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登校

県立杜兎高校に杜高という通称が設定されました。

 学校に着いたのはホームルームが始まる20分前。校門前は登校する生徒達で溢れていた。


 生徒も校舎も、朝の日の光を浴びて、昨日よりずっと輝いて見える。


「美しい」

「お前、ほんと変な奴だな」


 口に出た途端みらいが横から口をはさんだ。


「当たり前に過ごしていると、分からないんだよ」

「海外にいた彩昂君が言うと、なんか深いね」

「元いたところと比べたいわけじゃないよ。ただ、憧れてた光景がそこにあって感動しただけ」


 一度は日本を出た僕だけど、別に日本が嫌いなわけでも学校が嫌いだったわけでもない。


 少ないけど友人もいたし、向こうへ行ってむしろ日本が好きになった。ネットで日本のアニメを見ては、日本の学生のキラキラした青春についてジミーと語り合ったものだ。


 実際日本の高校に通うことが決まった時は、ぶっとい腕で絞め落とされかけたけど。


「ふうん。まあ、それはちょっとわかるかも。あたしも杜高(もりこー)に入るの憧れてたからさ」


 杜高(もりこー)とは杜兎高校の一般的な略称である。


「そういえば。僕てっきりみらいは都会のお嬢様学校行ったもんだと思ってた。昨日先生に同じ学校だって聞いて驚いたよ」

「はぁ!?」

「ぷっ」


 僕の言葉にみらいは目を丸くして、真崎さんは小さく吹き出した。


「なんでそんな風に思うわけ!?」

「だってみらいお嬢様だし。有名旅館の跡取りだし。お嬢様学校でごきげんようしててもおかしくないかなって」

「ごきげんようなんてあたしには似合わないでしょ?」

「そうでもないよ?」


 普通のおっさんみたいな顔してるけど、洋介さんは3軒の旅館と1軒のホテルを経営している実業家だ。いくら温泉街に住んでるとはいえ、自宅に源泉かけ流しの檜風呂場を作れるくらいには金持ちである。家柄的にも経済的にも、お嬢様校に通っていて少しも不思議じゃないのだ。


「みらいが悪戯するのって僕に対してくらいで、他の子には優しくて良い子だったし、お茶に書道習って、積極的に家業の手伝いにも参加している。みらいは普通にお嬢様してると思うよ」

「なっ!? そんなん、思ったこともなかったわ」


 うんうんと横で頷いてる真崎さん。いやいや君もだからね? 隣町のお姫様がなんで下宿してまでわざわざ杜高来てるわけ? 


「だよね。可愛くて、料理上手で安産型! 見かけだけ大和撫子の私より、みーちゃんの方がよっぽど大和撫子だよ」

「ひゃあっ!? なこーっ!?」

「あは!」


 さりげなくみらいの尻を叩く真崎さん。僕を盾にして怒ったみらいからの逆襲を躱す。


 真崎さんのセクハラを咎めるつもりは無い。美少女のじゃれ合いは尊いのだ。


 他の生徒も、みらいと真崎さんを温かい目で眺めている。でも、誰だおめーって目で僕を見るのやめて!


「ほら、他の人に迷惑だから。早く行こう」

「そうだね。なこ、後で覚えてろ」

「はいはい」


 隙を見せたら絡まれる。まるでスラムの中を歩くかのような緊張感で、2人から離れないようにしながら校門に入った。


 あと、みらいが杜高に来た理由も判明した。


「ねえ、昔近所に住んでたお姉さん覚えてる?」

「ああ。集団登校の班長だった?」


 僕は10年近く前の記憶を掘り起こす。


「うん。そうそう。あのお姉さんが毎日彼氏と杜高通ってる見ててさ。いいなって」

「乙女だな」

「乙女だね」

「なにおー!」


 僕と真崎さんはみらいに頭を小突かれることになったのだった。




「おはよー!」

「おはようございます」


 クラスメイトと挨拶しながら教室に入っていくみらいと真崎さん。


 僕は持たされていた弁当の重箱をロッカーに入れてから、教室へと入る。


 入学して二週間。各々グループが形成されている頃だ。周りは知らない連中ばかり。緊張しつつもわくわくしていた。


 教室の中には既に結構クラスメイトが集まっていた。必死に課題をする者。おしゃべりに花を咲かせる者。本を読む者。スマホを見る者と様々だ。


 みらいも真崎さんも可愛くて性格良いから、友達も多いのだろう。ふたりの顔を見るなり廊下でお喋りしてた女子が挨拶してくる。制服を緩く着崩したギャルっぽい子と、チンチラみたいな小動物を思わせる小柄な子だ。


