女王宣言
女王宣誓
私と道化師ちゃんは、臣下の一人の屋敷でしばらくお世話になることになった。
臣下は奥さんと子供と再会の涙を流し、私に感謝してくれた。礼には及ばぬ。
「道化師ちゃん、あなたはもうおじいちゃんとおばさんの道化師ではありません。私の養子です。お名前は?」
「えっと、僕は名前がありません。親の代から宮廷道化師なので」
「おやまあ、では私が名付けてもいいかな?」
こくり、と道化師ちゃんはうなずく。
「タロウちゃんにしましょう」
「はい、王女! 名前をつけてもらうって嬉しいですね!」
にっこりとタロウちゃんが笑う。愛らしいこと。
「タロウちゃんはここにいなさい。処刑なんて子供が見るものではない」
「王女、本当に大丈夫なんですか?」
「心配することはない」
私はごつい体で荒れた街の惨状を見ながら、頭の中で新しい街の絵図を描く。
焼け落ちた城の前に処刑台が設置されている。ギロチンが青空の下で鈍く光っている。王子二人は泣き崩れていた。
私は群衆をかき分け、「ハッ!」とかけ声をあげて処刑台に上がった。
「あれは誰だ!」
「捕まえろ!」
「いや待て、あのごついのは……」
民衆がざわめく。
「みなさん、こんにちは! オー王女でございます。蜂起お疲れ様でした。このようなつまらぬ王子二人を捕獲して、華々しく処刑されるとは、お手数をおかけします」
「お前だけ逃げやがって!」
「助けろ!」
クソ王子二人が叫ぶ。
「まだ保身に走りますか、この王子どもめ。こちら左の長男は、妻がいながら女遊びに惚けて税金を湯水のように使ったクソ不倫王子。こちら右の王子もメイドに手を出しては孕ませて放置したクソ男。こんな者たちが兄とはお恥ずかしい。このまま処刑してもいいですが、この国を立て直すために労働してもらおうではありませんか。この者の監督は私が行います」
民衆は私を見上げ、顔を見合わせてひそひそと話し合う。
私は両手を広げる。
「父と兄の贖罪を私がします。私はオー王女ではなく……この国の責任者、サワムラ女王です。私がここに建国します」
私は民衆のざわめきを、目を閉じて聞く。
「私が良い国を作って、国民が満足してくださるまで一切の税はいただきません。サワムラ帝国は国民の幸せを追求いたします。『こんな国、見たことがない!』そう満足していただくため、このサワムラ、尽力致します!」
私は高らかに宣言した。
国民が静まり返る。
「よろしくて?」
問いかけると、わーっ! と声が上がった。
「税を取られないなら、子供を満足に食べさせてあげられるわ!」
「女王! 停戦をやめて、戦争やめてくれ! もう兵隊生活は懲り懲りだ!」
「生活保障を!」
私はすべての声を聞いて、頷いた。
処刑台から人々が去っていき、私は王子二人の首根っこをつかんで、城の焼け跡へと連れていき、スコップを持たせた。
「この下に埋蔵金が埋まっています。掘り起こしなさい」
私が言うと、「金!」と馬鹿王子たちはせっせと地面を掘る。
実はこっそり王の寝室から隠し財産の在り処の地図を盗んでいた。私ってばちゃっかり者。
金ピカの宝箱が出てきて、中を開けるとみっちりと金貨が詰まっている。
私は金貨を手にしてヨダレを垂らした馬鹿王子二人をしばき、金貨を皮袋に入れた。
国民の衣食住、教育費、農業支援、医療費と計算しながら皮袋に仕分けた。
「あなたたちは、馬小屋で生活しなさい。これが当面の生活費」
私は金貨一枚だけを馬鹿王子にくれてやった。
「お前一人でずるいぞ!」
「何が女王だ!」
「首チョンパから助けてやったのに。やはりするしかないか、処刑」
私が言うと王子二人は震えあがり、焼けずにすんだ城の馬小屋へとしょぼくれて入っていった。
「女王! おかえりなさい!」
「ああ、王女、命の恩人のあなたが女王になられるとは」
私の女王宣言はもうすでに街で広まっているのだろう。タロウちゃんと臣下が出迎えてくれた。
「うむ。さて、臣下さん。あなたの名前を聞いていなかったな」
私は臣下宅のリビングに皮袋を置いた。
「私の名前はソビンです。妻はレイラ、子供は上からイチカ、ニチカ、サチコ」
「ふむ、ソビン、子の名前適当ソビン。今日からあなたに経理をしてもらう。この国家予算をきっちりと勘定してもらおう」
私が皮袋を少し開けて金貨を見せると、ソビンはひゃっと声をあげた。
「わー! 金貨がこんなに!」
タロウちゃんも驚いている。
「それならば私たちにもお任せください! イチカです!」
黒髪ロングヘアに整った顔立ちのイチカ嬢が現れた。
「私も! ニチカです!」
ショートボブのニチカが現れた。
「サチコです」
ショートカットのサチコは両手にそろばんを持って現れた。
「我ら三姉妹が、一枚の金貨の誤差なく、経費をやりとげます」
三姉妹そろって言う。ふむ、この世界でもそろばんってあるのか。
「よし! 任せた。まずは国民に給付金だ。国がボロボロだからな。一人あたりいくら給付すれば良いか計算してくれ。私はまずは停戦を完全終戦させる。外交でな。金はいらぬ。パンと水を少しくれ、歩いて行く」
「女王、さすがにそれは無茶では!」
タロウちゃんが心配してくれる。
「いや、私だぞ? このごつい体だ。丈夫だからな」
「女王陛下、水とパンではいけません。野菜とくだものも」
ソビンの妻、レイラが私に食料袋を持たせてくれた。
「ありがとう。まずは平和! 安心して暮らせる平和が一番だ」
はっはっは、と笑って私は隣国へ旅立つ。