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18 魂の行方

 パーティはマリロイド王国とひと悶着ありながらも無事に終了した。各国の要人達はあの有名な大賢者とその愛弟子と挨拶をかわせて大変満足していた。ベルーガ帝国の皇帝も、自国の繁栄を知らしめることができご満悦だった。


「さて、んじゃあもう一仕事するかな」

「いよいよね」


 その日はとてもよく晴れた日、イザイルの願いを叶える日だった。イザイル皇子にはこちらに来てからまだ一度も会っていない。今回のパーティにも出てこなかった。婚約者のルヴィアが亡くなって時間は経つが、いまだにふさぎ込んでしまっているらしかった。


 イザイル殿下の願いは、もう一度ルヴィアに会うこと。


「いやいや! どうやって死人に会うんですか!?」


 以前高官からこの件を伝えられた時、ジークボルトはあっさりと引き受けていた。高官達の手前、知らないフリなどできなかったレミリアは、彼らが帰ってすぐに問い詰めたのだ。


 この世界の魔術でも、死人を復活させることは出来ない。


「正確にはその魂に会うんだけどね。降霊術みたいなやつかな」

「う、胡散臭っ!!!」

「アハハ! それ、転生した君が言うかい? 以前魂の研究をしてたんだけど、その過程でちょっといいルートを見つけたんだ」

「いいルート?」

「魂と話をしやすい道というか……ま、見たらわかるさ!」


 その見たらわかるのが今日ということになる。


「師匠さ~簡単に言ってくれたけど、この術、まあまあ大変なんだよ。なんかあったら頼むな」

「なんかあったら!?!?」


 魔法なんて使える世界に生きていながら、レミリアは幽霊が苦手だった。正確には、前世からホラーが苦手だったのだ。


「まあ対処法は人間相手とそんなに変わらないからよ」

「そんなに!?」


 レミリアは言葉尻を捉えて、何度も聞き返した。


◇◇◇


 久しぶりに会ったイザイルの姿に、レミリアはギョッとしそうになった。あまりにも前回見た姿から変わっていたのだ。背は伸び大人びていたが、頬はこけ、目の下はクマが濃い色を作り、客人を迎える笑顔が痛々しかった。


「イザイル殿下、この度はお悔やみ申し上げます」

「ああ、レミリア様、このような所までありがとうございます。貴女も大変だろうに、このような我儘を……申し訳ありません」

「そんな。私に起きたことなど些末なことに過ぎませんので」

「相変わらず強い方だ」


 どうやら変わっていたのは姿だけだったようだ。出来るだけ以前と変わらぬ自分であろうとしているのがわかり、彼も必死に現実と戦っている過程なのだろうとレミリアは感じた。元々、芯の強い人物だ。


「私も見習わなければ」


 イザイルはそう言って寂しそうに笑った。


 レミリア達の挨拶の合間を見計らったかのように、アレンが声をかける。


「殿下、それでは早速始めましょうか」 

「アレン、今日はありがとう」


 第二皇子ともなると、アレンの正体は知っているらしかった。


「気にしないでください。師匠がこれなくてすみませんでした」

「はは! 彼が来たら余計なことまでされそうだからホッとしているよ」


(先生、日頃一体何をしてるの!?)


 イザイルの言葉に不穏なものを感じながらも、アレンが笑っているのを見て少し安心する。


 降霊の場は少し広さのあるホールを使って行われることになった。もちろん秘密ということになっているので、警備は厳重だ。


「これだけガチガチに警備してたらかえって怪しまれませんか?」

「そうですね。でもいいんです。内容が秘密なのではなくて、私とルヴィアの時間を誰にも邪魔されたくないので」


 ホールの床に、アレンと2人で細かい魔法陣を描き込む。少しも間違えられないので神経を使う作業だった。


「よし! 運んでくれ」


 アレンが声をかけると、衛兵たちがダチョウの卵くらいある透明な水晶の塊を重そうに運び込んだ。それをまた魔法陣上の4カ所に設置する。


「殿下」

「ああ」


 イザイルの手でルヴィアの遺髪が魔法陣の中央に置かれた。彼女の両親が涙ぐんでいるのが見える。


「下準備完了だな」


 そういうと、アレンはイザイルも含め全員に部屋の端に行くよう誘導し、


「念のため落ち着くまで防御魔法を」

「任せて」


 いつもと違って真面目な顔をしてレミリアにも指示を出した。


(き、緊張するわ……)


 それはこの部屋にいる全員が共有している感覚だった。

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