先輩とコーンプスース
今回はよく似たタイトルのお話を連続で投稿しています。
こちらは後編になりますので、ご注意ください。
「先輩。なんかおもしろい話してよ」
先輩がコーンスープを飲み終えてしばらく、ようやく血の気は収まったけど、やることもなくなってしまったあたしは言ってみた。
「またかよ」
先輩は再びさっきみたいなへの字な顔をした。
「だってこないだのはおもしろかったじゃないですか」
なぜだか黒板を舐めさせられるなどという摩訶不思議なことになりはしたが、とっても楽しかったのは間違いない。
実績を作ったのなら期待されて当然。あそこで律儀にちゃんとおもしろくしてしまったのは悪手でしたね。先輩。
「お前なあ……。ん~おもしろい話ねえ……」
眉間にしわを寄せ、首をちょっと右に傾ける先輩。やっぱりなんだかんだで結局お願い聞いてくれるのだ。わくわく。
そうして、周りをゆっくりサーチしていた視線が空になったコーンスープの缶あたりでしばらく止まると、
「ん~……、じゃあクイズなんてどう?」
今回は始めっからにやりほくそ笑んでいる。自信ありの様子。
きたーーーーーーーーーーーーー。
「クイズ!!!! どんな!?」
あたしの目は今一点の曇りもなくきらっきらに輝いていることだろう。
「四択だ」
「四択!」
先輩の四択クイズ。期待しかない。
そうしてさっそく先輩はコーンスープの缶を手に取ると、
「じゃー問題です。じゃんっ! 私が今飲んだこれはな~んでしょ~うか?」
あたしに見せてにんまり問うてきた。
「ん? コーンスープですよね?」
それ以外有り得ないのでそう口に出たんだけど、先輩はさらりと流して、さらに続けた。
「うん。でも四択だから。じゃあまず一番な。選択肢の一番は『コーンスープ』、です」
「はい」
そうだよね。思いっきりとうもろこしの絵だし、それのスープだし。今飲んでたし。一体なんだろ。
しかしやっぱり先輩のクイズだけあった。
「んで二番。二番はねえ、『コーンプスース』、です」
謎選択肢が現れた。
「プスース!?」
「コーンプスースです」
にやにやの先輩。コーンプスースとは。あたしが知らないだけで、コーンプスースなるものが世の中には実際にあったりするのか? いやないだろ。
そんなあたしの心の中を読んでいるかのよう、不気味な不敵な笑みで先輩は続けた。
「んで三番の選択肢は『コーンスプッププー』です」
「コーンスプッププー!!!!」
「うん。コーンスプッププーです」
コーンスプッププー。絶対ねえ。あったとしたらコーンのスプッププーってことなんでしょ? なんだよスプッププーて。意味分かんねえ。なんだこのクイズ。さすが先輩。
そして最後、運命の選択肢、
「じゃあ四番ね。え~四番は~……」
とここまで言った先輩の顔がいきなり大崩壊、
「コーンプッススプッスププッスーーーーススーーーーープップースプッスープッスーープププッスプップップーーーーープスッスススプスプーーーーーーーッススッスーーープッスッスププップスープップッススプーーーッスーーーーースププップップププププーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!!。です」
白目を剥き泡を吹き、あわれこの世のものでなくなってしまったかのようなあれほどまで激烈に荒ぶりほとばしっていた狂気は、最後の『です』によって一瞬でその存在が一切無かったことにされた。
こんなの笑う以外の選択肢がない。
「先輩バカでしょ」
「まあ四番はそんな感じなんだけど、んじゃ答えはどれでしょ~~~~~~うか?」
本人も笑いを堪えきれてないじゃん。言葉にぷすぷす変な音が混じってる。
なるほど。このクイズの趣旨を理解した。
というわけで、
「え~っと四番がよく聞き取れなかったんでもう一回お願いします」
「コーンスースプップスップスプープッススップスップスプップスースッスプププププススースースーププップースプスップスプスッスススッスプースッスップーププスーププップススッスッスッススッスププープープープープープースプッスププップップップップップッスープスススッスプーッスッスーーーーーーーーーーープ!!!!!!!!!!!!!!!。です」
『です』でいきなりすんってなるのやめてほしい。
「さっきと全然違うじゃん!」
音も違うしリズムも違うし顔の曲がり方も全然違う。
「いやそれは別に違ったっていいんだよ」
いいわけないような気がするけど、先輩は笑いながら続けた。
「例えば『モモ』って日本語だけど英語では『PEACH』じゃんか。言葉は違うけどそれらが指してるものはどっちも産毛が生えたピンクのおしりみたいなあの果物で同じなわけじゃん。だからこれも同じで、言葉がちょっとぐらい変わってたとしても、私が指し示したいもの自体は前のでも後のでも変わってないんだからその辺は問題じゃないんだよ」
「んんん????? じゃあなに? 四番のスッププスッププ言ってたのが先輩的にはコーンスープのこと指してたんだとしたらそれが正解ってことなの???????」
