先輩と新七不思議
「うちの学校に新しく七不思議ができたのって知ってる?」
始業前、友達といつものように楽しいおしゃべり。
その冒頭、サッカー部ちゃんがあたしの目を見つめて問うてきた。
でも、その笑みにはなにやら含みがある。
「なになに?」
料理部ちゃんとバスケ部ちゃん、いつもの二人も興味しんしん。
「知らないけどなんだその目つきは」
健やかな小麦色の笑顔に似つかわしくないあやしい眼光だ。一体なんぞや。
「あのさあ、とある教室がかなりヤバいことになっててその七不思議ってやつが全部その部屋で起きたことなんじゃないかって話なんだけど」
「なぜそんな話をあたしの目を見て聞いてくるんだい」
そう答えはしたものの、思い当たるフシがないでもない。あたし、ちょっと知り合いに妖怪がいるもんで。
それを聞くと、サッカー部ちゃんはさらににまにまを増して、
「昨日さあ、なんか学校終わった後だいだらぼっちみたいなのが出たらしいじゃん」
「ああ……」
テスト前で部活はお休みとはいえ、やっぱりあの図体じゃ目撃者がいないはずなかった。
「そのくそでかい黒髪の美少女が正座して屋上に手をついて向こうの校舎の四階のとある教室をじっと覗き込んでたらしいんだけど」
「はい……、それうちの先輩ですね……」
「だよな! やっぱりあの先輩だよな! その前は青くて角生えてたしあの先輩なら巨大化もあるよな!」
サッカー部ちゃんの目は今、嬉々と輝いている。他二名も。
「なんか分身魔法がまた失敗してそのうちの一人っちゅうか一匹がアレだったんだよ」
そう言ったら意味不明が過ぎると爆笑だったんだけど、こっちは危うく死ぬとこだったんだからな。先輩は比類なき美貌で信奉者は多いけど、それに見合わぬ常軌を逸した奇矯ぶりは当事者としては本当にたまったもんではないんだからな。
「それが七不思議の一つ目だって」
目尻の涙を拭いながら、サッカー部ちゃんが続けた。
「うん」
「それで二つ目はその教室にセクシーな幽霊が出るとか」
「それも多分分身した先輩ですね。なんかスケスケとか言って迫られたよ」
「なんだよそれ!」
本当になんなのか。そんなのあたしが聞きたいぐらいだよ。
「じゃあ三つ目。その部屋には蛇女も出て、そこに入った人を絞め殺そうとしてくるとかいうのは?」
「それは間違いなく先輩だよ。あたしそれで死にかけたよ」
「なんでだよ!」
だからあたしだって分かんないよ。ハーレムで危うく死にかけるとかわけ分かんないよ。
「四つ目、のっぺらぼうが出るっていうのは?」
「それも先輩の分身だね。顔無いもんだからテレパシーで話しかけられたよ」
「ええ!? あの超かわいい顔無くなっちゃったの!?」
バスケ部ちゃんがくわっと目を見開いた。彼女もうちの先輩かわいい会いたいと常々言っている者のうちの一人である。
「うん。なんか自分の顔に自分の顔の写真貼り付けてたりしてたよ」
「それでいいんか!」
いいらしいんだからしょうがない。
「まあそんな人だから全然ビビることないよ」
バスケ部ちゃんには、先輩とお話ししたいんならうちの部屋来ればいいじゃん、と言ってはいるんだけど、陽の者な見た目でも内側はシャイで人見知りという彼女なので、未だそれは実現していない。
そうして、『いずれ行くわ』との言質を取ったところで、脱線した話はまた元に。
「それじゃあ五つ目、ろくろ首が長い首巻き付けて絞め殺そうとしてくるとかいうのは?」
「もちろん先輩でござるよ。てかそれろくろ首じゃなくてのっぺらぼう先輩と蛇女先輩が合体したやつでござるよ」
「どゆこと!? 分身したり合体したりってあの先輩スライムかなんかなの!?」
確かに分身も合体もしてたけど全然違うな。そんなのよりもっとヤバい何かだよ。
「六つ目、青鬼が金棒で殴りかかってくるってのは?」
「あ~、それも多分先輩じゃないの? 分身前はなんか青っぽくて角生えててこん棒持ってたじゃん。まあ殴りかかってはこなかったけどね」
へ~。悪魔先輩は一日経ったら青鬼ってことになってたんだ。金棒じゃなくて木の棒とか、角の形とか、細部は微妙に違うけどまあ似たようなもんだし。噂ってこんなふうに変わっていくもんなんだな~。ほ~。
この姿の先輩はみんなも実際に見ていたので、すんなり納得してくれた。百聞は一見に如かず。同時に、これまでのあたしの話も荒唐無稽なでたらめではなく、どうやら真実のようだと理解してくれた。もちろん、理解されたのはあたしの話が嘘じゃないってことだけで、話の内容自体はまったくもって理解不能だとのことだったんだけど。
ということで、最後。
「じゃあ七つ目、赤鬼最強伝説とかいうやつ」
「ん?」
「なんかとんでもなくイカれた赤鬼がいて、そいつがめちゃくちゃ大暴れして今までの六体の妖怪を全部まとめてボコボコにして地獄送りにするぐらいで、もうとにかく他の化け物なんかちょっと比べ物にならないレベルで一番ヤバいって話」
ん?
と、そこで教室の前側のドアが開かれた。
「ん~あ~そうだねえ。それは知らないなあ。赤い鬼なんて見たことも聞いたこともないねえ。……ってほら! 先生来たよ! あ~も~一時間目から数学とかきついわ~。きついわ~」
ちょうどいいタイミングでこの話は終わりとなった。
赤鬼。
赤い色の鬼。
思い当たるフシが……………………ある!
それがあの時のえんじ色のジャージを羽織ったあたしだとすれば、辻褄が合うような気は、する。死ぬか生きるかで顔も真っ赤になってただろうし。
だが!
あたしは角も生えてないしこん棒も振り回してないし!
とんでもなくイカれてもないし最強でもないしヤバくもないし!
ボコったのも全部じゃないし蛇とのっぺらとろくろ首だけだし!
あの場の地獄ってのもおみやげの温泉饅頭のことだし!
うん。
全然違うじゃん。
あたしじゃないね。
あたしはただのごく普通のか弱い一女子!
絶対違う!
そんな怪物あたしなわけないから!
うん。
あたしじゃない。




