昼休み
そんなこんなで午前中の授業が終わって昼休み。
4時間目が体育だったこともあり皆腹ペコである。女子は体育館にある更衣室を使うが、着替えを教室で済ませる男子達は、着替え終わると早速持参した弁当を広げる。因みに杜高には学食は無いが、パンの販売がある為、一部の生徒は購買へと走っていく。
「麻生。一緒に食わないか?」
割と話すようになった柿崎恭介が男子数人と共に誘ってくれたが、残念ながら僕には先約がある。
「あやたー! 行くぞー!」
廊下から呼ぶ声に手を上げて答える。
「悪い。そういうわけだから」
「そうか。こっちこそ邪魔したな」
にやにやしている柿崎恭介。ぽかんとしている男子達を置いて、僕は教室前でみらいと真崎さんに合流すると、弁当の入った風呂敷包みを手に部室へ向かう。
その間、クラスメイト達が無言になってたのが怖いんだけど?
佐藤君や。そう睨まないでくれ。
さて、真崎さんは言うに及ばず、元気少女のみらいにしても、黙っていれば見目麗しいお嬢さんだ。茶道部の部員らしく、姿勢よく廊下を歩く姿は正に百合の花。
男子だけでなく、女子でもつい目で追ってしまう。そんな杜高屈指の美少女コンビは、いつも部室でお昼を食べているらしい。
ありのまま、今起こった事を話そう。
部室に入ったふたりは、まず何をしたと思う?
「「あっつーー!」」
と叫んだかと思うと、なんと、スカートとブレザーを脱ぎ捨てたのだ。リボンを緩めてブラウスのボタンもふたつ目まで外している。
念のために言うが、ちゃんと下にブルマを穿いている。パンツじゃないから大丈夫だ。問題無い。
「ぷはぁ~、やっぱ部室は落ち着くわ」
「ふにゃ~、そうだね。本当に部室があって助かるよ」
靴下まで脱いで素足になると、畳の上にあぐらをかいて、ペットボトルのお茶を喉に流し込むみらい。
ごろんと横になる真崎さん。
見よ。これが、杜高一の美少女と、彼女にしたい女の子の正体だ!
とても他の生徒には見せられない姿である。
その本性も、健康的な生足を晒した姿も、僕の胸の内だけにしまっておこうとクニラヤに誓う。
「もうお腹ぺっこぺこ! あやたー! 弁当!」
「はいはい」
畳をバンバン叩くみらい。
おやじか!?
内心ツッコミを入れて僕は持っていた弁当を置く。風呂敷包みを解いて重箱を広げると、横になっていた真崎さんも起きてきたので3人で重箱を囲む。
僕は割り箸だけど、みらいと真崎さんはそれぞれマイ箸を持ってる。ケースまで木製でとても綺麗だ。
箸も買わないとな。クー用にお揃いのを買って送ろう。
弁当を前にして、座布団の上にちょこんと正座するみらいと真崎さん。ぱつぱつの太ももが大変結構な光景だ。
「あやたは正座きついんじゃない? 無理にあたし達に合わせなくていいよ?」
「いや、それじゃ祖母ちゃんに合わせる顔が無い」
みらいは気を利かせてくれたけど、僕にも麻生織子の孫という意地がある。
途端に意地悪い顔を見せるみらい。
「ほう? 立った拍子によろけて抱き着くなんてベタな事したらぶん投げるからね」
「相変わらずひどい奴だな」
「セクハラには断固とした措置をとるのがうちの家訓だから。なこも容赦しなくていいぞ? 触られたら容赦なくぶっ飛ばせ」
いやいや。痺れてよろけるのは不可抗力だろう。それに真崎さんにも強要するな。
「もう! みーちゃん! そんなことして彩昂君が怪我したらどうするの。大丈夫。私これでも結構力あるから、危ないときはちゃんと支えるからね」
「まったく。なこは甘い」
「わかったよ。迷惑かけないように、後ろに倒れるようにするから」
「じゃあ、後ろに座布団敷いとこうか」
「お、それ良いね」
真崎さんの発案で僕の後ろに幾重にも座布団が敷かれる。まあ、念のためだ。見栄と意地はあれど、安全には代えられない。
「それでは合掌!」
号令をかけるのはみらいだ。僕と真崎さんはその声に合わせて、手を合わせる。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
みらいと真崎さんは、早速おむすびにかぶりつき、僕はだし巻きに箸を伸ばす。
「気に入った? 朝も美味しそうに食べてたよね」
「美味かったから。どうしてもまた食べたかったんだ」
冷めていてもやはりみらいのだし巻きは美味かった。口の中に染み渡る甘しょっぱさがたまらない。
「ん。でも野菜も食べなきゃだめだぞ」
「わかってるよ」
おかんか。
言われるまでも無くトマトを口に放り込む。
ややお値段高めのブランドのトマトだ。普通のトマトとプチトマトの中間くらいのサイズで、青臭さも酸味が少なく甘い。
「なこ! ナゲットは3つ。他のおかずも1人2つずつだかんね!」
「わかってるよ」
