夢~みらい視点~
「ふぅん。そんな事考えてたんだ」
泊りに必要なものを取りにいく為に、あたしとなこはいったんうちへと戻る。道すがら、あたしはなこに思っていた事をぶちまけた。
クーニアがあやたにとって不幸の原因にしか思えず、素直に祝福できないという思いと、あやたの成長を喜べない自己嫌悪をなこは黙って聞いてくれた。
「最低だと思う?」
「思わないよ。渚さんや洋介おじさま。識子先生だって表に出さないだけで、きっと同じ事思ってるんじゃないかな?」
「なこは?」
「どうだろう? 私は彩昂君とそこまで親しくないから。それにクーちゃんは間違いなく被害者だしね」
「それは分かってるんだ。でも、どうしてもさ……」
「ねえ……もしかしてだけど、クーちゃんに嫉妬してる?」
なこにしては歯切れの悪い言いようが気になった。けど、そう思われても仕方が無いと思って、本心を口にする。
「恋愛的な意味での好きかってことなら、それは無い」
あたしがはっきり否定すると、なこは目を真ん丸にして驚いた。
「え!? そうなの!? あんなに仲良しで息もぴったりなのに?」
「元々弟みたいにしか思ってなかったし、再会するまでまじで忘れてたくらいだぞ」
「でも、再会した時、彩昂君のこと凄く褒めてたよね。かっこよくなって帰ってきた彩昂君のこと意識してたんじゃないの?」
「少しはしたよ。でも、やっぱりあやたは弟分って意識でさ。むしろ、あたしが嫉妬してるのはあやたに対してかな。身長も体力も抜かされて、しかも可愛い彼女まで作ってさ。あやたのくせに」
成長したあやたを見て、確かにちょっとはときめいた。でも、会えなかった5年の間に色々抜かされていたことの方がショックだった。そう思うのは、結局あたしにとってあやたが弟分でしかないからなんだ思う。
「それに、あたしもあやたも夢があるからさ」
「……そうだね」
あたしの夢は、生まれ育った温泉街で自分の温泉旅館を経営することだ。
お父さんの跡を継ぐのではなく、自分で新しく始めたい。『來畝』みたいに100年以上先まで残るような旅館の創業者になるのがあたしの夢。
伝統ある老舗旅館『來畝』のひとり娘としては話しづらくて、この夢はまだなこにしか話していない。
温泉街の為に働きたいあたしと、シシメルの為に働きたいあやた。
両立できない夢を持つ以上、あたしとあやたが例え付き合ったとしても、その先には破局か、どちらかが夢を諦めるかだ。
だからあたしとあやたが付き合うことは無い。
確かにあやたは男子として魅力的だと思う。でも、意識しそうになると、心理的なブレーキがかかる。
「だったら貰っちゃっていいかな?」
「えっ?」
思いがけない言葉に耳を疑った。
「あやたに気があったなんて初めて聞いたけど?」
「会って間もないし、恋してるって程じゃないけど好感は持ってるよ。そのうち本気で好きになっちゃうんじゃないかなってくらいには意識してると思う」
まじか……
白いほっぺた朱に染めて、目を伏せたなこは、めちゃくちゃ綺麗だった。
何が、「恋してる程じゃない」だ。
しっかり恋する乙女の顔してるじゃん……
「じゃあ、あたしに嫉妬しているのか聞いたのって……」
「遠回しにみーちゃんの気持ちを確認したんだ。ずるかったよね。ごめん」
いや、なこは悪くない。
近くにいながら、なこの気持ちに気付かなかったあたしが鈍感だったんだ。
「いったいあやたのどこがいいんだ?」
「さあ? 私も気が付いたら意識してたからわかんない」
「もし、あたしがあやたを好きで、義妹ちゃんに嫉妬してるって答えてたらどうするつもりだったの?」
「胸にしまったまま、忘れるつもりだったかな」
「そっか」
それから言葉も無く、しばらく歩いた。
なこの恋は既に終わっている。あやたには既に彼女がいたからだ。
あんにゃろー! なんで今日まで黙っていやがった!?
今すぐ戻ってあいつを殴りたくなってきたぞ。
「あ、殴りたいのは私も一緒だから」
指を鳴らすあたしの横で、なこも拳を握っている。
「よし、今から一緒に殴りに行こうか」
やーやーやー! あーやーたー!
