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予定通り婚約破棄され追放です!~せっかく最強賢者に弟子入りしたのに復讐する前に自滅しないで!?~  作者: 桃月 とと


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29 お土産

  

「ロニー様大変です! 公爵様が不敬罪で牢に……!」

「なんだって!?」


 彼の穏やかな日々は長くは続かなかった。ディーヴァ公爵が王と大喧嘩をして自ら牢に入ってしまったのだ。


「父上も怒りっぽいからなぁ……」


 不機嫌な時はあの姉とよく似ていると思っていた。自分にはそれが似なくて良かったとも。


「陛下、手紙の件は父ではなく私の失敗にございます。どうか罰するなら私を……」


 ロニーは生まれて初めて人のせいにしなかった。姉がいなくなり次は父、ディーヴァ家は大きな柱をなくし不安定になり始めていたのだ。


「フン……牢から出たければ出ればよいのに。お前の父親は意地を張って居座っているだけだ」

「さ、左様でございますか……」


 公爵は公爵で王からの謝罪を牢の中で待っている。頑固なところがまた姉と同じだとロニーは苦笑した。


「陛下、私は姉に直接謝罪に向かおうと思います。どうかそのお許しを」

「……許す」


◇◇◇


 ロニーはまもなく正式な謝罪文が再び出ることは知っていた。すでにグレンから直接聞いていたのだ。彼は学園であった全てのことを正確に王に話したとロニーに告げた。


「悪いが君のこともだ」

「……かまわないよ」


 孤児院の一画で、グレンは少し申し訳なさそうにロニーに伝えた。彼がレミリアの後を継ぐように孤児院に通っていた事を知らなかったのだ。ロニーが自分と同じように変わり始めていたことに気が付いていなかった。


「ここにきて気が付いたんだ。自分は勝手に拗ねていただけの子供だったってね」


 小さな子供達と関わっていると、その姿がこれまでのロニー自身と重なることが多かった。

 子供同士で喧嘩をするとどちらも相手のせいにして、それを先生という立場にいるロニーに判断してもらおうとやってくる。だがロニーは困ってしまった。なんと答えたらいいのかわからなかったのだ。


「いいから仲良くするんだ!」


 柄にもなく叱っても、なかなか上手くいかなかった。


「えー! だってこいつが悪いのに!」

「お前が先にやったんだろ!」

「だってそれはお前が……!」


 子供達は誰も素直にうん、とは言わなかった。


「お前達書き取りは終わったんだろうなー!? 早く終わらなきゃブラウニーはなしだぞ!」

「やだやだ!」

「ロニー様ってやっぱレミリア様の弟だよなぁ~怒り方一緒じゃん!」


 そういえばレミリアとはこんな姉弟喧嘩もしたことがなかったと、屋敷での生活を振り返った。いつも一方的に喧嘩を売っていただけだった。

 

 どうせ自分は孤児だからと卑下する子もいた。


「どうせ私はドジで間抜けで馬鹿な孤児だもの……こんな問題解けるはずない」

「そんなの関係ないよ。足し算は上手くできただろ? やってないうちから諦めたら出来るわけないじゃないか」

「無理だもん! できないもん! だって私は孤児だもの! ロニー様はお貴族様だからそんなこと言えるんだ!」


 そう言って自虐的になりながらシクシク泣き始める幼い女の子を一生懸命慰めた。


(ああ、今ならあの時の姉上の表情が理解できる)


 自分の不出来の全てを、自分の不幸の全てを母の生まれのせいにして生きてきた自分自身の事が思い浮かんだ。


(でも、あんなに鬱陶しそうな表情しなくたっていいじゃないか)


 姉の表情を思い出し、ポロポロと涙を流す少女の頭を撫でながら、困ったようにロニーは笑った。


「君はマナーの授業はあんなに熱心に受けるじゃないか。あれだけキチンと出来ていたら、将来どこかのお屋敷で働けるようになる。その時少しでも勉強が出来ていたらもっと屋敷内でいい立場に立てる。だからもう少し頑張ろう?」

「……はい」


 ロニーはそんな子供達に根気よく接していた。だから子供達はいつもロニーがやってくるのを楽しみに待つようになっていた。


 

 孤児院の窓から笑い声が漏れている。それを聞きながらロニーはグレンの目を真っすぐに見つめた。


「でももう僕は大人だから……甘んじてその報いを受け入れなきゃ」


 グレンは黙って頷いた。自分に対しても言っているのだとわかっていた。


◇◇◇ 


 王の執務室からの帰り道、騎士団の訓練場が見える廊下を歩きながら、ロニーはカイルのことを考えていた。


(謝罪文のこと……知ってるのかな?)


 グレンはカイルには伝えていないと言っていた。


「カイルはまだ、学生時代のままだったよ」


 残念そうな声だった。


「ロニィー!」


 少し前まではこの声で呼ばれるのが嬉しくて仕方なかった。ドレスを着ていることなど無視してこちらへ向かってかけてくる。


「なんだいユリア?」


 すでに王太子の婚約者となっているユリアはそっとロニーの服の袖をつかんだ。


「ベルーガ帝国へ行っちゃうって本当なの?」


 いったいどこで聞きつけたのか、ついさっき王の執務室から出てきたばかりだと言うのに。


「そうだよ」

「何しにぃ~? あ! 大賢者様に会いに行くの!? 私も行きたい!」

「ちょっとね」


(行けるわけがないだろう。君は聖女じゃないか! その身分を使って僕の姉を追い出したんだろ)


 だが決して顔には出さないよう注意する。


(追い出したのは僕も同じか……)


 ユリアは彼の予定などどうでもいいようで、一方的に話し始めた。


「寂しいなぁ~いつ帰ってくるのぉ?」

「まだわからないよ」


 いつもと同じ笑顔になっているだろうか。ロニーは少し自信がなかった。


「じゃあ私を連れていけない罰としてお土産買ってきてよ!」

「罰?」


(君がくだせる立場だというのか?)


 彼の目はもう笑ってはいなかった。


「帝都に大きな宝石商があってねぇ~そこにあった青い石がとっても綺麗だったの!」

「……そういうのは婚約者に買ってもらわなきゃ」

「だって……ロニーからもらいたいんだもん……」


 そう言って更に体を寄せてこようとした瞬間、ロニーは急いでその場を立ち去った。


(はは……グレンの言った通りの行動だな)


 ワンパターンだ。それにまんまと心をときめかせていたのは自分だが。


(そうだ。孤児院になにかお土産を買って帰ろう)


 彼らの喜ぶ顔を思い浮かべると、先ほど聖女に汚されてしまった心が浄化されるようだった。


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