先輩と旧七不思議
「お! ハンバーグいいじゃん! 唐揚げと交換しよ!」
あたしの昨日の夕飯の残りのハンバーグとサッカー部ちゃんの唐揚げが一つずつ、交換されることとなった。
サッカー部ちゃんちの唐揚げはさすが育ち盛りの運動部の娘さんというだけあるのか、一個がでかい。ジャンボサイズだ。
というわけで、当然、彼女の弁当箱もでかい。
ご飯をもりもりおいしそうに食べる女子もいい。それをおかずに食べるご飯は一層おいしい。
その脇で、料理部ちゃんの春巻きとバスケ部ちゃんのエビフライもトレードされていた。
女子が仲睦まじくしてるのもいい。それをおかずに食べるご飯はひときわおいしい。
そんな天国みたいなお昼休み。その楽しいおしゃべりの話題は。
「そういえばさあ、さっき新しい七不思議の話したじゃん。でも、それの前にあった古い方の七不思議もあるんだって」
サッカー部ちゃんは今度はあたしに決め打ちではなく、みんなの顔を見回して問いかけた。
七不思議という言葉が出た瞬間、さっきの話をまた蒸し返されるのではと身構えたんだけど、どうやらそうではないらしい。ちょっと安心。
「あ~それ私全部じゃないけど少し知ってるかも」
「私そのうちのいくつか実際に体験したって人知ってる!」
バスケ部ちゃんはそう声高に前のめりになった。
「へ~あたし知らないねえ」
あたしは初耳だ。まああたしには七不思議なんかよりよっぽど摩訶不思議な人が身近にいて散々振り回されてきたので、その手の話はお腹いっぱいもうこりごりというのもある。実在する人間の方がよっぽど奇天烈なんだし、ちょとやそっとの作り話ではもはやあたしの心はびくとも動じない。さっきだって知らない話かなと思いきや、思いっきり知ってる話だったわけだし。
「じゃああたしも全部は知らないからとりあえず知ってるやつだけな」
サッカー部ちゃんがハンバーグを箸で挟みながら、まず一不思議目を。
「うんとね、なんかこの学校カッパが出るんだって」
…………。
「あ~それは私も知ってるやつだよ。しりこだま……? とかいうのを探して悪さするカッパのお皿を野球部の人が金属バットで叩き割ったみたいなのだよね?」
と、料理部ちゃん。
いやそれ剣道部の木刀だし。
「え? 私は園芸部のクワで耕されたって聞いたよ?」
と、バスケ部ちゃん。
いやそれ剣道部の木刀だし。
「いやあたしは剣道部のハッカーにデカい知恵の輪で殴られたって聞いたけど?」
と、サッカー部ちゃん。
惜しい! なんかいろいろ混ざり過ぎ!
なんかもう。
違う話だと思ったら、結局また同じ奴の話らしい。
いやマジでなんなのあいつ。伝説作りすぎだろ。
てか全然古い話じゃないじゃん。それたった数か月前の話じゃん。古い七不思議とか言ってんのに歴史が浅すぎる。
でもまあこの様子からすると、これもまたうちの先輩の話でした、ということはみんな知らないらしい。ということで、これ以上先輩の評判を下げるのもなんだし、あたしにまた流れ弾が飛んできても困るし、ここは当たり障りなく流しておくのが吉だね。
「へ~、そうなんだ~。ってこの唐揚げおいしいねえ。でっかいのに柔らかくてジューシーですごくいいよ~」
「そでしょ~。うちの唐揚げおいしいんだよ。で、お前んちのこのハンバーグもうまいな~。これってもしかして牛しか入ってない感じ?」
「そだよ~。合挽きの時もあるけど、昨日は牛だけだって」
とりあえずは無難にやり過ごした。しかし、話は七不思議なので、あと六つ残ってる。まあそのうちのもう一つか二つくらいは先輩の話だとしてもおかしくない。引き続き警戒していかねば。
ということで、二不思議目も引き続きサッカー部ちゃんが。
「二つ目は、メスゴリラの幽霊がセクシーポーズで誘惑してくるって話」
…………。
「へえ。それ私知らないなあ」
と、バスケ部ちゃん。
まあセクシーなゴリラなんているわけないしね。
「私が聞いたのはそれは本物のゴリラじゃなくてゴリラみたいなゴツい女の人の幽霊だって」
と、料理部ちゃん。
ゴリラはゴリラだけど全然ゴツくないとってもかわいいゴリラですぞ。
ということで、二つ目も先輩だった。
これあれだ。これ多分また全部先輩のやつだ。一体どういうことなんだ。
しかもこれつい最近じゃん。先輩のこの着ぐるみの件って新七不思議の話のすぐ直前だし。旧版が大当たりだったんで、熱が冷めないうちに急いで二作目を出したみたいな感じなのか?
