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英雄

「でも、なんでそれでVチューバ-? っての始めたの? あやたってそういうの好きだったっけ?」

「どっちかっていうと苦手だったかな」


 元々陰キャな僕は、テンションが高い人間が苦手である。学校で流行っていた人気ユアチューバーの動画なんかも見ていなかった。


「前にも話したけど、アンデス山脈には、まだまだ地図に載っていないような山村が幾つも存在する。そこに暮らす人達は、人買いの連中に搾取され続けてきた。ある日、子供が消えるなんて当たり前。でも国は動かない。銃を持った相手に自衛する手段もない。山を下りて助けを求めようにも金もない」

「あやた。よくそんなとこ行ったな」

「僕も最初はそんなことになってるなんて知らなかったんだ。僕が住んでた村はまだマシだったから。でも、うちの義妹、めっちゃ可愛いだろ? 目をつけられて、攫われそうになったのをきっかけに実態を知ったんだ。それが3年くらい前」

「しれっと惚気るな」

「しょうがないだろ? 可愛いんだから」


 そう言うと、一瞬みらいの頬がぷくっと膨れたように見えた。


 もしかして、クーに対して嫉妬した?


 いや、まさかね。


 みらいが僕を意識してるなんて自意識過剰すぎる。


 長椅子の上で胡坐をかいて、僕の話しを聞いているみらい。腕を組んでまるで牢名主のような態度だけど、胸が盛り上がって、ショートパンツの裾の隙間から太ももの奥まで見えてしまっている。


「なに?」

「いや、なんでもない」


 不機嫌そうな声に、僕は目を反らす。


「3年前って事は、クーちゃんの心臓を狙ったマフィアとは別ってこと?」


 真崎さんの疑問に僕は頷く。


「マフィアとも繋がりはあったかもしれないけど別だよ。そいつらは言わば山賊で、国の庇護を受けていない山村の住人を攫って金に換えていた奴らだ。だから人買いって呼ばれていた」

「山賊って、今は21世紀だぞ」

「ソマリアでモーターボートに乗った海賊が出るように、アンデス山脈にはAK持って登山服着た山賊が出るんだよ」

「そうか……」

「人買いの連中が好き勝手してたのは、山村の存在が知られてなかったからだ。だから彼らの文化や生活を紹介する為にVチューバーになって配信を始めたんだ。何かできる事やりたくてさ」

「義妹ちゃんの為に?」

「まあ、ね」


 そう。クーの為に、好きとか嫌いとか、向いてないなんて言っていられなかった。


 それにしても、みらいの口ぶりには棘がある。


 やはり、嫉妬なのだろうか?


 なんともやりづらい。


「そっか。ネットで山村に暮らす人達の存在を広めれば、悪い人達も動きにくくなるもんね」


 みらいの不機嫌には、真崎さんも気付いているみたいだ。 会話の間を埋めるように発言する。


 空気を呼んでフォローも完璧とか、流石は大和撫子の権現である。


「そういうこと。アバターを使ったのは人前で話すのが苦手だってのと、身バレを防ぐためだよ。反社を敵に回すわけだからさ」

「ふぅん。あやたも考えたんだな」

「まあね」

「アバターも可愛いよね。プロに頼んだの?」

「うん。その頃は無名だったんだけど、今はラノベの挿絵とか描いてる人だよ。東京に住んでた頃、近所に住んでてよく遊んでもらってさ。Vチューバー始めたいって相談したら、キャラの絵は自分が描くって言って、最初のソータは無料で描いてくれたんだ。安全の為にオララの絵師だって情報は伏せてるから、自身の最大の仕事を公にできないって愚痴ってる」


 5年前は女子高生だった彼女も、今は22歳の喪女……フリーのイラストレーターである。


 日本に着いてすぐに菓子折り持って挨拶に行ったけど、生で見た褐色銀髪美少女(クーニア)に興奮して危なかった。


「そんな人と知り合いだなんて凄いね」

「本当に運が良かったよ。チャンネルも開始早々に反響があって、資金や協力者も集まった。これは僕の力っていうより、元々山村にはインカ文明時代の文化が残されていて、大衆の興味を引くのに十分な魅力があったからだ。実際、僕の演技についてはボロクソだったから」


