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友人

 5月になった。


 明日から連休ということもあって、放課後の教室にはいつもより多くの生徒が残り、休日の予定に会話の花を咲かせている。


 かく言う僕も、車校までの時間に余裕がある為、スマホで近場の観光スポットを検索中だ。


 明日になればクーが来る。家でまったり過ごすのもいいが、やっぱりどこか連れて行ってやりたい。


 今からではメジャーなところは予約が取れないから、近場で穴場が無いかと探しているのだ。


「なあ麻生。お前連休中空いてる日あるか? 遊びに行こうって話があるんだけどさ」


 僕はスマホをスクロールする指を止めて、声の主を見る。


 しっかり友人ポジに収まった爽やかイケメンの柿崎恭介。帰宅部の彼は同じく帰宅部の僕を放課後よく遊びに誘ってくる。とはいえ、自動車学校に通い始めたことで忙しいこともあり、今のところ誘いは全てお断りさせてもらっている。


 そして今日の誘いも返事はノーだ。


「ごめん。義妹が遊びに来るから連休は全部予定が埋まってる」


 連休は全てクーの為に使うつもりだ。野郎とつるむ暇なんて一秒だって無い。


「お前、妹いたのか?」

「うん。今は東京の全寮制の中学に通ってる。そういうわけで、連休は義妹とあちこち見て回ろうと思ってるから無理」

「そうか。なら仕方ないよな」


 恭介が、廊下に向かって腕でバッテンを作って見せると、その先にいた数人の男子生徒が肩を落として去っていく。


 想像通りで、大きくため息をつく僕。


 またか……


「ほんと、あからさまだよねー」


 呆れたように声を上げるのは、後ろの席の生駒さん。


 放課後は真っ先に部活に向かうテニス少女は、今日はだらんと力なく机に突っ伏している。6限目の英語の授業で、米沢先生にいじられてゼロになったライフがまだ回復していないらしい。


「まったくだ。すまないな麻生」

「いいよ。恭介にも立場があるだろうし」

「そう言ってくれると助かる」


 さっきの男子生徒は、僕と仲良くすることで、みらいや撫子にも近づこうとした他クラスの連中だ。


 大方、僕を誘えば、みらいや撫子がついてくるんじゃないかってのを期待したんだろうけど、僕のところに来ないで、恭介を窓口にするのがせこい。っていうか、直接彼女達を誘え。


 恭介も乗り気じゃないみたいで、下心目的での誘いは、こっちにわかりやすく伝えてくれるし、断ってもしつこくしない。交友関係が広い恭介からすれば、頼まれたら断りづらいのだろうが、恭介は巻き込まれてる被害者だ。


「柿崎も断ればいいのに」

「連中の本心はとにかく、誘われてるのは麻生だからな。俺が断るのは違うだろ?」


 生駒さんの意見はもっともだけど、決めるのは僕という恭介も正しい。


 僕だって高校生活を一匹狼で過ごす気は無い。放課後友人と遊ぶ。そんな当たり前の青春を送りたいって気持ちは普通にある。


 さっきのも、予定が空いてたらオーケーしたかもしれない。彼等は下心から近づいたのかもしれないが、実際付き合えば打ち解けてたかも知らないのだから。


「とはいえ、麻生が付き合い悪いのも事実だからな。本当に予定入ってるのか?」

「うん。車校もあるし、妹は海外育ちで日本初めてだから、色々連れて行きたいんだよ」

「それならしゃーないか。あ、俺がお前と遊びたいのは本気だからな?」

「わかってるって。生活が落ち着いたらこっちから誘うよ」

「おう! 言質とったからな!」


 拳をぶつけて男の友情を確かめ合っていると、そこにパーで乱入する奴がいた。生駒さんだ。


「ん」

「なに? その手。生駒さんも遊びたいの?」

「ちがう。さっき言ってたあそーの妹が見たい。写真あるんでしょ?」


 みらいより図々しいな。


「あ、俺も見たい」


 と恭介も乗って来る。


「普通妹の写真なんて持ち歩かないと思うけど?」

「あるでしょ? なんかあそーシスコンっぽいし」

「そうだな。休日に連れまわすくらいだもんな」


 くそう。余計な情報を与えてしまったと後悔する。


 二対一。それもぐいぐい来るタイプの恭介と生駒さんはこういう時、本当に良いコンビネーションを発揮する。


「まったく……絶対に広めないでよ?」

「なんか意味深だね」

「見ればわかるよ」


 誘いを断ってばかりも悪いと思っていたところだ。僕はスマホに移していた、東京で撮ったクーの写真をふたりに見せる。


「はーーーーーっ!?」

「えーーーーーっ!?」


 突然上がった声に、僕は慌てて口元に指を立てた。


「しーっ! まだ義妹のことはここだけの話にとどめて欲しいんだ」

「あ、ああ。すまん」


 首を突っ込んできそうな伊妻さんや、鈴原委員長がいなかったので、多少視線を集めただけで済んだのが幸いだった。でなければ、連休明けには褐色銀髪美少女の存在が学校中に知れ渡っていたことだろう。