てかそれよりゴリラなんてそんな海外生まれのエテ公が日本の学校うろうろしてんのおかしいだろ。それにセクシーな幽霊って、種族違ってるけどさっきの新版のやつと話被ってるし。そこは不思議に思わないんかい。
そう叫びたいのをぐっとこらえつつハンバーグを頬張りながら、次の話し手、料理部ちゃんによる三不思議目を聞く。
「三つ目は、顔が十字みたいになってる西洋の鎧の騎士が雷に撃たれて死んだんだけど、成仏できなくて夜な夜な廊下を徘徊してるとかっていう話だよ」
…………。
「へえ~」
とのことなので、バスケ部ちゃんはこの話も知らないらしい。
そうだね。雷には打たれたけど死んでないしね。
「あたしそれお餅が喉に詰まって死んだって聞いたな」
と、サッカー部ちゃん。
うん。それは多分お餅じゃなくてぶどうのグミだね。
しかし死因の日は違うけど、鎧はこれまたゴリラと同じ日のやつじゃんか。そりゃまああんだけ凄まじい轟音と振動だったんだもん、様子を見に来た人がいたとしても不思議ではないか。
てか西洋甲冑が日本の学校うろうろしてんのおかしいだろ。それに餅食って窒息死って完全に和な死に方じゃん。そこは不思議に思わないんかい。
そう叫びたいのをぐっとこらえつつ、ブロッコリーをかじりながら、バスケ料理部ちゃんによる四不思議思議目を聞く。
「四つ目は私の先輩が実際に見たってやつだよ」
ほう。バスケ部ちゃんの先輩。バスケ部といえばうちの妖怪の友達のあの美人もそうだよね。 うん。嫌な予感しかしないね。
「なんかね。アラクネっていう蜘蛛の怪物に遭遇したんだって」
…………。
「なんかこの世のものとは思えない恐ろしい叫び声上げて走り回るってやつでしょ?」
と、料理部ちゃん。
「あたしはその蜘蛛の妖怪はジョロウグモってやつって聞いたな」
と、サッカー部ちゃん。
彼女らはさらに蜘蛛の怪物についてああだこうだ言い合った後、次の五つ目へ。
「五つ目も私の先輩が実際に見たそうなんだけど、十本足の怪物が恐ろしい叫び声上げて走り回ってたんだって」
…………。
「私はそれ知らないねえ」
と、料理部ちゃん。
「それクラーケンっていうイカの化け物って聞いたぞ。それの元のモデルはイカだったりタコだったりするらしいな」
と、サッカー部ちゃん。
彼女らはさらに魚介の怪物についてなんだかんだどうのこうの言い合った後、次の六つ目へ。
「六つ目も私の先輩が見たやつで、足が六本のケンタウロスの石像が恐ろしい叫び声上げて走り回ってたんだって」
…………。
「それはスレイプニルっていう六本足の馬の怪物の上半身が人になったのじゃないかって」
と、料理部ちゃん。
「へえ~そうなんだ」
と、サッカー部ちゃん。
なんてこったい。
先輩が実はだいぶアレな人だっていうのはわりと周知されてきてるんだけど、あたしまでそう思われたらかなわん。
あたしは素直で大人しい品行方正なとてもよい子とは言わないまでも、あの部屋以外ではまあ特に問題児でもないごくごく平凡な普通の子で通ってるのに。
日々イカれた先輩に振り回されてるかわいそうな後輩なはずが、今の三つの話の半分があたしだったと知れた日には、あたしも同類だったんだと思われてしまいそうではないか。