僕は真崎さんに食べられる前にと、もう一切れだし巻きを頬張った。
食べ盛りの高校生。四限目が体育で、カロリーを消費していた事もあって、3人とも食べるペースは結構早い。
だが、やはり花の高校生。おしゃべりが途切れる事も無い。
「そういえば、さっきの体育。他の子がサッカーしてたのになんで彩昂君だけ走ってたの?」
体育は2クラス合同で、男女に分かれて行われている。
男子はグラウンドでサッカー。女子は体育館でバスケ(どっちも準備運動の後はボール渡して放置)だった。
「あやた何かやらかしたん?」
「やらかしてないし。身体能力測定。僕だけまだだったからさせられた。放課後は保健室で身体測定する予定」
僕の言葉にふたりも合点がいったようだ。
「そっか。私達は入学してすぐやったもんね」
「あやたは100メートル何秒だった?」
足の速さが気になるとか小学生かお前は。
隠す事でもないし、僕が12秒台の数字を言うとふたりは揃って驚いた顔をしていた。
「なこに1秒差をつけるなんて……本当にあのとろかったあやたか?」
「標高2500メートルの村で暮らしてたからな。鍛えられたんだよ」
「体育の先生に陸上部に誘われなかった?」
「された。断ったけど。真崎さんも?」
「うん。断ったけど」
「なこはそこらの陸上部より速いからね。今でもしつこく誘われてるでしょ?」
苦笑いする100メートル13秒台の真崎さん。高い身体能力はマサキとして会った頃から変わらないらしい。
「でも、持久走ならみーちゃんの方が速いよ」
「みらいは誘われてないのか」
「ん。あたしはそこまで良いタイムじゃなかったから」
「それ、スポブラ忘れてずっと胸抑えて走ってたからだよね?」
「ぶっ!」
「あん?」
思わず吹き出して、みらいから睨まれる。
オーケー、僕は何も聞かなかった。とジェスチャーで示す。
身体が成長したことで色々大変みたいだけど、みらいの体力お化け具合は今でも健在なようだ。
「ふたり共、運動部には入らないの?」
「もう茶道部入ってるし」
活動してないじゃん。
「せっかく運動神経が良いのにもったいないと思って」
みらいも真崎さんも可能性の塊だ。きっとスポーツ面でも活躍できるだろう。オリンピックに出場とまではいかなくても、可愛すぎる○○としてネットで一躍人気者になれるだけのポテンシャルを持っている。
まあ、ネットのファンは応援どころかむしろ選手の邪魔ばかりしてる印象で、僕は好きでは無いんだけど。
「よく言われるけどさ。運動は嫌いじゃないけど、あたしもなこも、今は勉強とお茶とバイトでカツカツだからね」
「そうだね。運動部に入っても、お茶会や家の事情があったらそっちを優先しなきゃだから」
なるほど。お嬢様ならではの事情だなそれは。
それに下手にネットに晒されるよりは良いか。
こうして重箱の中を空にした僕達は、再びみらいの号令で「ごちそうさま」をする。
いいな。こういうの。
「んっ!」
立ち上がって大きく伸びをするみらい。
濃紺のブルマから伸びた肉付きの良い太もも。ブラウスを大きく盛り上げる胸につい視線が吸い寄せられてしまう。
変態とか言わないで欲しい。本能のようなものなのだ。
「ん? なあに? あやた?」
「いや、無性にから揚げが食べたくなってさ。夕食にリクエストしてもいい?」
咄嗟に誤魔化した。から揚げなのは、むねやらももやら考えてたせいである。
「ふうん。むね肉ともも肉どっちがいい?」
「もも肉で」
「塩派? 醤油派?」
「醤油」
みらいの適度に日焼けした太もも。
真崎さんの美白という言葉が似合う太もも。
それぞれ良さがあるが、僕の好みはクーの飴色の太ももだ。
僕の邪な心の内を読み取ってるであろう真崎さんが、後ろを向いて肩を震わせている。
「食べたばかりなのに食いしん坊だな。わかった。今夜はから揚げにしようか」
「悪いな。居候なのにリクエストしちゃって」
「いや、具体的に食べたいメニュー言ってくれる方が助かるから。なこもいい?」
「やったあ。みーちゃんが作るから揚げは美味しいよ」
「そっか。楽しみだ」
さて……
立ち上がろうとした僕だが、足に感覚が無い。
重力に従い、意識に反して傾く身体。
やべぇ……
「あやた!?」
「彩昂君!?」
「足が痺れて駄目だった」
後ろにぶっ倒れた僕。まじで座布団を敷いて置いて正解だった。予想通りとなった展開に、大笑いするみらいと真崎さん。
「運動が出来るようになっても、やっぱりあやたはあやただった!」
うるさいよ。
ぽにみゅらの世界においてブルマは不滅です。異論は認めません!
読んでいただきましてありがとうございます。よろしければ感想やら評価やら落としていってくださいませ。筆の遅い筆者ですがどうかよろしくお願いします。




