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先輩とPK

「おい!! PKで勝負しろ!!!」


「なんでだよ!!!」


 次の相手はこれまた先輩と同じクラスらしい、一人だけユニフォームが蛍光グリーンのポニーテールの人。サッカー部GK女子。


 ぱっちりお目目に健康的な小麦色の彼女はこれまでで一番喧嘩腰だった。


 というのも彼女も結構な脳筋で、並外れた身体能力を誇る先輩に対し、並々ならぬ対抗心を持っているからとのことだった。


「私ものすごい怪力になったんだ」


「何言ってんだよ! 全然変わってねえじゃんか!」


「だっ! かっ! らっ! 見た目ゴリラのゴリラなんて面白くねえだろって何度言わせんだよ!」


 五度目にこの相手でついに切れた。


 でもさすが今回の相手は先輩のライバル、一味違っていた。


「意味分かんねえよバカヤロウ! ゴリラはゴリラだからいいんだろ! お前動物園行ってゴリラって書いてある檻でチンパンジーがバナナ剥いて食ってたらキレんだろ!」


 ポニテGK先輩は怯むことなく先輩に真正面からぶつかっていく。


 その後もゴリだのチンパンだののどうでもいいことで言い争っていたけど、落ち着いたところでようやく勝負開始となった。


「ド真ん中蹴るかんな! 避けんなよ!」


 ボールに右足を乗せたセーラー姿の先輩がGK先輩に人差し指を向けて宣言した。


「はあ!? お前PKのルール知ってんのかよバカヤロウ!!」


「お前ごとゴールに叩き込むって言ってんだよバカヤロウ!!」


 仲良さそうでなにより。


 サッカー部員さんたちは皆GK先輩を応援するかと思っていたんだけど、意外なことにうちのパイセンに送られる声援の方が多かった。お遊びだし、まあそれだけGK先輩が他の部員から信頼されているということなのかな。


 先輩も黙ってればかわいいしちっちゃいし、判官びいきみたいなのもあるかもしれない。あたしの友達の子も面白がってパイセンの方に黄色い声を送っていたんだけど、でも今日の一連の人間を超越した何かっぷりを見せたら、そんな考えなんて一瞬にして百八十度ひっくり返るはず。


 あたしはもちろんGK先輩頑張れを鬼連呼した。いい加減ここらで先輩の宇宙にまで届きそうな鼻っ柱をへし折っといてもらわないと困る。


 と、賑やかな歓声が飛び交う中、先輩がゆっくり動き出した。


 喧噪は途絶え、一転、緊迫感が張り詰めた。


 先輩はボールから五メートルぐらいの位置まで後ずさりした。


 そして手をぶらぶらさせながらぴょんぴょんとジャンプした。


 準備は完了。


 先輩は右足を前に出して腰を落とし、助走の構えをした。


 GK先輩もそれに対し手を大きく広げて腰を落とし、リズミカルにおしりを揺らした。


 先輩が右手を上げたのが合図!


 戦いの幕開け!!!


 あたしも気合を入れて集中力MAXで見守っていたせいか、視界がサッカーアニメのハイライトシーンみたいな残像付きのスローモーションになった。


 先輩!! 先輩! 先輩…… 先輩…………


 スタートから全力ダッシュ!! ダッシュ! ダッシュ…… ダッシュ…………


 GK先輩のおしりが

 止まった!! 止まった! 止まった…… 止まった…………


 腕を振り、膝を上げ、一歩、二歩、三歩、着実に距離が

 詰まる!! 詰まる…… 詰まる――――


 力強い左足がボールの真横に到達した――――


 もう一方の右足は真後ろへ大きくしなった――――


 スカートが膝下丈なのでパンツは見えない――――


 もっさい制服に感謝――――


 高々と限界一杯の頂点に達した右足――――


 青空のキャンバスとダークブラウンのローファーのコントラスト――――


 その足先が今度は下へ向かって弧を描いた――――


 ローファーの甲が地に静止するボールに叩き付けられた――――


 恐るべき脚力によって三日月状に圧縮されるボール――――


 靴はさらに容赦なくねじ込まれる――――


 ついにこらえきれなくなったボールは凄まじい速度で射出され、

 右足は勢いそのまま高らかに振り抜かれた――――


 やっぱりパンツは見えない――――


 もっさい制服に感謝――――


 とてつもない威力のボールが空間を切り裂く――――


 真っすぐ向かう先はGK先輩――――


 一段と腰を落とし、それを受け止めんとするグローブは胸の前――――!!


 轟音で突き進むボール! ボール!! ボール!!! ボール!!!!


 構えるGK! GK!!! GK!!!!!! GK!!!!!!!!!!!!


 と、あまりのパワーのせいかボールはGK先輩の目前で急激に浮き上がり、彼女の頭上のクロスバーを直撃した。


 そしてその跳ね返ったボールが今度は先輩を襲う。


 向きだけ反転された凄まじいエネルギーは先輩のおなかに命中。瞬間、軌道はまた上方へと向きを変え、先輩の体は瞬く間に大空の彼方に消え、昼間に輝く星となった。


 怒涛の展開に全員空の先を見つめたまま。


 こんなことどうしていいのかわからない。みんな口は開いているのに言葉は出てこない。


 しばらくは誰も動けずに固まっていたんだけど、でもやっぱり最初に声を上げたのはこの中で一番偉い人、サッカー部の部長さん。


「……はーいじゃあ休憩終わりなー。練習さいか~い」


 パンパンと手を叩いて今の出来事を無かったことにした。


 まあ自分が蹴ったボールで自分が吹っ飛んでったんなら仕方ないよね、となるのは当たり前の話。


 あたしも友達に「練習頑張ってね~」と別れを告げると、焼きたてアップルパイが待つ調理室へ向かった。


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