 動画の流れとしては、モザイクのかかった僕と、山村の人々の交流が描かれ、解説をソータとしてアバターで行うといった感じだ。


 山村はアンデス山脈のあちこちに点在していて訪れるのも困難な場所にある。そんな場所に僕は父の仲間の調査隊に混ぜてもらって撮影を行った。最初は人買いの事もあって、よそ者である僕達を警戒していたが、そこで僕が日本人である事と、クーの語学力が役に立った。


 シシメルに暮らす人々は、自分達が過去ヨーロッパからの侵略に最後まで戦ったという誇りがある。そんな彼等にとって欧米列強と戦い、独立を保ち続けた日本は特別なのだ。彼等は日本に憧れと畏敬の念を持っている。


 国際研究チームのリーダーを父が務めているのもそれが理由で、その息子である僕にも山村の人達は親切だった。


 彼等のおもてなしには、色々あって困ったけどさ。


 そして、クニラヤの名を冠し、今は廃れた古い言語も理解する美少女であるクーを、彼らは女神のように扱った。


 おかげで山村の人々の協力を得られた事で、撮影は順調に進んだ。僕の思惑通り、山村の存在が知れ渡った事で、人買い達は非難にさらされ、うかつに手出しも出来なくなった。


 とはいえ、全てが順調だったわけでもない。人買い達からの恫喝もあったし、山村に暮らす若者の中には、日本人? だからどうした! その美少女をよこしやがれ! というような輩もいた。


 中でもこたえたのは、アンチによる言葉の暴力だ。


 なんせ僕は素人だ。絵も内容も良いのに、ソータの喋りが酷いってさんざんディスられた。言葉もようやく慣れてきた頃だったから、聞き取りにくさもあったと思う。


「ふふ。でも結構愛されてるよね? 幼少期のソータの絵も可愛いし」

「最初から見てくれてるの?」


 ソータの絵は僕の声変わりに合わせて、成長した姿に変化している。


「うん。スペイン語わからないから、上手い下手がわからないせいかもしれないけど、一生懸命なのが伝わってきて私は好きだよ」

「ありがとう。そう言ってくれるファンに本当に助けられたよ。クーがクニャンとして参加したらあっという間に人気は取られたけど」


 僕の活動に触発されたクーが、自分もやると言い出した。


 ネイティブ発音で、しかもめっちゃ可愛い褐色銀髪猫耳アバターのクニャンの登場で、チャンネルの人気は爆上がり。その後、オックスフォードの大学院から来ていたリアナがリアノンとして参加して、オララというグループ名が決定。リアノンお姉さんのより専門的な解説も話題になって、さらに登録者が伸びた。


 おかげで僅か1年間で登録者は100万人を達成。


 収益や寄付を元手に、山村の作物や民芸品の販売事業も開始。オララが広告塔になって、業績を伸ばしていった。


「それで、人買いの連中はどうなったの?」

「山村の人達の逆襲にあってコンドルの餌になったよ」

「……そうか」


 アンゼリカ・フェレロがクーの心臓を持って来いという配信をしたのはその数か月後のことである。


 もし、Vチューバーになっていなければ、護る事は出来なかった。ひとたまりもなく殺されていたはずだ。


「僕がVチューバーになった理由。わかってくれた?」

「凄いよ彩昂君! 本当に英雄だよ! ね! みーちゃん!」

「あ、うん。頑張ったなあやた」


 真崎さんとは対照的に、みらいはやはり不機嫌だ。


 とはいえ、彼女が口元をへの字にしている理由を尋ねる事ができなかった。


 五年前、僕はみらいから逃げた。彼女を悲しませてしまったという負い目が、心にしこりのように残っているのだ。


読んで頂きましてありがとうございます。


少しでも面白いと思ってもらえたなら、ブックマークや評価、リアクションを頂けると幸いです。


あー、どうでもいいけど女の子にお相撲させたい! みらいとクーニアにまわしを締めさせたい!

皆さんはどんな内容でどっちが勝つと思いますか? よかったら聞かせてください。

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