「待って。いいんだよ。私、彩昂君のことまだ諦めてないからね」
拳を握ったまま前を向く。なこの横顔は、失恋に落ち込む様子はまったく無かった。それどころか、冒険に旅立つ勇者のような表情で、あやたを落としに行くと宣言した。
「だけど、あやたには義妹ちゃんがいるだろ。どうすんの?」
「NTRって燃えるよね!」
お前はざまぁで炎上したいのか。
「首尾よく付き合えたとして、あやたは将来は海外行っちゃうぞ? どうするの?」
「それはいいの。私、国際弁護士になるつもりだから」
そういえば、以前将来を語った時にそんなこと言ってた気がする。難しくてあんまし覚えてないけど、国際って言うくらいだから、きっとあやたの夢にも寄り添えるのだろう。
NTRがどうとか言ってるやつが、なれるかどうかは知らんけど。
「NTRは冗談だけど、彩昂君とクーちゃんの関係には、私もちょっと思うところがあるんだよね」
「思うところも何も、そもそもツッコミどころばかりだぞ。血の繋がりが無いとはいえ兄妹なんだから」
「あ、うん。そうなんだけどね。私が言いたいのは、今の彩昂君の心の状態は、どう見たって正常じゃないってこと」
つまりあやたの頭がおかしいって?
お前はそんな奴に惚れたのか?
「確かに変な奴だけどさ」
「そうじゃなくて、考えても見て。彩昂君が何を経験したかを考えれば、心を病まない方がおかしいと思わない?」
「うーん。確かに」
マフィアに追われる生活なんて、誰だって恐怖で気がおかしくなるだろう。
まして、あの気の弱いあやただぞ。
「今の彩昂君とクーちゃんは、お互いに依存しあう吊り橋効果の状態になってるんじゃないかな? もし、効果が切れれば普通の兄弟に戻るかもしれない。実際、5年も一緒にいて付き合い始めたのは最近みたいだから、ありえなくはないと思わない?」
「無いとは言えないけど……」
なこの言うことは一理あるけど、すぐには納得できなかった。
なこも最強クラスの美少女だけど、向こうは次元の壁をぶち抜いてきたような、褐色銀髪美少女だ。吊り橋効果関係なく男ならあの子に惚れるだろう。一緒に暮らしてるなら尚更だ。
あたし達はカウンセラーでもプロファイラーでもない。判断を誤って行動すれば、傷つくのはなこである。
「彩昂君の口調や仕草が妙に子供っぽいのに気づいてる?」
「あやたは昔からあんな感じだぞ?」
「それがおかしいんだよ。小学校4年生の時と変わらないなんて」
「そういえばそうか。でも、日本語が久しぶりだからってのもあるだろ?」
「私も最初はそう思ってたんだけど……本来の彩昂君ってみーちゃんの後をついてくるような、大人しい性格だったでしょ? でも海外行ったら自分でクーちゃんを護らなきゃならなくなって、本当は誰かに助けてほしくても言だせなくて、必死に弱い心を抑えてる。それで無意識に子供っぽい口調や仕草が出てるんじゃないかなって」
「あやたは実は無理してて、本当は甘えたいのに甘えられずにいるってこと?」
「うん。本人も気づいてないだろうけど、たぶん彩昂君の心はぼろぼろだよ」
あやたはたった5年間で凄く成長して成果を出した。
そんなの簡単じゃないに決まってる。
色んなものを犠牲にして、頑張って……
あやたが家に来た日、お母さんに怒られたあやたが泣いていたことを思い出す。
あの時あたしは、泣き虫なの変わってないなーとしか思わなかったけど……
壊れてたのか?
平気なふりして、今も苦しんでるのか?
ありえる。あいつ、昔から具合悪かったりしても隠すんだよ。
なんで気づかなかった? 自分のことばかりで腹を立てていたあたしは、幼馴染失格だ。
「あたし、あやたのこと何も見ていなかった」
「みーちゃんは素で彩昴君の癒しになってたと思うよ?」
「なんか馬鹿にしてない?」
「そんなことないって! みーちゃんは人を癒す天才だから」
「そう……ならいいけど」
そうだったら、旅館の娘としては、凄い嬉しい。
「それでね、私これから彩昴君のこと目一杯甘やかそうと思うの。協力してくれないかな?」
なんだかちょっとピントがズレてる気もするけど……
たぶん、あやたにふさわしい相手はなこしかいない。
あたしはなこに協力することにした。
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