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魔剣拾った。同居した。  作者: 山外大河
1-3 新しい日常 新しい非日常

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12 やるべき事を

「なあ風間! お前の姉ちゃんホントに放置してきて良かったのか? これやっぱお前だけでも残った方が良かったんじゃねえか!?」


 杏の指示通り、ジェノサイドボックスの反応に向かって柚子と共に走る鉄平。


 杏とはあの場で別れた。

 彼女が戦えない具体的な理由は知らない。聞いている余裕も無い。

 だがそれが事実なのは最初に挨拶に行った時の柚子の言葉や、魔術で身体能力を強化してこの状況下で元気な柚子や、ユイの力が流れ込んで来ている自分とは違い、自分の身すら守れていないのを見れば良く分かるから。

 そんな人をより危険な場所へと連れて行く訳にはいかない。


 だがその場に一人にしていくのも心苦しい。

 それでも隣を走る柚子は首を振る。


「いや結局倒す敵倒さないと何も解決しないんだから、こうしないと駄目なんすよ。それにまさか研修の一つも受けてない杉浦さん達だけで突っ込ませる訳にもいかないっすからね! 本当は戦わせるのも良くないのに」


「いやそれはそうなんだけどさ……でも良く割り切れるな。すげえよ」


 道中、倒れている人の隣を通り抜けるのにも、一々足を止めそうになる。

 ユイもそうだ。最初から元凶となる敵を探す事よりも、周囲の人間をどうにか助ける方法を探していた。


 どれだけこの先の敵を倒さないと解決しないと思っても、それでも足取りは重い。


(……いや、まるで自分達だけが重いなんて考え方は良くねえな)


 隣を走る柚子はきっと、自分達よりも心苦しい。

 何せこの状況で肉親が無防備に危険に晒され続けているのだ。

 足取りの重さは表情で伝わってくる。


「割り切れてなんかねーっすよ。正直な話、杉浦さんに向うの事任せて私はお姉ちゃんのとこ戻りたいんすよ」


「……」


「お姉ちゃんは一応元最強のウィザードっすから。魔術を使って戦う事に体が適応して、普通の人よりはこういう事に耐性がある。だけどそれはこの力を吸い取る黒い奴に対してだけっす。此処をお姉ちゃんの言う通り、ジェノサイドボックスの中だと表現するなら、それこそどんな攻撃を打ってくるか分かんないんすよ……だから近くで守ってあげないといけない」


「……じゃあほんと戻ったら良いじゃねえかよ。その方が良いだろ。こっちは俺達でなんとかしてみる」


『ワシからもそうした方が良いぞって伝えてくれ!』


「ユイもそう言ってる」


「……いや、駄目っすよ。結局それ、現実逃避っすから」


 柚子は一拍空けてから言う。


「お姉ちゃんや此処で倒れている人達を助ける為にはどうすれば良いか、自分の中の最適解はもう定まってるっす。ユイちゃんの時みたいに、どうする事が正解かも分からなくなってるみたいなのとは違うんすよ。だったら頑張って進まないと」


「……やっぱすげえよほんと」


「いや普通っすよ。この位は出来ないと駄目なんす」


「……その辺の覚悟の決まり方が、俺みたいな新入りとは違う訳だ」


「でも倒れている人や危険な状態の人を見て何とかしてあげたいって思う気持ちは絶対間違いじゃないっすよ。この先、やるべき事をやりつつ手が届く範囲で目を背けられない事があったら、頑張って手を伸ばして欲しいっす。まあユイちゃん助ける為に大立ち回りをしてた杉浦さんなら、言われなくてもそうすると思うっすけど」


「……まあな。その時はやれるだけの事はする。当然だ」


『いやでも無茶はしちゃ駄目じゃぞ鉄平! 無茶してもらって助けられたワシが言える事じゃないが』


「分かってるよ、ユイ」


「……それはそれとして、その状態でユイちゃんと会話してると独り言喋ってるヤベー奴に見えるっすね」


「今それ指摘する!? なんかお前も風間さんも真面目な時になると雰囲気変わるなって思ってたけど撤回するわ!」


「……よし、肩の力抜けたっすね。ナイス私」


「なんか狙ってやったみたいな感じ演出してるけど、絶対ナチュラルに暴言吐いてたよなお前」


『まあ仕方ないじゃろ。そりゃ端から見たら剣に喋りかけてるヤベー奴じゃよ』


「それお前が言ったらお終いだよな!」


「杉浦さん」


「今度は何!?」


「……今、一応続けてた私の方の探知が終わったっす。敵さん、まだ二階の奥の方から動いてないっぽいんで、一応報告しとくっす」


「マジか。お疲れ」


 と、そんな最新情報を耳にしながら、吹き抜けとなっているエリアでジャンプして二階へと上がり、先へと進んで行く。


「でも動いてないって、それだけジェノサイドボックスってのは悠長な動きしてくれんのか?」


「この建物内にしか手が届いてないから、まともに動こうと思える力がまだ無いのかもしれないっす。それか……誰かが交戦して食い止めてくれているか」


「後者だったらさっさと応援行かねえとな」


「どうであれ全力疾走っすよ……そして着く前に覚悟決めといて欲しいっす」


「覚悟?」


「此処から先の戦いは、何の配慮もしてくれないっすよ。私達の時とは違うっすからね」


「……分かってる、大丈夫だ」


 元より、ウィザードとの戦いの時点で敗北=ユイの死だったのだ。

 あの時点で生半可な覚悟で戦ってはいない。


 覚悟は十分だ。

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