さらに、これまでの十三不思議は全部うちの部絡みなのに、先輩が一年のときのものは一つもないというのも非常にまずい。
これではまるで先輩は二年になってからおかしくなってしまったという感じではないか。
なんかあたしと知り合ったせいで先輩が変わってしまったという感じではないか。
まるであたしがそそのかしたせいで先輩が悪い子になってしまったみたいではないか。
極めつけにおかしい人ではあるものの、熱狂的なファンも多い人なのだ。
彼女を悪の道に誘い込んだのはこいつだと捕まえられ吊し上げれられて糾弾されるんだけど、いや元からいかれた人だったぞ、とのあたしの言い訳なんか一切聞く耳持たれずに、問答無用で即刻処刑されてしまう未来しか見えない。
ヤバいなんてもんじゃない。
そんな悲惨な死を遂げてしまったのなら、今度は正体全部あたしの真完全版七不思議を作り出してしまうこと必至だ。
突如降って湧いた危機に激しく焦りながら米を貪り食っているところへ、
「へ~。じゃあ最後の一つ知ってるの私だけなんだね」
と、料理部ちゃんからついに旧版最後の七不思議、計十四不思議目が。
「えっとなんかね、これは今までのちょっとなんか嘘っぽい感じの話じゃなくって本当にヤバいらしいって話なんだって」
いつも柔和な料理部ちゃんが本気の怪談を話すときみたいな迫真の表情になった。こんな顔する彼女、初めて見た。なので、当然他二名の顔からも緩みが消えることとなった。彼女らは箸を止め、固唾を飲んで彼女の次の言葉を待った。あたしも引き続き米をかっ食らった。
「なんかね、昔告白したんだけど振られちゃった子がいてね、その絶望でガソリン被って火をつけて焼身自殺しちゃったらしいの」
うお! なんか最後に本物っぽいの来た。なんかすごい七不思議としては普通っぽいやつ。
確かにあの時はそんな状況だったけど、その後の話なんてまったく聞いたことがない。だから、あの後あの子がガソリン被ったなんてそんな派手な話になっているはずがない。だったらこれはガチのマジで普通のよくある七不思議っぽいやつっぽいんじゃん?
料理部ちゃんはその表情を微動だに動かすことなくさらに続けた。
「それでね、その事件の後から、顔が見るも無残なほどに真っ黒に焼け焦げてぐちゃぐちゃになった女の子が向こうの校舎をものすごい叫び声を上げてものすごい速度で四つん這いで走り回るのが目撃されるようになったんだって」
「なんそれこっわ」
と、サッカー部ちゃん。
「そんなん嘘だろ~」
と、バスケ部ちゃん。
その笑いは引きつっている。まあ顔面にパンストを被った人ほどじゃないけど。
ふーん。なるほどなるほど。
へー。こりゃまたえらい尾ひれが付いたもんだね。
でもへー。この話バスケ部ちゃんが知らないってこたあ、やっぱりあの時のあたしはバスケ先輩に認識されてなかったことでいいってこったね。
それらの怪物には下の人なんかいなかったってこったね。
うちの先輩が六本足か八本足か十本足になったみたいな感じで。
そんなんあの人なら全然有り得るし。
セーーーーーーーーーーーーーーーーーフ!!!!!!!!
あのときのあたし、セーーーーーーーーーーーーーーーーーフ!!!!!!!!




