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おばさん王女

「おばさん、おじいちゃんが死にそうだよ」


 少年の宮廷道化師が瞳を潤ませて私に言う。おばさんとは三十歳になっても未婚の王女の私のこと、おじいちゃんとは王のことである。

 少年道化師はつぶらな青い瞳でとても可愛い顔をしている。


 おじいちゃん王は暴君だ、歳も八十を越えているしお迎えの時期だろう。

国はすっからかんだ。

 仕事ができる臣下は暴君王が殺すか投獄、跡継ぎの王子は二人いるが馬鹿だ。

 

「とうとう、国が終わるのか」


 私は豪奢なだけの王室を眺めて言う。

 やたら長い机にビロード張りの椅子、金の燭台、銀のティーポットに花模様の可憐なカップ。私は意味もなくこの贅の尽くされた食堂で読書をする日々だ。

まさか自分が、転生するとは。

 しかも離婚調停中、信号無視した車にはねられて即死、せめて離婚後に死にたかった。浮気した夫を一発殴っておけば良かった。

 

しかしまあ、私のごついこと。

 肩幅は広く腹筋は割れて腕はムキムキ、足は大木。着れるドレスがないのでゆったりとした絹のワンピースを自分で作った。

 亡くなった母上が、私があまりにも大きな赤ン坊だったので「oh!」と言ったことから私の名前は「オー」だ。


 ごつい体にハンサムである。

 嫁の貰い手もなく、三十路になったがこれは嬉しい、転生して結婚したくなかったからね。

 

「道化師ちゃん、安心なさい。国が終わったら私の養子にしてあげる。私、一級建築士だから」


「無理ですよ、王女様も処刑されます」


「なんで?」


「国民が怒ってます。だっておじいちゃんのせいで国民がたくさん死んでしまって、みんな飢えて限界です。王族はみんな殺せって」


「それは困るな。私はただでさえ悔いが残ってるのに。私は何も悪くはないのに処刑とは」


 ギロチンで首を落とされるのを想像して私はぞっとする。


「おばさん、僕と逃げましょうよ」


 道化師ちゃんが言う、キュンとする私。


「うん、それはいいかもだけど。どうせ捕まると思うな」


 私は腕を組んで考える。せっかく転生したのに、なんとまぁ国が滅亡するならば。


「よし、私が女王になろう。建国するぞ」


「建国?」


 道化師ちゃんが、目をパチクリとする。


「うむ。この国をサワムラ帝国にする!」


 私は宣告する。サワムラは私の旧姓だ。

 生きている間に戻れなかったサワムラに戻る!


「僕、わかんないです。おばさん、何言ってるの?」


 困惑する道化師ちゃん。


「道化師ちゃん、案ずるなかれ。おじいちゃんが死んで、バカ王子二人が処刑されても私は生き残る。私に計画がある」


 道化師ちゃんが首を傾げる。


「さて。計画を練りながら私は道化師ちゃんにかわいい服を作るか」


 私が立ち上がって言うと、道化師ちゃんは「イヤイヤ」と首を横に振る。


「おばさんが着ないフリフリの服、僕に着せるのやめてよ! 僕もう十二歳だよ!」


 道化師ちゃんはフリルのいっぱいついたブラウスにとズボンを着ている。私はクローゼットにある母上の豪奢なドレスを道化師ちゃんの服にリメイクして、暇をつぶしている。


「おばさんはね、かわいい服を道化師ちゃんに着させたくてね。まぁ少し控えめにします」


 はっはは、と私は笑いながら自室に向かった。


 その夜、おじいちゃん王は


「我が生涯に悔いがありまくる。国民からもっと税金しぼり取ればよかった」


 と最低な最後の言葉を残して死んだ。

 誰も悲しまない。

 二人の馬鹿王子はどっちが王に相応しいか争いはじめ、剣を抜いてカンカンやりだした。どっちもビビりなので及び腰で決闘にならない。

 私は騎士から鞘ごと剣を借りて、二人の頭をどついた。


「ぐぬー! 妹め!何をする!」

 

「嫁にも行けない子供も産まない負け犬女め!」


 王子二人が吠える。異世界でも結婚しない子供産めないと罵倒されるとは、呆れてしまう。


「外を見なさい。国民がついに蜂起しましたよ。ささ、道化師ちゃん、地下へ逃げましょう」


 私はおじいちゃん王が死んで泣いている道化師ちゃんを抱っこして、地下へ逃げる。

 城には松明が投げ込まれた。

 ギャーギャー騒いで、王子たちは何もできない。


 私は地下牢までくると、看守から鍵を奪い取り、すべての罪人を解放した。

 みんなおじいちゃん王の独裁に批判した臣下たちだ。


「ああ、王女。ありがとうございます」


 髭は伸びきってガリガリに痩せた臣下たちが私に感謝した。


「時間がありません、早く逃げますよ。城が燃えています。王が死にました、あなた方は自由です」


 私が言うと、臣下たちの目が輝いた。


「地下水道から逃げましょう! 小舟があります!」


 看守が案内してくれて、私は道化師ちゃんと臣下、看守とともに城から逃げた。


 あんなに立派だった城もあっという間に燃えてしまった。我先にと逃げた王子は国民に捕らえられた。


「もう城なんか、いらん。機能的な議事堂を私が設計する」


 燃える城を見ながら私は呟いた。


 

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