10 期待以上
店内にいた他の客達が拍手をしている。アレンはショーの最後のシーンのように大袈裟にお辞儀をした。
「あのようなことをして大丈夫ですか?」
「問題ありません。私、これでも実家は公爵家なのですよ。マリロイド王国の王家など恐るるに足りません!」
店主は自信たっぷりに言い切った後、失礼……と小さな声でレミリアに謝罪した。彼女の出自を思い出したのだ。
この店には有力貴族が後ろ盾に付いており、レミリアが心配するまでもなかった。
「いいのです。仰りたいことはよくわかりますので」
レミリアは国を出て初めて知ったのだが、どうやらマリロイド王国は弱小国家とは言わないものの、世界的に見れば精々中流国家と言う扱いなのだ。ベルーガ帝国は自他共に認める大国なので、帝都に暮らす人々もそれなりにプライドがあるらしかった。
(マリロイド王国の次期王はこの国の公爵家に及ばないと言うことね)
だがその事にアルベルト達は気がついているのだろうか。
アレンは本当にとても高価な、深い青色を持つ宝石を買ってくれた。ビー玉くらいのサイズだが、元公爵令嬢のレミリアの目が飛び出そうな額だった。どうやら大賢者はなかなか羽振りがいいらしい。
「明日のパーティまでに耳飾りに出来るか?」
「お任せください。出来上がり次第すぐお届けに伺いますので」
そうして本当に綺麗に装飾された耳飾りがパーティの前に届けられた。
「わぁ! 感動的な輝きじゃない! 海光石だっけ?」
「綺麗な上に便利でな。魔力を貯めておけるんだ」
「そうなの!?」
「滅多に市場には出回らないんだ。流石公爵家がやってる店なだけあるよ。色も形もいいし」
アレンの方が宝石の知識があるようで、レミリアは少し悔しい思いがした。この手の分野くらいアレンの上を行きたかったのだ。アレンはそれに気がついて、
「まあ俺が詳しいのはこう言う特殊な石だけだよ」
そう言って、耳飾りをレミリアにつけた。急に距離が近くなって、レミリアは胸がドキドキしてしまい急いで顔を背ける。
「イケメンずるい!」
「イケメン好きだろ?」
「好きだけど!!!」
「じゃーありがたく俺の顔を拝めよ」
そう言ってレミリアに向けてウインクをする。
「うわー! そんなカッコよくウインクがキマる人初めて見た!」
「はっはっは! もっと褒めていいぞ!」
2人で戯れあっていると、今日何度目かのお伺いがやってくる。
「お二人にお会いしたいと言う方が……」
「悪いがパーティまで誰とも会う気はない」
大賢者と少しでも面識を持ちたい人が後を絶たなかった。
「隣国の聖女様なのですが……レミリア様ともお知り合いだと……お断りすると泣いてしまって……」
(早速来やがった!)
聖女ユリアのターゲットはアレンだと2人ともわかっていた。それにしても国外追放までしたレミリアを出しに使おうとするとは……。
「話の通りすげぇ神経してるなお前の同級生」
「ある意味期待以上の女でしょ?」
そう言うとまた2人で吹き出した。
(ああ、アイツらがいるのに気持ちがこんなに軽いなんて!)
散々ストレスを与えられていた相手だが、今はもう笑いのタネとしての存在だ。
「勝手に泣かせとけ。うるさくて悪いな」
「いえ。それではそのように」
結局ユリアはアレンと会えないとわかると勝手に怒って自分の部屋に戻っていった。