「真崎さん、宮津さんおはーっ!」

「おはよう……ございます」


 ギャルちゃんが元気に、チンチラちゃんが控えめに挨拶してくる。


「おはよ!」

「おはようございます」

「おはよう」


 みらいと真崎さんに続いて僕が挨拶すると、ふたりの女子はきょとんとした顔をする。


「お、おはよう」

「……?」


 ギャルの方は驚きながらも挨拶を返してくれたけど、もうひとりの方はまじまじと上目遣いで僕の顔を見つめて来る。


「えっと……もしかして麻生君?」

「あ、そうです。麻生です」

「つまらんわ!」


 みらいのツッコミが入り、バシッと背中に衝撃。


 馬鹿力め。さっき食べたおむすびが出て来るかと思ったぞ。


「え!? 麻生君なの!?」


 ギャルちゃんの声にクラス中の視線が僕へと向けられた。


「麻生だって!?」

「南米で行方不明になってたっていうあの!?」

「生きてたんか!?」


 はい。その麻生です。生きて日本に帰ってきました。


「うみはよく気付いたね」

「昔小学校で同じクラスだったから」

「あー、そういえば汐さんも南小の時1組だったね」


 チンチラちゃんもとい、(うしお)うみさんは杜兎南小学校に通っていた時のクラスメイトだった子だ。ほとんどしゃべった事は無かったけど、顔と名前が微かに記憶に残っている。


「アタシは伊妻香月(いずまかづき)。よろしく麻生君」

「麻生彩昂です。よろしく」


 ギャル子ちゃんもとい、伊妻さんと挨拶して自分の席へと向かう。後ろの席では、昨日校門で会った生駒さんが、何やら必死に教科書とノートに向かってぶつくさ言っている。


「生駒さんおはよう」


 生駒さんは日焼けした顔を上げると一言。


「今日はまともだ」


 失礼な!


 流石に今日はポンチョも帽子も身に着けて来てはいない。出る前にみらいに止められたからだ。確かに、制服の上に着るには暑いと思っていたから良いんだけど。


「課題?」


 英語の教科書を眺めている生駒さん。教科書にはびっしりと書き込みがされている。


「ううん。一限目の英語。今日当てられるからさ。麻生君だっけ? たぶん君、真っ先に当てられるとおもうよ? 大丈夫?」


 真っ先に当てられる事が無くなって安心しているのか、にやにやしている出席番号2番の生駒さん。


 でも、忘れてないかな?


「僕、帰国子女」

「あ!?」

「英会話苦手だと僕の後に読むのはきついかもね」


 教科書を見た限り、英語の授業で僕が苦戦することは無い。


「ちょっと、ここの発音教えて欲しいんだけど!」

「あー、ラテン訛りがうつっちゃうといけないから、他の人に聞いた方が良いよ」

「え、ちょっと!?」


 ファッションを馬鹿にされた仕返しである。それに僕の英語が訛り強いのも事実である。


「おっす! 帰国子女」

「よお! Who are you?」


 生駒さんがぎゃーぎゃー言ってるのを無視していると、なんか隣の男子に声をかけられた。そいつの背丈は僕より高く、170センチ後半だろう。軽そうだが軽薄そうではない。どうやら、アニメやギャルゲーでお馴染みの、ぼっち主人公と何故か親友やってる人の良い爽やかイケメンが、僕の周りにも湧いたらしい。


「柿崎恭平だ。よろしく」

「麻生彩昂だ」

「彩昂か。俺の姉貴が彩花なんだよな。なあ、タカって呼んでいいか?」


 名前呼びしたいけど、お姉さんと一文字違いで呼び辛いのだろう。勿論僕は構わない。あやたよりよっぽど良い呼び方だ。


「いいぜユウジ」

「誰だよ!? あー、なんかめんどくせーから麻生って呼ぶわ」


 あ、そう。

読んで頂きましてありがとうございます。


続きが気になる。コッテコテやないかーい!と言いたい方。ぜひブックマークとか評価とか押して行ってくださいませ。何卒よろしくお願いいたします。

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