ex 忠告
時刻は僅かに遡る。
「ありがとね、伊月ちゃん」
「杏さんにも言っておきますけど、別に味方してるわけじゃないですよ」
「うん、分かってる。伊月ちゃんはちゃんと一線を引けてるよ」
荷物を取りに管理局内に戻るユイと鉄平を見送りながら、一旦その場に残った杏と赤坂はそんなやり取りを交わす。
「……改めて聞くけど、良かったのこれで」
「東京本部にディルバインの事を報告しない事ですか?」
「そう、それ。私が説得するまでもなくその選択を選んでくれたけど」
「妹さんにも言いましたけど、私は別にユイを殺す口実を探しに来たわけじゃないですし。正当だと思えばこのカードを切るし、不当だと思えば無実の子供を守る為の行動はします。多分ウィザードとしては間違った判断なんでしょうけどね……バレたらエリート街道終わりですよ」
「……いざとなったらウチに来なよ。私もいてアンノウンもいて、此処に数えるのはアレだけど異世界人もいる色物支部だからさ」
「自分を色物にカウントしないでくださいよ。まあ事実ですけど」
「否定してよそこは……冗談のつもりだったのにぃ、えぇ……」
そう言って項垂れる杏は少し間を空けてから言う。
「……とにかく、そんな危ない橋を一緒に渡ってくれた伊月ちゃんにアドバイス。というか忠告だね」
「忠告?」
「そう、忠告。これだけは改めてしっかり頭に入れておいて」
杏は赤坂を心配するように言う。
「伊月ちゃんには言わなくても分かってると思うけどね、ユイちゃんは特別だよ。いや、伊月ちゃん的には他のアンノウンと同じって感じなのは分かるけど、頭には入れておいて」
「それはいい加減ユイがまともって認めろって事ですか?」
「違うよ」
杏は真剣な声音で言う。
「これは皆にも言ってるんだけどさ、もしユイちゃんみたいに友好に見えるアンノウンが伊月ちゃんの前に現れても、躊躇しないでね」
「……するわけないじゃないですか、私が」
「するわけないとは思うよ。ただ、今日みたいな選択をしてくれたのは当たり前の事じゃない。だから心配になったんだ。伊月ちゃんは優しいから。それがもう表に出ちゃってるから」
本当に心配するような、そんな声音。
「……大丈夫ですよ。私を誰だと思ってるんですか」
「伊月ちゃんだよ。私の後輩」
「……大丈夫ですよ」
大丈夫じゃない要素など自分にはない。
……きっとその筈だ。
……きっと、大丈夫な筈だ。