「コーンスープが正解かどうかは言えんけど、仮にもしそうだとしたらまあそうなるな」
「んな!!! じゃあそんなん二番でも三番でも先輩のさじ加減次第で正解にもなるし、一番のコーンスープだって先輩的には他の違うもんだってなったら不正解になんの?????」
「いやお前コーンスープはコーンスープだろ」
先輩は、お前は何を言ってるんだという顔をした。
「じゃあ一番が正解じゃん!!!!」
「いやだからそれは出題者の口からはまだ言えませんよ」
「いやでも一番以外ないじゃん!!!!」
そう詰め寄ったところ、
「じゃあお前そんならちょっとばかしヒントをやるよ」
そう言うと、先輩は例の『黒板の話』のときに見せた、これ以上ないってぐらいのとびきりのうさん臭い顔になった。そして、
「正解かどうかは置いといて、四番を選ばないとあなたスッププスッププ叫べませんよ?」
「!!!!!!!」
!!!!!!!!!!!!!! そういうことか!!!!! 叫びたい!!!!! スッププスッププ猛烈に叫びたい!!!!!!! 先輩みたいに頭蓋骨までひん曲げて心のまま思うさま己の全てをさらけ出して狂ったようにスッププスッププ叫びたい!!!!!!! だが正解はどう考えても一番!!!!!! 一番じゃスッププスッププ叫べない!!!!!!! 畜生!!!!!! またしてもハメられた!!!!! 畜生!!!!!! 先輩め!!!!!!
あたしのそんな動揺ぶりが顔に出てしまっていたのか、先輩はさっと素早く先回りして釘を刺してきた。
「でもお前スッププを関係ないところに無理やりねじ込もうとするのはそれ違うからね」
「!!!!!!!」
「例えばそうだねぇ、『正解は一番のコーンスープだと思うんですけど、四番のコーンスプププスプップーーーーーーースッスプスプッスップーーーースプップススプププップッスススプススッスップスッスップーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!! も合ってるような気がするんですよね~』、みたいな不自然なのとか。そんなの真のスッププじゃないからね」
「………………」
確かにその通り、先輩の今のスッププにはキレがなかった。威勢も頭蓋のねじれもさっきまでと同じか、むしろそれ以上だったのに、なんかこれじゃないって感じだった。なんか無理して狂人を演じる普通の人って感じで、魂を全く感じなかった。こんなスッププはスッププじゃない。スッププの皮を被ったまがい物でしかない。あたしも追い詰められて焦ってるとはいえ、それぐらいのことは分かる。
くそう! 先輩め!
「ほらほら。正解は?」
正しき道を歩もうとしているか弱き子羊の前に現れた悪魔。
「ほれほれお前我慢してないで早く気持ちよくなっちゃえよ」
なんて邪悪な笑みだろう。
あたしに人の道を外れ、快楽に身を委ねよとそそのかしてくる。
「なぁなぁ~。ほらぁ~ほらぁ~」
必死に耐えるあたし。
正解は紛れもなく絶対に一番。どんなことがあったって四番じゃない。そんなこと分かってる。
分かってるのに。
でも。
悪魔はあまりにも強かった。
ふいに彼女は態度を一変させた。
両手萌え袖に持たれたコーンスープの缶で口を隠しながら、潤んだ上目遣いで、
「なあ……。お前私とスッププしたくないのか……?」
最低最悪に極悪で狡賢い化け物。
人が抗えるような相手ではなかった。
あたしは魔法をかけられてしまった。
人にはその魔法に抗する術がなかった。
だから仕方なかった。
そう言うしかなかった。
「答えは四番のコーーーーーーーーーンプスッスプッププップッスプーーーーーーーーーーースッスッスププップッススップスプップーッスプーッスプープッスプップスッスーーーーッススッスプップーププスースプップップッススススッスププスッスプープップップップススプッププスプッスープスププースププースプープースープスッスープスッスッスププップスッスプスプッププププスッスーープッスーーーーーーースプッスススプププープープーッススププップススプップスプップーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!!。です」
先輩のその目の輝きを見れば分かる。
あたしの頭の曲がり方がそれはもうとてつもない並外れたものだったってことが。
そうして先輩は一切の穢れなき瞳で顔中興奮ではち切れそうにして叫んだ。
「ざんねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!! 正解は一番のコーンスープでしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「知っとったわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
負けて悔いなし。
心の底からそう思えた。




