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19 喧嘩別れ

 アレンが少し早口で呪文を詠唱すると、みるみる呪文に呼応して魔法陣が光を上げ始め、さらに室内だと言うのに風まで舞い始めた。


 突然、かまいたちのような鋭い風がレミリア達の方に向かってきたかと思うと、バシン! と大きな音をたてて防御魔法に当たって弾けた。


(び、びびったー!)


「レミリア!」

「問題ない!」


 手を挙げてアレンへ無事を伝える。が、内心ドキドキだ。


(あの風の刃、人の顔してた……)


 だがこの恐怖を他人には決して悟らせない。その強がりが自分の強さだと自負していた。

 その場にいる第二皇子やルヴィアの両親、そして侍女も驚き怖れることはしなかった。これから会える人のことを思えばいくらでも耐えられるのだろう。


 それからあと3回、同じように人の顔を持つ風の刃が明らかにレミリア達に向かって飛んできた。しかし彼女の強固な魔法が何の問題もなくそれを防ぐ。それがレミリアの自信に繋がっていった。


(でもこれは一体なんなのー!?)


 風が収まり始めた。残りの風も凝縮し始め、光を纏いながら魔法陣の中央に集まり始める。

 そしてそれは少しずつ、女性の形に変化し始めた。


「ルヴィア!!!」


 まだ完全な姿になる前にイザイルは風音に負けないよう声を張り上げる。

 アレンが首を横に振るのが見えるので、まだ防御魔法を解くことはしない。


「ルヴィア! 私だ! ルヴィア! ルヴィア!!!」


 こちらに気付いて欲しくて一生懸命名前を呼ぶ。ルヴィアと呼ばれる魂はまだ目を瞑ったままでいた。


 最後の風が魔法陣の周りを一回りし、ついにその魂は現世に再び戻ってきた。

 体は空中に浮いており、幽霊のように透けていて反対側を見ることができたが、足はつま先までしっかりと形作っていた。


「目を醒ませ」


 アレンの言葉が彼女の中に入っていき、ゆっくりと重そうに瞼を開いた。


(マジで……マジで降霊術できちゃってるじゃん……)


 レミリアはこの魔術を……ジークボルトのことを疑っているわけではなかった。だが少しもこの魔術で魂が蘇る姿をイメージすることができなかったのだ。


 防御魔法が解けると、イザイルとルヴィアの両親が魔法陣の方へ走っていく。


「気をつけて!」


 全員がルヴィアしか見ていなかった。それを急いでアレンが止める。宝石店でアルベルト達に使ったのと同じ魔術だ。彼らはピタリと魔法陣のすぐ目の前で立ち止まった。


「す、すまない……」


 イザイルは息を整えながら謝った。魔法陣が少しでも崩れると魂はまた消えてしまうのだ。


『殿下? それにお父様にお母様……!』


「ルヴィア! ああ、ルヴィア……会いたかった……!」


 第二皇子ははらはらと涙を流し始めた。ルヴィアが流行病に感染してからは彼女の葬儀まで一度も会うことがなかった。喋る婚約者との対面は久しぶりとなる。


「ルヴィア様、お久しぶりでございます」

『アレン! あら!? あちらにいるのはレミリア様では?』


 以前パーティで会った時のように彼女は明るい。だがすぐに現状に気が付いたようだ。


『ああそうだ。私、死んだのでしたわね』


 別にショックを受けた様子もない。


「説明する手間が省けて助かります。本日はどうしても皆様がルヴィア様にお話ししたいとのことで、失礼ながらお呼び出しさせていただきました」

『手間をかけました』


 微笑むルヴィアは透けていること以外、生きている時と何の変りもない。


「ルヴィア! すまないルヴィア……私は……本当に……君に詫びることしかできない……」


(ああ。これから感動の対面ね……泣いちゃうかも……)


 レミリアは予めハンカチを用意していた。愛し合う2人の再会と永遠の別れを間近で見ることになるのだから。


『それはそうでしょうね!!!』


(えっ!?)


 ルヴィアは鋭い視線をイザイルに向けた。


「す、すまない! 本当に……あれが最後になるなんて思わなくって……!」

『呼び出して頂き感謝しますわ! 私まだ言い足りないことがいっぱいありましたので!』

「うう……ごめんよぉ」


 以前パーティで見かけた2人と同一人物か疑ってしまうようなやり取りだった。


 アレンとレミリアは顔を見合わせる。


(思ってた展開と違う!)


 しくしくと泣き縋るイザイルを見下しながら、ルヴィアは幽霊ながら大声で叫んだ。


『皆様聞いてくださいませ! この方! 私というものがありながら浮気したんですのよ!』

「ええええ~~~!!?」


 ホールに全員の声が木霊した。


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