表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/25

放課後

 放課後。身体測定やらなんやらを済ませていたら結構遅くなってしまった。一応まだみらい達が残ってるかと思って茶道部の部室を覗いてみたが、明かりの消えた部室は施錠され、中に人の気配はない。


 扉には付箋がぺたりと張られている。


 先に帰る。みー&なこ。


 身長が伸びてたことを自慢してやろうと思ったのに。


 さっき保健室で測ってもらったところ、174センチになっていた。前に測ったときより1センチ以上伸びていたのだ。


 一時期アメリカの植民地だったシシメル共和国は、世界でも珍しいヤードポンド法の使用国である。以前測った時の数字言ったら、保健室の先生が困惑させてしまった。やっぱり単位はセンチメートルの方が分かりやすい。ヤーポン滅びろ。


 スマホで時刻を確認すると16時40分。みらい達は今頃もう家についているだろう。


 スマホの着信は0件だ。まあ、今のところ電話帳には洋介さんしか登録されてないから仕方が無い。


 今後のために、みらいの連絡先だけでも交換しておこうと思いながら部室の前を後にする。


 昨日と同じように青春の音色を楽しみながら校舎を歩いていると、不意に「麻生」と、声をかけられた。


 自己紹介の時に僕に彼女がいるかって聞いてきたやつだ。苗字は尾張で、名前は知らない。


「えっと、尾張君だっけ?」


 170センチくらいの身長に、マッシュヘア。線が細く、色白で中世的な顔立ちな事もあって、実は女の子ですと言われてたら信じそうなくらいの美形。でも、自己紹介の時の態度から、僕は今のところ彼には良い印象を持てないでいる。


 尾張君の隣には恋人繋ぎで腕を絡めている女子生徒。僕が言えたセリフじゃないけどあえて言おう。リア充め。


「ああ、噂の帰国子女?」

「結構いけてるだろ? 英語も出来るしかなりスペック高いぜ」

「ふぅん」


 女子生徒が値踏みをするような眼を向けてくる。


 クラスでは見なかった顔だ。杜高の生徒としては派手な感じで、毛先にパーマをかけ、校則に触れない程度の色合いで髪をボルドーに染めている。ぱっと見美人に見えるけど、メイクにがきついので素はわからない。


 そして、次に女子生徒から発せられた言葉は、想像の真下を突き抜けるものだった。


「あんたの家って金持ちなの?」


 いきなり金の話とかアウトやろ。


 金持ちだったら乗り換えようって魂胆か? 彼氏の前でよく言えるわ。


 それとも、カツアゲでもするってか?


 昔の僕ならびびっていたかもしれないが、今の僕は例え暴力に訴えたところでどうにでもできる自信がある。なにしろ喧嘩はPMC仕込みだ。そこらの学生なら二対一でも負ける気はしない。


「うちは親が教師の一般家庭だよ。海外で暮らしてたといっても、途上国の山奥だし」


 実際のところ、うちはそこそこ裕福だし、僕自身が使えるお金もそれなりにある。でも、そんなの教えるはずもない。


「ふぅん」


 甘えるように尾張君に絡みつく女子生徒。まさか本当にカツアゲさせるつもりじゃないだろうな?


「おい、やめろって。麻生にはそういう目的で声をかけたんじゃねえよ」


 流石に尾張君が窘めに入るが、つまりそういう目的で声をかける場合があるって事だ。


 僕はふたりに対する警戒を、戦闘態勢にまで引き上げる。ここがシシメルならコルトを抜きかけていたところだ。


「それで用件は?」

「ああ。俺、仲間内でユアチューバーやってるんだけど、麻生も入らない?」

「へぇ、どんなのやってるの?」


 すぐに断りたいのが本心だけど、日本の高校生ユアチューバーに興味が湧いた。断るのは確定だけど、一度見てみようと思ったのだ。


 尾張君がスマホを操作して動画を再生する。ジャカジャカとノリの良い音楽の中、ダンスをする坊主、マッチョ、イケメン(尾張君)の三人組。


 チャンネル名は『ハイマッド』。登録者数は80人。とはいえ投稿している動画がこれ含めて3本というところを見ると悪くない数字だろう。


 色違いで『灰泥』と書かれたTシャツとハーフパンツ姿。背景は海岸で、一応学校や身元が分からないように配慮しているようだ。


 坊主のダンスはキレが良く、マッチョはいかにもスポーツマンといった風貌で、尾張君とは別のベクトルのイケメンだ。


 とはいえだ。所詮は高校生のイキリダンス。正直僕は踊ってる3人組に対して特に関心は持てなかった。


「撮影上手いな。外注?」


 ダンスそのものは、将来彼らの黒歴史になりそうな出来だ。だけど、撮影と編集が上手い。おかげで素人のプロモーション映像としては悪くないものに仕上がっている。それがつい口に出てしまった。


「いや、撮ってるのも俺達の仲間だよ。お前、見る目あるじゃん」

「率直な感想だよ」

「はあ? なんでそこ? 普通ダンス褒めるっしょ?」

「事実、マキの撮影は上手いし。サルの考えた振り付けは微妙だろ? あ、今言った言葉あいつには言うなよな?」

「まあ、怜太がそう言うなら」


 尾張君の下の名前は怜太というらしい。


「それで、どうする麻生?」

「ごめん。せっかくだけど、僕は顔出しで踊るなんて出来ないから」


 僕がこんなイキリダンスしてるのマフィアが見たら、確実に挑発と受け取って殺しに来るわ!


