30 持ちつ持たれつ
「なあユイ。何か食べたい物とかあるか? 冷蔵庫の中何も入ってねえからこのまま買い出し行く予定なんだけどさ」
管理局内で軽く挨拶だけ済ませた後、鉄平はユイを乗せて軽自動車のアクセルを踏みながらそう問いかける。
「それかどっか外食でも行くか? 偶には外で焼肉でもどうよ」
「……なあ、鉄平」
明るく振る舞う鉄平とは対照的にユイは静かに言う。
これまで大丈夫なフリを頑張ってしてきたのが良く分かるような、重い声音で。
「ワシ、迷惑掛けてないじゃろうか?」
「……」
大体鉄平が想定していた通りの言葉を。
「あのディルバインという男の話を信用すればワシは結構ヤバい奴じゃ。いやそれは最初からワシも鉄平達も分かっている事だと思うんじゃけど……きっと今のワシは居るだけで迷惑が掛かる気がするのじゃ」
そこまで言った後、ユイはいやと自身の曖昧な言葉を否定してから言う。
「掛かるじゃろ。うん、掛けてる」
「……」
「ワシを狙ってワシみたいなのを送りつけてくる世界の人間がこの世界に来るかもしれないってそんなの……」
重苦しい言葉。
想定通りの言葉。
……だけど想定していたからといって、どんな事を言ってやる事が適切なのかは良く分からない。
それでも何も言わない訳にはいかないから。
何も言ってやれないなんて事にはしたくないから。
とにかく自分なりの答えを定めて紡いでいく。
「まず大前提の話だけどさ、俺個人としては迷惑だとは思っていないぞ。これはお前に気ぃ使ってるとかそういう話じゃなくてちゃんとそう思ってるからな」
「……うん」
「その上で他の人がどうかって話だけどそれは正直分からんし、迷惑なんて絶対掛けてねえよって言ってもお前絶対納得しないだろ」
「……」
そう簡単に納得しないからこそ、こうして思い詰めている訳で。
そんな気休めの言葉を言った所で多分きっと何も変わらない。
だからそんな事を言うつもりは無い。
「でもさ、そもそも人に全く迷惑を掛けずに生きていける奴なんて普通はいねえんだって。迷惑掛けたけどそれがどうしたなんて無責任過ぎる事を言えなんて言うつもりは無いけどさ、悲観し過ぎるのもどうかと思うぞ。大事なのは迷惑を掛けたとしてどうやってその分良い事で返してやれるかみたいな事じゃねえかな」
「……そりゃそうかもしれんが、でも事が事じゃぞ。もし本当にそんな連中が来るとして、どんな手を使ってくるか分からん訳じゃし……」
「まあそうだな。一般論で片付けて良いようなスケールでもないかもしれない。だけどそれで言えば、ユイは既に物凄く大勢の人の命を救っているんだ」
「ワシが……?」
「ジェノサイドボックスを倒せたのはユイの力があったからだろ。お前が俺達に協力してくれているから倒せたんだ。持ちつ持たれつって考え方をすればユイの抱えた問題は迷惑とかそういうの通り越して、皆で考えていかないといけないといけない事なんじゃないか? まあ赤坂さんも含めてそういう理由で助けてくれているんじゃないと思うんだけどさ、気の持ちようとしてはそれで良いんだと思う」
そしてとにかく、と鉄平は言う。
「前向きに行こうぜ。やべー奴らが来ても皆で協力してぶっ飛ばすみたいな。勿論俺も色々と協力するからさ」
「…………うん」
……とはいえ言った事が適切なのかも分からなければ、適切だったとしてもすぐに前を向いて元気になれるかと言われればきっとそれは違うのは流石に分かっていて。
きっとある程度の落ち着いた時間は必要だ。
(……根気良くやれる事をやっていこう。俺だけじゃ分かんねえことは皆に相談もして。とにかくユイにずっとこんな顔させてる訳にはいかねえ)
やれる事をやろう。
ユイが此処に居て良かったと自分が思っているように、ユイ自身も曇りなく此処に居て良かったと思えるように。




