆の反乱があったと聞きました。わたくしのことを覚えていますか? 幼い頃、我が国と国交があったとき、私を肩車してださいましたね。王女のキアラです」
金髪の美しいキアラは瞳を輝かせて言う。oh、なんてことをしているのだ、王女が王女を肩車とは。
「ありがとうございます。今日は終戦のお願いにきました」
「ああ! よかった! 戦争には困っていました。あまりにも我が国と戦力が違うのに攻撃されて、無視する訳にもいきませんし、困っていました」
キアラが心底ほっとした顔をして、門番たちも安堵した顔になる。
おじいちゃん王、ほんと迷惑ばかりかけていたのね。
私はキアラに城に案内された。
「オー王女、ご無事で何よりです。終戦しましょう、もう戦争はこりごりです。うちはもうどことも戦争したくないですよ」
壮年の王様は王座から立ち上がり、謁見室で踊り出した。
「あ~~~♫平和が一番~~~無条件、終戦に~~~します~~~♫」
王様、歌いながら華麗にバレエジャンプ。
「うちの父はダンスと歌に凝っていますのよ。わたくしだって負けませんわよ!」
キアラはつま先立ちになると、くるくるスピンをはじめた。
「みんなみんな、生きている~~~殺し合うなんておバカさん♫」
親子で同時にジャンプ、決めポーズ。
「今日もお二人のダンスと歌は素晴らしい!」
臣下たち、使用人たちが拍手をする。
この国、変だな。
まあ無条件降伏にしてもらえてありがたい。
「ありがとうございます~~~♫
このご恩はかならず返します~~~♫」
私も歌った。
「なんと! オー王女はバリトンボイスですな! ほっほほほ、愉快愉快! 今日は終戦記念日です!」
王様が笑う。
「ありがたき幸せ。それでは私はこれで」
私は礼をして下がろうとした。
ちょっとこの国のノリにはついていけない。
「お待ちになって!」
キアラに呼び止められた。
「お国が何かと大変でございましょう。これはお見舞い金です。ご覧の通り我が国は豊かですので、どうぞ」
そう言ってキアラが持たせてくれた皮袋はずっしりと重かった。
「なんと! こんなにしていただいて·····」
「いいのですよ。また遊びに来て、バリトンボイスを聞かせてください」
キアラがにっこり笑う。
私は有り難く金貨を受け取った。
夢の国から帰って終戦を伝えると、皆、喜んだ。
「踊って歌う? いいなぁ、僕も行きたかったです。僕はリュート弾けますから!」
タロウちゃんが言った。そうだ、タロウちゃんは王族を喜ばせるためにリュートで弾き語りができる。
「うん、今度、夢の国に連れて行ってあげる。さて、勘定三姉妹さん、このもらってきた金貨で国民にまずは給付金だ」
たんまりある金貨を、イチカ、ニチカ、サチコの三姉妹は丁重に数えた。
「これなら金貨二十枚は、給付できますね」
サチコがそろばんを叩いていった。
「では、次は荒れ果てた農地だね。よし、明日の朝、農地へ行こう」
「無茶しちゃダメですよ、サワムラ女王」
「ふふ、タロウちゃんは優しいね。わたしはごついから大丈夫だよ」
私は一晩ぐっすり寝て、まだみんなが寝静まっている間に町外れの農地に行った。
ざくざくと畑をたがやし、種をまいて、ザックザックと掘り続けて川から水脈を引いて田んぼも作った。
そして原っぱで昼寝した、
「なんと! 畑と田んぼが!」
「これは神の仕業か!」
農家の人達は仰天していた。