 僕が断ると、尾張君は「ふうん」とあっさり納得したようだった。


「えー? せっかく怜太が誘ってるのに!?」

「いいんだ恵奈。麻生を誘うのまだ雄吾さんに言ってねーし」

「え? それヤバいじゃん? 雄吾さん絶対入れなかったって」

「まあ、事後承諾でもオーケー出たらラッキーみたいな?」


 どうやら、尾張君は仲間に言わずに独断で僕を勧誘していたようだ。


 これ、後から反対されたらかなり気まずい事になっていただろう。やっぱ僕はこいつが嫌いだ。他人を舐めすぎている。


 どうやら雄吾さんとやらが、彼ら『ハイマッド』のリーダーなのだろう。他のメンバーをマキやサルと愛称で呼びながら、ひとりだけさん付けしている事から、上級生なのかもしれない。


 撮影がマキ。恐らく坊主がサルで、顔立ちからして年上に見えるマッチョが雄吾だろう。あと彼女の名前は恵奈というらしい。


「まあ、気が変わったら言ってくれよ。仲間には話しとくから」


 お断りだ。という言葉を飲み込み、曖昧な表情を浮かべる僕。尾張君はまったく気にする様子は無いみたいだけど、彼女の方はこっちの心の内を察したようで睨んできた。


「恵奈?」

「ふん! 行こう!」


 肩にしなだれかかる彼女を連れて、去っていくふたりを見送る。


「くさっ」


 ふたりが去った後、コロンに混じった異臭から、勉強や部活に精を出すタイプには見えないあのふたりが、どうしてこんな時間まで学校に残って何をしていたのかを察した。


 まったく、神聖な学び舎で碌な奴じゃないな。


 今後彼等とは関わらないようにしよう。そう心に決めて、僕は学校を後にした。






「おかえり!」


 宮津家に帰ると、台所から頭だけを覗かせたみらいの元気な声に出迎えられた。


「ただいま」


 返事をして、靴を揃えて中に入る。


 夕飯の支度に忙しいみらい。


 トレーナーにハーフパンツ。素足にスリッパとラフな格好に、菜の花色のエプロンを装備して、ポニーテールをひょこひょこ、スリッパをパタパタ。


 最高か?


 夕飯の準備をしているのはみらいだけで、真崎さんの姿は見えなかった。


「ただいま。みらいひとり?」

「うん。なこは仲居のバイトに行ってるよ」

「そっか。じゃあ、今日は僕も手伝うよ」

「お。でも、まずはうがい、手洗いしてからだぞ。着替えてからこっち来て」

「おーけー」


 洗面所でうがい3回、手洗いを済ましてから部屋に戻ると、洗って干してあったシャツとジーンズに着替える。昨日着ていたのと同じだが、今は他に服が無いのだ。


「あやたって料理できんの?」

「まあ、一応ひと通りはやってた」


 父は意外と料理上手で、僕やクーも毎日父を手伝っていた。


 それに、料理動画は人気コンテンツだ。アンデスの名物料理は動画内で何度も作っている。プロ並みとは行かないけれど、家庭料理ならそれなりのを作る自信がある。


「ふぅん。向こうではどんな作ってたの?」

「主にトウモロコシやジャガイモの料理かな。あとはリャマやモルモットの……」

「わかった。ジャガイモの皮むきお願い」

「任せろ」


 から揚げの他に豚汁も作るらしい。僕はピーラーを使ってジャガイモの皮をむく横では、みらいがニンジンや玉ねぎを切っている。サクサクとテンポよく包丁を振るう音が心地良い。


「学校どうだった?」


 まるでお母さんみたいなことを聞いてくるなと、内心で苦笑する。


「めっちゃ楽しかった」

「語彙力小学生か」

「小学生の時から5年ぶりだったんだよ。学校行くの。向こうの小学校は当初碌に言葉が話せなかったから通えなかったし、村に中学校は無かったからさ」

「あやたって、学校行ってはしゃぐような奴だったっけ?」

「違ったと思うよ」


 かつての僕は、そこまで学校が好きではない、普通の小学生だった。子供は学校へ行くのが当たり前で、なんの疑問も持たずに毎日通う、普通の子供だった。


 結局、あって当たり前だったものが失われた時、初めて良さがわかるっていう、よくある話。


 久しぶりの日本の学校。同年代と共に過ごした時間はめっちゃ楽しかった。


 佐藤君は面倒くさいし、尾張君も苦手だけど、正直どうでもいいレベルの話である。


 野菜を切り終わり、鍋に入れたみらい。料理に一区切りついたようでエプロンを外している。


「後はなこが戻ってくる時間合わせてやるから、あやたは休んでていいよ。夕飯は7時半くらいになるから、その時また呼ぶね」


 時計を見ると、まだ1時間以上ある。


「わかった。それでだな……」


 連絡先を教えてくれ。何故かそれがすんなり言葉に出なかった。


「どうしたん?」


 きょとんとした顔のみらい。目が泳ぐ僕。


「えっと、あの……連絡先、教えてください」


 何故か敬語が出てしまった。しかも、最後の方、声かなりかすれて出なかったし。


「ちょっ!? 女子の連絡先聞くのに緊張するとか中学生か!?」


 こうして、無事みらいの連絡先を教えてもらうことが出来た。


 あと、日本で最もメジャーなメッセージアプリも登録する。


 グループ登録して最初のメッセージは、クマのスタンプで「よろしくまー」だった。

南米にいた頃、彩昂とクーニアは護身用に拳銃を持っていました。彩昂はコルトディフェンダー。クーニアはコルトオフィサーズ。いつかその辺も書きたいけど、いつになるでしょうね……


参考資料にトイガン買おうかと思いましたが、クソ高くて断念です。


投稿遅くて応援してくれなんてとても言えません…

読者様に感謝を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