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14/22

天使

2月14日……それはふんどしの日!!


ご無沙汰していたふんどし学園物語更新です!!

 僕はタブレットをクラウドサービスに繋ぐと、保管してある動画ファイルを再生する。


 僕の横にみらいが座り、真崎さんはみらいの背中に身を預けるようにして、肩越しに覗き込んでいる。なんだかとても幸せなお団子状態だ。


「2年前にユアーチューブに投稿された動画だよ。最も、日本では殆ど知られてないけどね」


 タブレットのスピーカーから、ピアノの曲が流れ始める。曲はパッヘルベルのカノンだ。


 大きなお屋敷。広い庭。立派なグランドピアノ……旋律を奏でる少女の姿が映し出される。


「「……天使!」」


 思わず口に出たのだろうけど、みらいと真崎さんの声が重なる。


 まあ、わかる。


 亜麻色の長い髪に、病的なくらい白い肌。華奢な身体に白いドレスを纏った少女の姿に、僕も初見では同じ言葉を口にした。


 視聴者からのコメントも同様に「ANGEL!」で溢れていた。可憐で儚げな姿に、多くの人々が魅了されたのは間違いない。


 ピアノの演奏が流れる中、庭で花や子犬と戯れる様子。ぬいぐるみを抱いて眠る姿。


 窓の外を見つめる愁いを秘めた顔。視線の先に映るのは、楽しそうにおしゃべりしながら歩く同年代の少女達だ。


 このシーンだけ、明らかに撮影場所が違うが、あえてこの演出を入れた理由は後に明らかになる。


 まるでプロモーションビデオのように、流れる少女の日常の風景。ここだけ見れば、まさに天使の日常だ。


「ねえ、あやた。この子誰? 外国の子役さん?」

「彼女はアンゼリカ・フェレロ。シシメル最大のマフィア。フェレロファミリーのボスの娘だよ」


「「は!?」」


 驚くふたりに苦笑する。こんな天使のような女の子がマフィアの娘だなんて言われたら無理もない。


 僕は一旦動画を止めた。


「確かに見た目は天使だね」

「でも、マフィアの娘の名前が天使って……」

「見た目は天使でも、中身は悪魔だよ」

「なんか、なこみたい……んぎゃ」


 余計な事を言ったみらいが、真崎さんに首に腕を絡められて愉快な声を上げる。


 確かに、大和撫子の容姿と名を持ちながら、実はわんぱくでお転婆な真崎さんとアンゼリカ・フェレロには似たところがある。


「みらい。真崎さんをこのアンゼリカ・フェレロと一緒にするのは失礼だよ。真崎さんは外見とのギャップが可愛いで済むレベルだけれど、アンゼリカ・フェレロはそうじゃない」

「ふふ。みーちゃん。私、可愛いだって」

「騙されるなあやた。なこの正体は鬼っ子だから。淑女の皮を被った鬼女だから……みぎゃあ!」


 みらいを締め上げる真崎さん。浴衣でじゃれ合ってるものだから、胸元やらふくらはぎやらがちらちらしていて、目に毒で困るんだけど?


「みらいが余計な事言うからだよ。真崎さんもそのくらいで。肝心なのはここからだからね」

「はぁい」


 みらいを締め上げる手は解いたものの、真崎さんはみらいの背中にくっついたままだ。鬼というより妖怪子泣き爺である。


 みらいはやれやれといった様子で、振りほどくつもりはないみたいだ。


 本音を言うとこのままふたりのじゃれ合いを見ていたい。でも、本気で理性がヤバい事になりそうだから、僕はなんとかポーカーフェイスを取り繕って話を進める。


「続けるよ? 彼女の台詞は僕が通訳するから」


 そう言って動画の再生を再開する。


 日常風景が終わり、アンゼリカがピアノを背景に語り始める。スペイン語だからふたりにはわからないだろう。僕はアンゼリカ・フェレロの言葉を日本語に翻訳していく。


「わたしの名前はアンゼリカ・フェレロ。13歳よ……あいたっ!?」


 突然みらいに頭をどつかれる。


「口真似やめい! きもいわっ!」


 酷い……せっかく気を使ったのに……


 真崎さんもツボに入ったのかみらいの背中に顔を埋めて笑っている。


「普通にお願い」

「……わかった」




 わたしのなまえはアンゼリカ・フェレロ。13歳よ。


 わたしにはピアニストになりたいって夢がある。夢を叶える為に、わたしは4歳の頃から練習を重ねてきたわ。


 でも、神様はわたしに残酷だった。


 わたしは心臓に病気がある。移植手術をしないと治らない病気。


 移植をしないともう何年も生きられないってお医者様に言われてる。


 学校にも行けない。狭い家の中だけが、わたしの世界。


 そんなの嫌! このまま死にたくない!


 わたしは生きたい! 夢を叶えたい! 友達だって作りたいし、学校にも行きたい!


 わたしは今、ドナーからの心臓の提供を待っている。


 でもね……誰かもわからない人の心臓は欲しくないの。


 おばさんだったり、ホームレスなんて絶対嫌。男からなんて死んだ方がマシ。


 だからわたしは、わたしにふさわしい心臓の持ち主を探したわ。


(クーニアの写真が映し出される)


 見て! 凄く可愛いでしょう!


 彼女はクーニア。可愛いだけじゃなくて、健康で、頭も良い。才能に溢れた最高の女の子よ!