「すっげぇ美少女……CGじゃ無いんだよな?」

「リアルにいるよ」

「これどう見ても、あそーと血、繋がって無いよね?」

「父さんがあっちで引き取った子だからね」

「なるほどな。あの宮津さんや真崎さんにあれだけなつかれて、平然と接してると思ったら、そう言うことか」


 何やら察したような恭介の言葉。それで生駒さんも気づいたようだ。


「じゃあ、前に彼女はいないって言ってたのは?」

「嘘だよ。僕と義妹は付き合ってる。でも社会的には妹だから、あまり騒がないでほしい」

「あ、ああ……わかった。生駒もいいな? おい、生駒?」


 衝撃を受けたように反応の無い生駒さん。目の前を手でひらひらさせていると、うわ言のような声が聞こえてきた。


「あそーは男にしか興味がないって思ってたのに……柿崎とくっつくんじゃないかって期待してたのに……」


 こいつ、腐ってやがった!


「生駒お前! 後ろから俺達をそんな目で見てたのか!」

「だってー! うひゃあ!」


 生駒さんの頭をわしゃわしゃする恭介。因みに自宅でトイプードルを買っているらしい恭介はわしゃわしゃも手馴れている。あっという間に生駒さんの頭はもふもふになった。


「あーもー、最低っ! 部活行こっ!」

「おー! 行け行け変態女!」

「ふんだ!」


 ぷりぷりの生駒さんが、教室ではいつも脱いでる靴下を穿き始める。


 セミロングの髪の間から白いうなじが覗く。日焼けした肌とのコントラストが色っぽい。


 美人が多いと言われる5組の中でも、上位に入るくらい可愛い子なのに……なんていうか残念な子だ。


「俺も帰るか」

「僕もそろそろ行くよ」


 僕もバス停に行こうと席を立ったその時だ。教室に体操服姿の藤沢君が入ってきた。


「麻生! よかった! まだいたか!」


 教室の入り口で、そう声を上げたのは、身長181センチでバスケ部の藤沢君。体操服姿でずいぶん急いでる様子だ。


「ちょっと一緒に来てくれないか? うちの部の先輩がお前のこと呼んでてさ」

「いや、もう帰るけど? 車校あるし」

「そんなこと言わないで頼む! バスケ部の為だと思ってくれ!」


 知らんがなー! という言葉を飲み込んで、僕と恭介はめちゃくちゃ嫌な顔をしながら顔を見合わせた。


 部活に入っていない僕は、今のところ上級生との関わりが無い。それなのに藤沢君を使って呼びつける理由なんて思いつくのはひとつだけだ。


「勧誘なら断るよ? あと、女の子の紹介も」

「い、いや、そうじゃない。なくもないけど……とにかく来てくれ!」


 やっぱり、みらいと撫子狙いか。


 カマをかけたら案の定ぼろが出る藤沢君。


「悪いな藤沢。麻生は俺の誘いを断るくらい忙しいんだ」

「邪魔するな柿崎……ほんと、頼むから来てくれって……でないと、俺が目を付けられちまうんだよ」


 間に入って擁護に入る恭介に、藤沢君はもう半泣きになっている。彼に使いに頼んだ先輩は相当怖いらしい。


 このままバックレたいのが本心だけど、そうすると少し面倒なことになるかもしれない。上級生だし、自分で動かず藤沢君をパシリにしてる時点で良識も無さそうだ。


「そういえばさ。バスケ部の誘いは絶対に断るようにって、テニス部の女子は全員言われてるんだよね」

「ほう? 生駒、そこんとこ詳しく」

「それはね──」


 生駒さんから聞いた話は、大変面白いものだった。


 結果として、僕はその日車校を休むことになり、生駒さんは部活を遅刻して、顧問の米沢先生にこっぴどく叱られた。


 そして、藤沢君はバスケ部を辞めた。


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