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魔剣拾った。同居した。  作者: 山外大河
1-2 彼女が世界に馴染めるように

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13 今更だけど俺達は

 部屋を出る篠原を見送った後、静かにユイが問いかけて来る。


「なあ鉄平。蒸し返すようで悪いが、本当に良かったのか?」


「何がだよ」


「ウィザードとやらになるという話じゃ。ワシはさっき鉄平が良いならそれでいいとは言ったが……実は無理をしているとか、そういう事はないのかの」


 ユイが少々心配するように聞いて来る。

 直前でこれからやる事をはっきりと苦手と口にした事で、気になったのかもしれない……こちらが無理をしていないか。


 否、もしかしたら鉄平が良いならそれで良いと、鉄平の意思を尊重してくれた時から、内心心配はしてくれていたのかもしれない。


 ウィザードという職が危険を伴う事はユイも分かっている筈で。

 そしてユイは自分の身を差し出してまでこちらを助けようとしてくれたような奴だ。

 ユイを守る為にウィザードになろうとしているこちらの意思を尊重はしてくれていても、どこかで引っ掛かる所が有ってもおかしくは無い。


「いや、無理なんてしてねえよ」


「本当か? これから嫌な事もやらなければならないし、そもそも危ない事を続けていかないといけないのじゃぞ? 断るなら今の内じゃ。ワシ走って篠原さん呼び戻してくるぞ」


「いや断っちゃマズいだろお前色々と……」


「ワシが色々マズイのじゃろ。鉄平がじゃない」


「……」


 なんとなくこのまま無理をしていないと、大丈夫だと言い続けても平行線になる気がしてきた。


(何か納得してもらえるような言葉ねえかな。分かりやすく俺にメリットがあるとかそういうのが有ればそれを……ん、メリット?)


 ユイに安心してもらう為の材料を自分の中で探す中で、大きな見落としに気付いた。

 見落としにして、あまりに大きなメリット。


(あれ? え? マジか……マジかぁ……)


 そうして浮かんできた内容を鉄平は口にする。


「……いや、ユイ。今更だけどウィザードになるのを断ると、俺も色々マズい。というか勿体ない」


「ん? どういう事じゃ?」


「いや、考えてみたら俺……ウィザードになったら国家公務員じゃん」


 先程の話の中で、ウィザードが配属される異界管理局が国の行政機関である事は分かっていて、その特殊性も相まって自分では就くことができない仕事なのでは無いかと、そういう事ばかりに思考が割かれていた。


 その後はユイの為に。自分達の為に色々としてくれた人達の為に頑張らないといけないと、そう考えていた。


 この思考の流れの中で、杉浦鉄平が個人的に受けられる恩恵については後回しにして、殆ど何も考えていなかったのだ。

 そしてその中身が低賃金のアルバイトから国家公務員へのクラスチェンジ。


 それはきっと良い意味でとんでもない事なのである。


「確かに危険かもしれない。やりたくねえ勉強もしないといけない。でもとんでもねえ大出世じゃん俺」


 まだ雇用契約を確認している訳ではない。

 だが流石に今の現状よりは遥かに給料も高い筈で、世間体だって遥かに良い。


(狙ってなかったけど……こんな展開狙ってなかったけど、なんかすげえ事になってんじゃん! っしゃあっ! 俺ウィザード! 公務員! モチベーションマックス!)


 まるで遅効性の毒でも打たれたのではないかと疑う程に、テンション爆上がりである。


「な、なんか良く分からんが、ウィザードになるという事が、ちゃんと鉄平自身の為にもなるのじゃな。だったら……やっぱり止められんか」


「ああ、できれば止めないでくれ頼むから」


「頼まれちゃったぞなんじゃこれ……」


 少々困惑するようにそう言うユイの前でひとしきり喜んだ後、少々落ち着いてからユイに言う。


「まあそんな訳で俺にもメリットは有った。これでウィンウィンな関係って事になるだろ」


「じゃな。良く分からんが……鉄平が滅茶苦茶嬉しそうだから良いかって感じじゃ」


「良い良い最高……ほんと、あらゆる事が全部良い方向に転がってる」


 自身が安定した職に就けるという些細な事から……ユイの安全が確保できるという大きな事まで。

 本当に……本当に全部うまく行ってる。


(なんかほんと、全部全部大勝利って感じだ)


 そうしみじみ考えて、余韻に浸って。

 それがしばらくして落ち着いた所で鉄平は言う。


「ま、色々と良い感じって事で、この話は一旦終わりで」


 篠原さんとの会話から一気に自分達を取り巻く事柄が進んだように思えるが、一つ置き去りにしている事がある。


「ところで、ユイ」


「なんじゃ?」


「篠原さんを呼んだ後、お前二人で話したい事があるとか言ってたよな。今二人になったんだ。今のうちにしておこうぜ」


 篠原さんを呼んでから到着までの間にユイに体調の事とかの話はできたけど、その辺は二人で話さなければならない内容でもないだろう。


 だからまだ重要かもしれない話を何もしていない。

 色々と事が進みだした今、聞けるタイミングで聞いて置いた方が良いのかもしれない。


 だがユイは言う。


「そうじゃの。じゃが別にそんな真面目な話をするような雰囲気で始められてもちょっと困るのじゃ」


「ん? 真面目な話じゃないのか?」

 

「ん、普通の雑談じゃが?」


「え、マジかよ……いや、良いんだけどさ。てっきり大事な話でもあるのかと……」


「大事な話ではないかもしれんが、大事な事じゃよ」


 ユイは一拍空けてからこちらの目を見て言う。


「ワシは鉄平の事を良く知らん」


「……」


「あの時最初に鉄平に助けられてから、篠原さん達ウィザードと戦うまで、多分ワシらは最低限のコミュニケーションは取った。じゃが最低限じゃ。ワシは鉄平が優しい良い奴で根性もあって苦いコーヒーが好きな事……あと貧相なワシの体じゃ物足りんくて、あの本に載ってた、なんというか……えーっと、凄いのがタイプという事しかしらんのじゃ」


「だいぶ偏ってんなぁ。しかも後半のどうでも良い部分の情報量が多い……」


「情報植え付けたのは鉄平じゃろう」


「お前が変な事言い出すからだろ……でもまあ、そうだな」


 改めて振り返る。

 自分達は互いに知らない情報を埋め合うような会話はした。

 当然そうでない会話もしてはいたが、今の関係性で居るにしてはあまりに少ない。


「俺達には圧倒的に会話が足りていない」


 今後背中を預けていくようなパートナーの事を、自分達は互いに何も知らないのだ。


「そうじゃだからワシは……難しい事を考えずにゆっくりと、何気ない普通の話がしたい。杉浦鉄平をもっとワシに見せてくれ」


「じゃあ俺もお前の事をもっと知らねえとな」


「ワシの場合何も覚えておらんから、多分何も出て来んぞ」


「出てきてんだろ甘い物が好きだとか、そういうの。お前も知らねえなら見付けていこうぜ」


「確かに。じゃあ一緒に見付けてくれんか」


「おうよ……じゃあ雑談するかぁ!」


「雑談するのじゃ!」


「…………いや、でも雑談するかて始める雑談って何だよ。そんな入りある?」


「いや知らんが、だいぶイレギュラーじゃろこれ」


 ……とにかく。

 とにかく今後共少しづつ、互いの事を知っていく事になるのだろう。


 こうして始まったのだ。

 杉浦鉄平のウィザードとしての生活が。

 素直で優しく喋り方の癖が強い、そんな剣の少女との生活が。

面白いと思って頂けたら☆☆☆☆☆で応援してくれると嬉しいです。

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