 お医者様が言うには、クーニアの心臓はわたしにベストマッチなんだって!


 クーニアはわたしを救う為に生まれてきたの! 間違いないわ!


 わたしが欲しいのはクーニアの心臓なの! クーニアのじゃなきゃ嫌! だからお願い。誰か彼女の心臓をわたしのところに持ってきて。持ってきてくれたらキスしてあげる! それから100万ドルをプレゼントするわ!




 動画が終わってしばらく沈黙が続いた。唖然とするみらいと真崎さん。アンゼリカ・フェレロの魅了はすっかり解けているだろう。


 みらいが口を開く。


「この子、あたおか?」


 僕は頷いた。


「海外セレブって案外こんなもんだ」

「それは偏見だと思うけど、この子は酷いね」


 真崎さんの口調からも憤りが感じられる。


 僕は内心、ふたりが普通の感性をしていて良かったと安堵していた。


 悪魔の本性を知っても、そこに痺れる、憧れるー! なんて言い出す奴もいるからだ。


「クーの心臓を欲しがるマフィアの娘の暴走。それが僕がマフィアと対立することになった切っ掛けだ」

「これってまだ見れるの?」

「いや、翌日にはアカウント事削除(バン)されたよ。殺人依頼と変わらないからな。アングラの方にコピーは残ってるらしいけど」


 こんな動画を本気にする人間なんて、殆どいないだろう。しかし、可憐な少女のお願いは地元マフィアと1万人にひとりの馬鹿を動かした。100万人が視聴すれば100人である。


 アンゼリカの魅了に掛かったそいつらは、アンデス山脈を越えてやってきてクーを狙った。


「マフィアの子は、どうやってあやたの義妹ちゃんを見つけたの? 臓器の移植って誰でも出来るわけじゃないんでしょ?」

「村に定期的に診療に来ていた赤十字のスタッフが買収されたんだ。僕が住んでた村は、警官もいないような自治区だったから、以前から臓器売買目的の誘拐組織に目をつけられていたんだよ。人が誘拐されても、国は動いてくれなかったからね」

「彩昂君。そんなとこにいてよく無事だったね!?」

「連中だって表ざたにしたくないから、外国人や町に住む一般市民は狙わないよ。狙われるのは国の庇護を受けていない山村の人達だ。僕が住んでた村は、外国からの研究者が大勢滞在してたからほとんどなかったけど、周辺の村はやりたい放題されてたらしいな」

「そんな……酷い」

「まあ、シシメル政府もようやく取り締まりに動き出したし、きっとこれから良くなっていくさ」


 僕はトーテムポールになっているみらいと真崎さんの頭を順番にぽんぽんしていく。


 嫌がられなかったし、いいよね?


「それで、彩昂君とクーちゃんは大丈夫なの? マフィアが追いかけてきたりはしないのかな?」

「それは、ほぼ問題無いと思う。アンゼリカ・フェレロは今ボリビアの病院にいるみたいだけど、移植に耐えれるだけの体力がそろそろ限界らしい。諦めてまっとうなドナーを待っているんじゃないかな? 実家も潰されて、日本からクーを攫ってくるような資金も無いだろうしね」


 アンゼリカ・フェレロの実家であるフェレロファミリーは、シシメル政府によって資金源である麻薬工場とボスの邸宅を破壊された。これによってシシメル国内の麻薬カルテルが崩壊し、怒った元同業者から襲撃されて完全に潰れたらしい。


 ただ、全てが終わったというわけでもない。フェレロファミリー残党が報復に日本人を襲う、もしくはクーの身柄を要求する為の人質とされる可能性を考慮して、現在外務省ではシシメルへの渡航自粛を呼び掛けている。父さんが帰って来れないのもこの為で、父さんはシシメル政府の警護のついたホテルで軟禁生活だ。


 村の人達は、シシメル政府や欧米の人達に不信感を持っていて、父さんが間に入らないと、政府との和解や研究に協力してくれなくなる。その為、シシメル政府や各国の研究機関としては父さんに帰られると困るのだ。


「さあ、もう遅いから戻ろう。僕も明日の準備がしたいしね」


 僕はタブレットを閉じる。いい加減、自分達の色香に無自覚すぎるふたりを追い出さないとな。


「あ、うん。なんか首を突っ込んじゃってごめん。ほら、なこも行くよ?」

「彩昂君。もし、何かあったら絶対相談してね。力になれるかもしれないから」

「あたしも何も何ができるかわかんないけどさ。もう黙って何処か行くのは無しだかんね」

「ああ。僕も聞いてもらえて良かったと思ってる。おやすみ」

「おやすみあやた」

「おやすみなさい」


 部屋を後にするふたりを見送る。


 クー。僕にもアミーガが出来たよ。


 彼女達の残り香の残る部屋で、僕はとても暖かい気持ちに包まれていた。

主人公達が通う杜兎高校の杜兎は、古い言葉でふんどしを意味するとうさぎからとっています。あとシシメル共和国のシシメルは、ふんどし締める、まわし締める……シシメル……という具合に、実は本作はふんどし高校とふんどし共和国の物語だったのです!!


……ごめんなさい。


真面目にラブコメしますので見捨てないでください。何かと性癖を抑えきれない作者ですが、今後も何卒よろしくお願いいたします。

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